268 オーストラリア
長野での観測では、やはり艦隊は発見出来ずに終わった。
だが成果はあった。
解像度は落ちるが【遠見・天測の陣】を書き込んだ魔石板を発動できた。
今は、【遠見の陣】を五層にして【天測の陣】を重ねている。
【天測の陣】は【遠見の陣】と違い、重ねても解像度は上がらなかった。
やはり、どちらも術師が術を発動した結果には敵わない。
今も、全天に向かって昼夜構わず観測を続けさせている。
アーバインで使った天体望遠鏡と、この【遠見・天測の陣】だけを持っていけば、それなりに効果はでるのであろうが、予定通り昴と恋歌もオーストラリアに同行させる事にした。
羽田が、オーストラリアへの渡航の手続きを済ませていた。
オーストラリアに行くなら、と藤田夫妻が真奈美と一緒に行く事になる。
恋歌の保護者として同伴も必要だし、なんと言っても彼らは写真家としてオーストラリアでの活動の経験が豊富だ。
天体望遠鏡や機材は、源蔵が【収納】に収めて持参する。
送るより安全だ。
一行は友嗣、沙羅、青木忍、青木シューラ、館林源蔵、木場昴、ミレイ、藤田一家 それに羽田と九鬼から門人が付いた。
沙羅は子供達の様子を見に来たのと、彼女も岩屋神社で居住を開始する為にやってきた。
門人の彼らは、交渉役と医療スタッフを兼ねていて、特に砂漠地帯の現地での活動を気にしていた。
羽田が、藤田夫妻の意見を入れて砂漠と言っても、近くに街がある場所で治安が良いエリアにベースキャンプを張る事にした。
空港のレンタカー会社と交渉しキャンピングカーを、発電機と合わせて5台レンタルして、ジープも一台借り出した。
これらに分乗して、藤田夫妻が薦めた観測地に向かう。
遠くに、街の明かり見えている砂漠の台地。
台地の下には自然に抉れた庇が出ていて、夏でも涼しい風が吹く最高のロケーションだった。
藤田夫婦の写真家としての名をあげた作品の舞台だ。
ここには、二人の娘も連れて来たいと思っていた。
友嗣が【探索】をかけるが、小動物がいくらか居るだけで安全が確保できそうな場所だ。
周囲に【遮蔽】を展開して、姿を隠し準備にかかる。
観測準備を済ませて、サラン達が待つ岩場の下に戻る。
これから、夕食を済ませて初日の観測だ。
「せっかくオーストラリアに来たのに、コアラもグレートバリアリーフも無しなの?」
「仕方無いさ。青木さんも聖地に来て貰っても、聖地と浜とウルマだけだよ」
「彼は良いわよ。星が見れれば良いしシューラもお嫁さんに出来て幸せよ。JAXAの部下が泣いていたじゃない」
「でも、私も新婚旅行が星と睨めっこで、昼は寝てるコウモリ生活になると思っていませんでした!」
シューラが出発前に空港で『新婚旅行とは?』とパンフレットで調べて忍に食い付いた!
「望遠鏡の設置終わりました。電力オーストラリアって電圧240Vですよね。変換器積んできました?」
トランシーバーで、昴が連絡を入れて来る。
「それは、源蔵に聞いてくれ!」
友嗣が笑いを堪えて、トランシーバーに向かって返事をした。
発電機を、それぞれのキャンピングカーに接続した門人達が不安な顔をした。
(えっ、自動追尾装置やパソコンの電源は・・・・・)
「あぁ、魔石での発電に成功したんだ。
【青魔石】の魔素を【白魔石】に移すように回路を組んだら出力が安定したんだ。
【白魔石】からだけでは上手くいかなかったのにね。不思議だよ」
源蔵が、小さな鞄程の発電ユニットを【収納】から取り出して昴を手伝っているミレイに渡す。
日本用のコンセントが付いていた。
次第に周囲に集まって来ている工作員の目を、この発電装置から逸らす為に発電機を借りてきてキャンピングカーに電力を供給している。
「エアコンが無いと眠れないからね」
季節は二月、南半球は夏だ。
しかも、砂漠。
日陰で夜は寒い程だが、昼間寝る生活だ。
エアコン無しではキツすぎる。l
だが、このキャンピングカー中の温度管理も赤魔石を使った魔道具で済ませている。
上空を何度かプロペラ機や、ヘリコプターが行き来したが遮蔽で囲まれた内部は見えず。
赤外線の事を知っている友嗣が、対策を忘れる事はない。
その遥か上空の監視衛星の存在も検討した上で、この場所にしたのだ軌道修正をした場合も考えて有る。
貴重な監視衛星の燃料を、軌道変更の為に使うかは各国の思惑が決める事だ。
キャンプ地の周囲を、友嗣と源蔵の透明な【式】が周回している。
やはり、工作員がうろついている。
暑い中、岩陰に蛸壺を掘って少しでも日差しを避けようとしている様だ。
ここまで運ばれた航空機でも、指紋や髪の毛を採取しようとしていた。
友嗣は木場から『特に聖地出身者の情報は渡すな』と言われていたので、特に髪の毛の類は回収しておいた。
排泄物も【転送】で海に放り出しておく。
キャンピングカーの中でも、その手の類は丸ごと廃棄する。
徹底したやり方に、サランが呆れていた。
「でも、DNAなんかは調べて差が無い事は解ったのでしょう?」
「今、解っていないだけかも知れないさ。
ここに居るアーバイン出身者は、特に術師として高位の部類だ。
秘密は守り通したい。
話してはいなかったが私達が関わっている場所は、全て【式】で監視しているんだよ。
【室】がね。しっかりしている。お風呂から上がったら徹底的には清掃してくれているよ」
「機密情報満載の身体なのね」
「まぁ、どんなにやったところで、いずれは入手するだろうけど妨害はし続けるさ」
「だから、ホテルやロッジでは無くキャンピングカーなのね」
「そういう事」
実際、食糧の調達も友嗣と源蔵が【転移】で行なっている。
だから、この近くの街には土地勘も出来ていた。
だが、認識障害をかけていても、多くの工作員がスーパーに配置されている。
企業や財閥系から依頼されたフリーもいたが、アッサリとプロに追い出されていた。
無理も無い、砂漠のど真ん中だ。
見かけない顔は、怪しまれる。
こうして、観測を続けて
遂に、南十字星の一番明るい星。
一等星のαの光の影の中に、小さな点の数々を見つけ出した。
どれくらい離れているかは、解らないが【観測対象】を遂に見つけ出した。
大きく息を吸い込む【青木 忍】の姿を見て、オーストリア観光が出来るとホッとしていた。




