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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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269 海に広がる歌声

オーストラリアで南十字星でも一際明るいα星(一等星)の光の中に、それらしき集団を発見した。

青木もアーバインで感じた感覚を、この映像に覚えた様で納得した顔をしている。


コロニー艦と見られる艦は一番後方を、やはり回転しながら進んでいる。

アーバインに向かってくる様な巨大さは無い様だが、それでも前面に有る影柄から推測して、直径が前を進む艦の十倍以上の幅がある。

青木はJAXAに、取り決めていた符牒を使って【目標発見】の連絡を入れていた。

昼間の【天測】でも南十字星方向に集団が観測が出来た事から、参考までに【遠見・天測の陣】を使った簡易的な観察を全天に自動展開させた。

結果が、出るまでは二、三日かかる。

その間、源蔵と昴が門人と共に残って観測を続けると言うので、残りに希望を聞くと皆海に行きたいと言い出した。

無理も無い。

眼下に海を見ながら着陸したのに、今まで見たのは砂と石と岩、そして空ばかりだった。

写真家の藤田夫妻も多くの撮影をした様だが、久しぶりに撮影するプライベートな写真。

大自然そのままの中で、そこに立つ三人の娘の写真。

夜空を眺める姿。

一つのベッドで、抱き合って眠る姿。

三人で朝日や夜空に、むかって歌う姿。

聖地の子供達は歌う事が大好きだ。

ミレイの歌声も綺麗な声をしている。

特に真奈美と恋歌が定期的に、聖地のホールで開催するショーを楽しみにしている者は多い。

魔石板に記録してウルマにも浜の村にも記録映像を送る。


真奈美の笑顔を見る度に、本当に【恋歌】が娘になってくれて良かったと思う。

この子には夫婦で撮影旅行に出て家を空けることも多く、淋しい想いをさせていた。

夫妻はレンが過ごして来た日々の事を、友嗣と沙羅に聞いていた。

この子には【真奈美】と一緒に笑顔でいてもらいたい。

そう思える程に、仲の良い姉妹になれた。


海辺のお勧めキャンプ場だけを、手配しておいて各車両自由行動だ。

「もう一人、産んでも良いわよ」

サランが、悪戯っぽく寄ってきた。

「八人目が生まれてくるんだぞ? でも出来たら、出来たで嬉しいがな!」

サランはこの【キャンピングカー】という乗り物が好きになっていた。

気に入った場所に、車を停めて一日を過ごす。

初めて見る風景や街並みを観るのは大好きだ。

岩屋神社の家も、大きな木々に囲まれて静寂の中で過ごす。

今までの生活には無かった贅沢な時間だ。


偶には代わってやらないとルナがいじけるな・・・・・

美耶も若菜も、キャンプは好きそうだ。

ゴールデンウィークまでには、釧路に羽田が作ったキャンプ場が随分と整備されているだろう。

【転移陣】と友嗣がいれば妊娠中の美耶でも大丈夫だろう。

萩月一門で貸し切ってみるか?

友嗣はアトリエに置く、キャンピングカーを九鬼に製作を依頼しようと思っていた。


思い思いに時間を過ごしながら、夕刻には予約していた海辺のキャンプ場に車を入れる。

藤田一家が、もう到着していて海辺で遊んでいた。

恋歌にとって初めて見る太陽の下で輝く海。

水着を着てハシャギ回る娘達。

「真奈美に、預けて正解だったわね」

「あぁ、ルナも殻に閉じこもる子供を多く助けてきていたが、サトリ相手は辛かった様だ。

自分でもどうして良いかわからないと、泣いて縋ってきていたよ」

「そうね、私も同じよ。レンが欲しかったのは、一緒に手を繋ぐ相手だったのね。

実の親から見放されていたのが嘘みたい。あんな笑顔見たことないわ」

「で、ルナはどうした?」

「家族のレンの記憶は、一番奥底に沈めさせたわ。

今のあの子の笑顔を見たら、どうなるか・・・・・・【妬み(ねたみ)】って、どうしようもないからね。

元々、親子の縁が希薄になっていて、聖地でも・・・・・あの子は離れて暮らしていたでしょ?

自分や集落の子が地球に行けない事に不満を持ち始めていたから、『危険だ』と、お父様が判断されて健診の時にね・・・・・・」

「レンは?」

「知っているわ。本人も、その方が助かると言って・・・・・もうしばらくしたら、レンの記憶をどうするか本人に決めさせるわ。だから、振り切る為に先発させたの。

「そう言うわけか」



青木夫妻の車が入場してきた。

シーフードや食材を買い込んで来ていて、今夜は豪快にBBQとあいなった。

源蔵と【念話】を交わして、彼らにも焼きあがったロブスターや肉や野菜を【転送】する。

お互いに【遮蔽】を張っているから周囲から見えない。

源蔵の周囲にも工作員が居たが、接近することも映像や音声を拾うことも出来ずに、無線で怒鳴り合っているそうだった。

そこに、BBQの肉が焼ける匂いが漂って来る。

焼けたロブスター特有の、磯の匂いまでして来た。

自分達は水も制限して、レーションを齧っているのに!

怒り狂い、悪態をつく工作員と上司の無線連絡。

それを、しっかり録音して後で送りつけるそうだ。

友嗣の方も周囲に家族連れや係員を装った工作員が居たが、サランに虚言を報告させられているか眠らされていた。

キャンピングカーエリアに直接機材を持ち込んだ猛者もいたが、しっかり取り上げられて、今は源蔵の手元で遊び道具になっている。

【遮蔽】をかけて有るから、天体望遠鏡で何をしているか工作員には解らない。

観察していた方位と角度を、悟らせない様に全天撮影を継続しているし幻影を見せてもいる。


BBQも終わり、焚き火を囲んで友嗣と青木忍はグラスを重ねながら話をしていた。

「しかし、やはり侵略者達は接近していましたね」

「前にも思ったんだが、私は、この事を感じていたのかも知れない。

ハンターをしながらでも違和感を感じていた。

今は焦りを感じる事なく、星を眺めていられるよ」

「青木さんは、今後どうするべきか、と思いますか?」

「JAXAとしては、全世界に知らせるべきだろうが事が事だ。

他の惑星で侵略行為を始めている同じ星からの移住者。

その科学力。

相手の意思が解らない状況の今は、警戒すべき相手だ。

しかし、いずれ米国や英国、フランスあたりの、西側諸国には情報を渡さなければならないだろう。

その上で聞いておきたいんだが、今、言った国々と日本で宇宙空間に望遠鏡を組み立てる計画が進行している。

ペルーの高地にも、大型の天文台が作られる。

そこで、あの一団を見えなくすることは出来るか?

向こう20年くらいになる。

それ以降は他国も宇宙望遠鏡や、人工衛星で外宇宙を目指すだろう」

「・・・・・・考えてみますが、JAXAで打ち上げるロケットの積載量に5キロ程の余裕は有りますか?」

「なんとかしてみよう。あの、新宿御苑から人を打ち上げた方法を使うのかい?」

「そうなりますね。

「今回作った【天測の陣】を使う方法で、光を曲げましょう。

計画中の宇宙望遠鏡と南半球から見える南十字星のα星を空間の広さを出してください。

そいつを、人工衛星から目的の空間に移動させて移動して来る艦隊の光を捻じ曲げますよ」

「なるほどな。星と違って反射光だから光の強度は弱い。

曲げるか覆うでもいいだろう。

宇宙望遠鏡は本体が来年の夏に打ち上げられて5年はかかる。

良いだろう。

三年後の打ち上げ予定機を使おう。

で、君達がこさえたその衛星以外は、ダミーにしておいて世間には失敗と発表させる。

そうすれば予定軌道外に向かっても言い訳が通る」


三人の娘達が海に向かって歌い出した。

この頃、聖地で書き上げられた歌だ。

昔のアレ辺りで使われていた言葉で、愛しい人の帰りを待つ家族の歌。

次々に歌い上げられるその歌声は、月の無い焚き火の光を映す海へと広がっていった。


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