289 昭人覚醒?
「どうなってるんだ?」
「いや、私にも解らない」
歌が苦手と聞いて一曲だけ聴かせてもらおうと、船内のカラオケボックスに二人で入った。
和也が、選んだのはバラード。
真奈美も好きな曲だ。
「笑わないでくれよ」
「もちろんよ。でも、私からアドバイス! 肩の力を抜いて、歌詞カードは見ないで!覚えているでしょう? 言葉を追いかけたら声が出ないわ。読書じゃ無いんだから!」
「・・・・・読書じゃない・・・・・」
イントロが始まった。
静かに歌い出す昭人。
何よ!音痴なんて嘘でしょう!
歌えているじゃない!
昭人も自分の歌声に驚いている。
歌えている。
曲が終わる。
最後の伸びも十分に声が伸びた。
「どうなってるんだ?」
「いや、私にも解らない。ペンダントのせいかな?」
「もう一回だけ歌っていいか?ペンダント外し・・・・・これどうやって外すんだ?」
「留金を、指で挟んで【真力】を込めれば外せるよ。留金はダミー。
金具操作じゃ外せない。青さんの仕掛けよ」
「あっ外れた。凄いな!今度、紹介してくれ・・・・・どうした?」
「【真力】・・・・・使えているじゃない!」
「えっ? これが【真力】? ただ指で挟んだだけだぞ!」
「ううん。間違いないわ。・・・・・歌ってみて!
今度は、マイク無しに、両手と顔の表情で心を込めて!」
昭人は同じ曲を歌い出した。
思い人に、愛を告げる曲。
あぁ〜心が伝わってくる。
間違いない【歌い人】だ。
彼は、【歌い人】なんだ。
歌い終わった時に、真奈美は昭人に抱きしめられていた。
嫌な気がしない。
それどころか、更に身体を寄せてしまう。
「おめでとう。【歌い人】だったんだ昭人さん。覚醒できたね」
「ありがとう。真奈美さんのおかげだ。
今まで、嫌だったんだ歌を歌う事が・・・・・【鈴華】が歌が上手くて、自分が音痴で・・・・・
でも、もう人前で、マイクを渡される事を恐れる事は無くなった」
「良かった!」
「良かったのう」
「ペンダントを外した方が上手かったから、間違いないわ【歌い人】か、まぁ【歌男】じゃキモいわね」
「「いつの間に!」」
「最初から一緒に、入っておったわ!」
「彼が歌い出したら、二人だけの世界に入っていって、私達が曲を選ぶ間にドンドン進んで、次はどうする? もうちょっと黙っていた方が良かったか?」
真奈美と昭人は、自分達が抱き合っている事に気づいて慌てて離れた。
「それに、15時前じゃぞ!急がないといかんのじゃなかったか?
仕事の約束は大事にしろ。真奈美、ペンダントを着けてやれ」
真奈美が、昭人の後ろにまわってペンダントを着けてやる。
『真奈美お姉さん! 彼の事は心配しないで、何があっても守ってあげるから』
『お願いね。ツムちゃん!』
『でも、レストランの料理人か〜お腹空きそうだな〜 部屋に戻ったら【顕現】して良いから、恋歌ちゃんくらいの姿で良かったら妹に見られるかな? そしたら、ご飯食べれる』
『解った。タラップ降りるまでの間に話しておく』
「聴こえたよ。・・・・・これも【歌い人】の能力か? 」
「そうじゃ、【真力、魔素】が有るから本当は、食事は不要なんじゃが、近くに住む妹にして話を合わせおけ。
相手の認識もツムギ・・・・・鈴華がそう認識させる。その方が、なにかと都合が良かろう」
「具体的に、どんな奴を警戒しているんだ?」
「【や】の付く自由業の方々。その団体役員の方がガタガタ言っておってな。直に解散させるが、今は、古池に目がいくのを避けておきたい。下手に潰して関東から乗り込まれても困るから、役員交代させるやも知れん」
「前の店長も、従業員も刑が軽い奴は出て来る頃よ。今の店長と君は目をつけられている」
「怖! 警察は事件が起きないと動かないからな〜 俺は良いけど店長や他の従業員は大丈夫か?」
「心配いらないわ。研修所から来た連中は武術が使えるし陰陽師の術も使える。
今日も萩月の道場で鍛えて来ている。
【式】と言って監視をする物がいるわ。帰ったら店の屋根を見てご覧なさい。
ツグミがいるけど、それが【式】で何かあったら【室】の影護衛が守ってくれる」
「それに、来店者の中にも私の家族がいるわ。私の顔に似た子供が食事に来るでしょう?」
「・・・・・完璧だね。知らなかった。だから、三輪さんが、休みの度に京都のお菓子を買って来てくれるんだ!」
「昭人さん。『三輪さん』って、あの胸が大きなウエイトレスさん?」
「コレコレ、真奈美! もう時間じゃ、ヤキモチは程々にして、タラップの下まで送っていけ。お前は、この後カレンのステージを見てやらないといけないだろう? 会場もコンサートホールから大ホールに替えて【葉月夢花】を送るパーティーに変更された。真奈美と恋歌も歌ってくれとさ。【歌姫】四人の共演になる。衣装は沙羅が用意しておる」
「友恵と晶も香澄に亜里沙、更に菅井敬子も来る事になったわ」
「なんで、菅井さんが?」
「彼女も、このクルージング船の大ファンだからよ。いつもお世話になって居るんだから感謝してあげなきゃ」
「巴様。今下に朱雀様と恋歌様と一緒に参りました。三好家当主はお送りします」
女郎蜘蛛が、巴の肩に乗り、古池弥生の声でこう告げて来た。
「いやいや、オーナーの奥様に車で送られたら、僕の立場がおかしくなる。近いですし歩いて行きますよ。それでは、皆さん、ありがとうございました」
こう、一礼して真奈美の腕を取り部屋を出た。
「仕込みは何時に終わるの?」
「そうだなぁ〜 20時位かな? 火の元確認する為に電気を消す。
その後、着替えて、もう一度電気を消した調理場に戻って匂いを嗅いで火が見えない事を確認して、
警備会社に連絡して戸締まりして帰るかな?」
「・・・・・21時。良かったら、ここに戻って来ない?
多分パーティー終わる頃だから、【葉月夢花】さんの、お見送りをして欲しいと思って」
「そうだな、パーティーは行けないけど顔は見ておきたいな」
こうして腕を組みタラップを降りた。
「真奈美お姉ちゃん! 幸せそう!」
タラップの影に恋歌と朱雀がいた。
ちょっと待て!
沙羅さんは、この二人に付いて、淡路島辺りに行っていたはず。
それが、巫女服を着て巴様と白美と一緒に現れた。
計られた。
完全に、あの人たちの手のひらで踊らされた。
「どうしたの?」
恋歌が、頭を抱えた真奈美を心配して聞いて来た。
「恋歌? そっちの船に巴様来た?」
「うん!来たよ! 『沙羅!予定通りじゃっ』って言って沙羅さんを連れて消えちゃった。
証言が取れた。
『良いではないか? お主も運命の人が欲しかったんじゃろう?』
『・・・・・解りました。でも、これからデートの際は覗かないでくださいね!』
『おー怖! 沙羅〜真奈美が怖いよ〜』
「真奈美さん!それじゃ行くね。また後で!」
昭人が、駆け出して行った。
「うん!気をつけて!」
『沙羅!魔石板の録画はバッチリだ!』
『巴様!』
ヤの付く自由業の方の話実話です。
会員制クラブでバイトしていた時に、組長さんがお見えになった時に記名欄に【団体役員】と職業を記載されて必死で噴き出すの堪えました。
出所祝いでしたが、30分程度でお開きになりました。
踏み込まれたり、警察に目をつけられうるのを警戒されたのでしょう。
他にも、面白い話がありますが作中に入れてみます。




