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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
263/929

263 スミレ 

聖地から転移して来た子供達。

岩屋神社の大きな月夜石の舞台に現れた。

みんなが揃うまで待って、奥に開けられた通路を使って社務所に向かう。


時差の関係上、岩屋神社はお昼になったばかりで大広間には食事が用意してあった。

彼らは、ここで寝泊まりをして日本での生活に慣れる事になる。

時差ボケを早く治す為に、今日は聖地での、お昼は簡単に済ませて来ており、お腹が空いていた。

今からお昼を食べる事になる。

鼻をくすぐる香辛料の匂い。

今日は、日本食の定番を出した。

【カレーライス】

しかも、家庭版の市販のカレーを使っている。

木場晴美が聖地やウルマでも、たまに出していたが出すと大騒ぎになるのでスープがわりに出している。

こうして、ご飯にかけてと言うのは初めてだった。

だが、一人だけご飯にかけて食べた事がある【奴】がいた。

ロキこと『東條 和也』で有る。

スープとしてパンと共に供されるのだが、かねてから『これは米の方が旨いはず』と、こっそり握り飯を壊してこれにかけて食べていた。

木場晴美がこれに気付き、それ以来カレースープは止めている。

ご飯の消費量が半端無くなるのを知っているし、毎日、要求されることは火を見るくらい明らかだ。


だから、和也が真っ先にスプーンを入れた。

それを見て、食べ出す子供達。

次から次に皿が空になる。

『お代わり』の声が重なる。

色が細いタカ 『西郷貴子』まで一皿完食した。

冷たい水を飲み、お腹いっぱいになった聖地からの子供達。

そこへ、先に食事を済ませていた萩の眷属の子供たちが巫女姿で入って来る。

雪が前に立ち一人一人を紹介する。


黒髪の背丈が高い【ツムギ】

やや茶色い髪の【サナエ】

黒髪の中に桃色の髪が混ざる【モモ】

同じ様に銀の髪が混ざる【ナナオ】

茶髪にオレンジ色が混ざる【ハルカ】

黒髪だが青みがかった【アオイ】

銀髪の背が高い【フブキ】

そして青い髪の【スミレ】

互いに紹介し合う。

今は、顕現して見える様にしているが、普段は姿を消している。

まだ、顕現する姿が安定しないのだ。

実際に姿を消してもらって皆が驚く中、一人だけ貴子にはスミレの姿だけは見えていた。


『あなたは誰?』

貴子が頭の中で問いかける。

『私はあなた。あなたは私』

『・・・・・私は誰?』

『幸子。私もあなたも、本当の名は幸子。でも今は貴子とスミレで良い』

『・・・・・わかった。仲良くしようね!スミレちゃん』

『うん!仲良くなろう。貴子ちゃん』



『やはり、あの二人繋がっているわね』

『間違いないわ。他の子が彼方此方に目をやるし、子狐達も悪ふざけして子供達の手を引っ張ったりしているけど。

あの二人だけは、お互いを見つめあって微動だにしないわ』

『巴様・・・・・』

『なんらかのせいで別れて産まれたのだろう。一卵性双生児が生まれる場所が、それぞれ違ったと言う事だろう。やはり、アーバインと地球は繋がっているのじゃろうな。だが何故だかは解らぬ』

『どうしますか?』

『・・・・・私ら・・・・・いや、サランとルナは気づいているし、若菜と美耶も気付くだろう。あえて言わずにおこう』

『わかりました』

『白美は貴子を、雪はスミレに気を配れ。何かあったらすぐに知らせよ』



子狐達が姿を現した。

「でも、貴子ちゃんとスミレちゃんってそくりよね」

「あぁ、それすぐに思った。髪の色が違うだけかな? 後、貴子が細い」

「スミレちゃんだって細いよ。巫女服って体の線が出ないようにして、男子の助平な目で見えない様にしてあるんだから!」

「誰が助平だって?」

「そりゃ、雪さんをガン見している『シュウ』に決まっている!」

「シュウ!」

「仕方無いだろう!美人だし、狐獣人よりもフサフサの尻尾だぞ!見て悪いか?」

雪が、慌てて尻尾を隠す。

「わー! 身体の中に仕舞えるんだ!」

「巫女服の中に入れて、身体に巻き付けただけです!

それじゃ、神社の中を案内しますから着いてきてください!

貴子さんは、どうします?

坂も有りますが、スロープが備えてあるし車椅子も準備していますよ。

ストールも用意していますから、赤魔石の魔道具を使えば【遮蔽】と合わせて寒くないですよ」

「一人ぼっちにはしませんよ!」 

亮太が、当たり前のように車椅子を押す。

「軽いなー。この車椅子。ヘルファを使っているのか?」

「貴子さん様に作って有ります。学園生活用と寮生活用にそれぞれ準備しています。

ただ、貴子さんは、身体の成長がみんなに追いつくまでは、そのまま館林の家で過ごします。

同じ敷地だから心配しないでね」


岩屋神社を周り、源泉から引き込んだ温泉に入る。

貴子の世話はカイとアレタそしてミクが主に務め、他の少女達も手伝う。

夕方には智美や晶達と先に来ていた、恋歌の手を引いた真奈美までやって来て大騒ぎになった。


白美の、こめかみが引き攣る。

なんだかんだと言っても、躾は白美の担当。

新年度から高等部の担当を任されたる『菅井敬子』もやって来ていたが、頭痛を訴えて社務所の寝室に篭ってしまった。

こうして、日本の生活に慣れる為の生活が始まる。


麓の村に建設中の、一貫校の長谷山が進めている一貫校も見に行った。

一部の学生は早くも入寮して学んでいる。

高校生で、これから大学進学や公務員そして岩屋神社の宮司となるべく授業を受けている。

鹿児島市内に長谷山の息がかかった女子高も有り、そちらを希望する者も多い。

ここは、地元に戻ってきた住民達の学校なので、これからだろう。

問い合わせは多い。

聖地での塾の様な場所で学んで来た子ども達にとって、学年ごとに別れる事は不思議だった。

篤の指導方針が、最初は己で考える。

そして授業を聞く、そして互いに教え合う。

この際には年齢差関係なく教え合う。

だから、小学四年でも六年の授業がなんとなくわかるし、上級生は下級生に教える事で更に理解を深める。

篤に寄れば、一部の医療系を目指す子以外は、特待生として入学が認められるだろうと言っている。


子供達を週末には、鹿児島市内に連れて行く。


岩屋神社では麓の村に自家用車は置いてもらい、神社までは大型バスで送迎をした。

週末は麓に新たな温泉旅館も出来て、参拝客も増えてきている。

警備の問題上、個人の車両を受け入れたくなかった。

目が届かなくなるし、置き去りにされては困る。

高齢者や身体の不自由な人の駐車場は増やしているが、この頃更に参拝客が増えている。

『人払いの結界』を張って重要施設や山中には入れない様にしているし、式を放って警戒する様になっているが長谷山の門人だけでは手薄になってきていた。

九鬼と両角から人を出しているが、室も忍びが巡回する様になっていた。


「なんで、こんなに参拝者が増えたんですかね?」

「こんな事するのは、巴様でしょう? 落成式の日、社殿の上で九尾の狐が【影舞】をされたそうですから」

「それは、又 ありがたい様な困った事の様な・・・・・」

「サランさん達も、休日には【奉納舞】をされて、それも話題ですからね」

「なるほど、それでですか・・・・・」

「室が、居てくれて助かります」

「お役に立てて何よりですよ。立浪の流を組む者達も、帰ってきてくれていますからね」

「室が、匿ってくれていたおかげですよ」


今日は、室 兼親が七条 遥を伴って館林の陣から二人でやって来ていた。

近々、籍を入れるらしい。

岩屋神社で初めての神前結婚式を挙げるのは、この二人になった。

友嗣が、初めて務める神事となる。


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