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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
280/928

280 間話 古池一郎

初等部の同級生から見た、紅組の子供達の姿です。

最初のアーバインからの転入生が入学して来て三年。

同時期に共学化され、京都中心部にホテルを利用した個室を備えた寮まで備えて、関西を中心とした萩月の関係者やOG、有力者の子供達も入学・転入して来ていた。

それに伴いクラスの数も増えていく。

次第に入学希望者が増えて新校舎も建設が決まり、旧校舎が惜しまれながら建て替えられる。

源蔵と九鬼修造が、日本では聖地の技術を使った地下への建築が行えない事を残念がっている。

羽田と両角も、関東に一貫校の設立を考えている様だ。


僕は古池一郎

京優学園 中等部 三年だ。

初等部六年の時に、大阪の私学附属から転入して来た。

前の学校では常に注目され続けたトップスターだった。

自慢ではないが、成績優秀、眉目秀麗、実家は関西でも有数の資産家で、母は某歌劇団の出身でしばらくの間芸能界に籍を置いた。

もちろん、早くから付けられた家庭教師による教育の賜物だが、ピアノや乗馬、英会話まで英才教育を受け続けて来た。

父の教育方針で、武道も習得しなくてはいけない。

父には剣道を薦められたが、フェンシングを選んだ。

剣道は、どうしても汗臭いイメージがつきまとう。

やり始めたら、フェンシングも一緒だったのだが・・・・・

だが、急に転校することになり京都中心部のホテルを改修した寮から、この学園に通うことになった。

幸いフェンシング部が高等部にあったので、授業が終わると高等部に移る。

僕以外は全員が、お姉様と言う贅沢な環境。

姉が居ない僕にとっては素敵な環境だ。


同級生や下級生の中に僕目当てのファンクラブも出来て、練習中や試合には多くの女子が駆けつけた。


だが、僕の転入と同時に出来た【特別コース】

帰国子女と、前にいた学校で問題を起こした学園関係者の子を対象にしている様だが、ネクタイとスカーフの色が青の僕らと違い、紅の物をつけている。

とは言っても、ホームルームを済ませたら僕らと一緒に授業を受けている。


だけど・・・・・なんなんだよ!奴ら!

帰国子女でハーフで、ルックスが、いい奴もいる事はわかる。

英会話だってそうだ。

日本にいる限りネーティブな発音は難しい。

だから僕も、来年から海外へ留学する訳だが・・・・・それはどうでも良い。

女の子は皆、美少女揃いだ。

それも良い。

だが、野郎まで美男子で成績優秀、スポーツ万能で、なんらかの優れた能力を持ている。

お陰で、俺の地位はダダ下がりだ。


この春、学園の本館ホールに、満開の桜の下に佇む等身大の少女のブロンズ像が展示される事になった。

作者は同じ中等部三年の【五十嵐亮太】

モデルは健康な身体を取り戻し、歩ける様になった自分の【婚約者】の中等部一年【西郷貴子】

その長い黒髪を飾る『髪飾り』まで再現して、柔らかく微笑む笑顔が魅力的だ。

その彫像の前に立つと、桜の花びらが舞う光景を幻視する。

それに、合わせて少女が歩き出しそうだ。


だがなんなんだ、10歳と12歳で婚約者同士と言って憚らない!

どういった家庭なんだ!

まぁ、良い。

あの二人は誰もが認める仲だ。

誰も、その仲を引き裂こうとは思わない。

だが、男子は数名を除いて婚約者と共に通学して来る!

普通は恥じらう歳じゃないのか?

僕だって、好きな娘に声をかけるのでも大変なのに・・・・・


だが、そのホールに、しばらくの間他に巨大な絵画も昨年一時期飾られた。

自分の婚約者の【安里涼子】と二人で、冬の北の海を表現した12号(約6m×4m)という巨大な油絵を仕上げた【春日大輝】

今、その絵は、札幌に有る姉妹校の女子大のホールに飾ってある。

絵に惹かれて、全国から多くの女子学生が両親と共に『オープンキャンパス』に訪れる。

その絵の前に立つと、大きな波の音と吹き荒ぶ冷たい風。

そして、叩きつける雪を感じて夏でもコートが欲しくなる。

そんな作品の噂を聞きつけて、年内最後のオープンキャンパスは申し込みが殺到しているそうだ。

何組かは、バイヤーが居て『偽装家族』が紛れていそうだ。

しかも、コイツは『書道』も一級品だ。

近代の『三筆』に挙げられるのは、間違いないと言われている。


更に中等部じゃないが、初等部にも竹籤(たけひご)を使って、高さ二メートル程の五重の塔を学園祭に出した、金髪の日系人【イリス・ファルバン】がいる。

作品の前で、心が洗われると保護者達が涙を流したそうだ。

今は、卒業して東京の専門学校に進んだ五十嵐亮太の姉も、いくつか彫刻を残しているが高等部の校舎で厳重に保管されている。

とても、魅力的な身体・・・・・いや、全てが魅力的な女性だった。


更にコイツらは、どいつもコイツも歌が上手い。

ルックスも良くスポーツも出来て、声も良くって歌も上手い。

このまま、ボーイズグループを作ってデビューしたらあっという間にアイドルになってみせるだろう。

実際、岩屋 脩と岩屋咲耶、東條 桜は、母親の岩屋沙羅と一緒に関西のテレビ局で月ニ程度で旅番組に出演している。

中々の視聴率で、この学園のOGのアナウンサーの紹介で始まった番組は、毎回、穴場的な店舗で家族で食事をするシーンで本当に美味しそうに食べる沙羅が評判だが、移動中の車中で脩が口ずさんだ歌声が、放映され瞬く間にスカウトが押し寄せた。

まだ中等部という事で断っているが、中等部卒業の時にはまた大騒ぎになるだろう。


腹立たしい事に、目で見て嫉妬する事だけではない。

【西郷卓也】【五十嵐亮太】【岩屋脩】【春日大輝】は、剣道の腕も相当なものだろう。

彼らが住まう寄宿舎の隣が萩月家で、どう言う訳か何かの道場がある。

一般の受け入れをしていないので、どんな流派なのかわからないが竹刀や木刀での打ち合いの音に混ざって、人が投げつけられる音や、裂帛の気合いが聴こえる。

その門から、彼らの姿が見えた。

皆、木刀を持っていた。

あり得ない。

竹刀なら解るが、木刀での立ち合いを中学生でする訳がない。


だが、中等部一年に『安里尚美』という明るい笑顔の少女がいて『フェンシングも面白そう』と言ってくれたので、試合を見に来てくれと誘ってみた。

その試合会場に、見に来てくれたのだが例の四人と一緒だった。

上の席しか最前列が、取れなかったようで結構離れている。

そして、コーチが教えてくれた。


「あぁ、あの子達なら剣道の京都の大会で出て良いところまで行ったよ。

大人に混じっての大会だったけど・・・・・相当な腕前だよ。

最後は、スタミナ切れを装って胴をわざと空けて打たせて負けたよ。

それまでの試合は全て、一本も取らせる事なく小手を打って勝ち上がっている」

「なんで、わざと負けたと言えるんですか?」

「その先で、互いに当たる様になっていたからだろうな。

本気にならなきゃ勝てないからだろう。

小手2本。取って抜けた試合時間がほぼ一緒だよ。

最初の子に合わせに行っている。

それ以来、彼らは対外試合に出てこない」


そこで、更に驚く事が有った。

フェンシングの試合は、かなり緊迫した状況で剣が繰り出され人の目で追うのは厳しい。

だから、電気信号を使って判定するのだが、だが彼らは試合のたびに決定打の直前の剣のせめぎ合いを再現してみせていた。

そしてその剣裁きをどう裁くかを、素手でやってみせる五人。

その打突の速度。

実際に剣が見える様だった。

「惜しいな。

年齢制限で次はダメでも、その次のオリンピックに出てくれたらメダル独占間違い無しなんだがな」

コーチが、彼らを見てそう言った。

僕には、言って貰った事がない言葉だった。


【星野光一】

もうコイツは頭の中を見てみたい。

英会話は、もちろん、そんな言葉まで有るのかと思うほどの語学力だ。

稀に訪れる海外からの見学者や、国賓?と思える様な方々の相手をして学園長らに通訳をしている。

父親が、外交官だったクラスメイトの話を聴くと、発音が難しい中東各国の言葉を操っていると言っていた。

女子が奴の婚約者【青山 碧】に聞いてみたところ、平然と20ヵ国以上の言葉は使い分けると返してきた。

時事にも詳しく、偶に大使館から彼を訪ねて客人がやって来て、学園の応接室で数カ国間の会議さえ開かれるのに招かれている。

しかも、先に挙げた婚約者まで同席して秘書の用に振る舞っている。

中等部一年が、国家間の同時通訳を務めて、同級生の婚約者がその秘書を務める。

どこの世界に、そんな重要な役割を果たす中学生がいると言うんだ。


【古家純一】

コイツは唯一無害と言えるが、文系の女子に異常にモテる。

彼と一緒に本に囲まれたいと言う女性が多くて、図書室を図書館にした程だった。

図書室の窓を開けた廊下で、本を立ち読みする女生徒まで出るのだから仕方ない。

彼女達は、本を読む古家純一が口ずさむ歌声を聴きに来ている。

図書館で歌を唄うなんて、とんだマナー違反だが誰も咎めない。

心地よいそうだ。

婚約者の安里亜美は朝から一緒だが、放課後は彼と離れて真っ直ぐに帰る。

萩月の道場にいるのだろう。

信頼し合っているのだろう。


そして、最後に【東條和也】

コイツは・・・・・

・・・・・彼には感謝している。

京都のレストランの紹介で、彼を神戸のレストランに招いた両親。

二人にとって、この店は思い出の場所であり、そこがグループの経営会議で切り捨てられそうになっているのが耐えられなかった。

個人資産を使って買い取り、店舗を残そうとしているが、街中に有り地価高騰の煽りを受けて嫌がらせを受けていた。

料理の質が下がり、掃除は行き届かなくなり、ホールは客に不快な思いしかさせない。

バイトは長続きしなくなり、古株だけが幅を利かしている。

数名のウェイターとウエイトレス。

そして、先代の料理長に恩義があると言って残っている見習いの料理人。

だが、彼らの健闘にもかかわらず、客足は落ちていった。


それを、父の先輩の九鬼グループ当主『九鬼修造』氏と一緒に立て直しをして、今では予約が取れない名店に戻してくれた。

将来、個人的に引き継ぐ僕としても感謝せざるを得ない。


明日から、僕も『萩月道場』に通う事になる。

父も母もそして、妹までも、それを薦めて来た。

何が、あの道場に有るのだろう?

でも、彼らに近付ける何かがあるのだろう。

でなきゃ、

「明日からよろしくな!イチ!」

なんて、あの春日が、肩を叩いて来るわけがないじゃ無いか!

『イチ!』

なんて、呼ばれた事なかったよ。

大輝!



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