257 天測を継ぐ者
ちょっと長いです。
木場以外に【天測】を使える若干15歳の【木場 昴】
木場 直の孫だ。
直が【月夜石】を昴に持たせた時から、陰陽師の才能の片鱗を見せた。
昼の空に星が、黒い点として見える。
もちろん【真力】を使わなければ、そんな物は見えない。
周囲がモノクロに変わる。
更に鍛錬を重ねていく。
目視出来る距離も伸びて行った。
萩月道場で憧れていた『岩屋友嗣』に誘われて【転移陣】に足を運んだ。
釧路で周囲の目を気にせずに術を磨いていく。
沖の空自の訓練海域を飛行するジェット機のコックピットに焦点を合わせていくと、日頃のおちゃらけた姿から想像できない『御室美咲』の真剣な姿を見てとった。
掩体壕に隠れたヘリコプターの機体と、その周囲に居る人影が黒く浮き出る。
なんとも、薄気味悪い能力だった。
最初、これに立ち会った祖父、木場 直は複雑な顔をしたと言う。
次は祖父が最も苦労した、『魔石板』に自分が捉えている映像を映し出す事だ。
【真力】を使って魔石板に、見えている映像を描く。
直は丹念に描く様にしていたが、昴は映像を捉えて直ぐに左右の手の間に持った【魔石板】を睨みつけた。
浮き上がる映像。
素早く映像が現れるが、【真力】が尽きる。
渡された【白魔石】
そして、その使い方に慣れて今では【赤魔石】を使って連続した動画を映しこむ。
「若さだな」祖父は目を細める。
一度【天測】で見てしまえば、意識の一部を、そこに繋いだまま対象を追わせることが出来た。
「戦時中に友嗣君が転移して来なくて助かったよ。
そうだったら、連合軍は間違いなく私の父を追って、その街は火の海だった」
こうして、若き【天測使い】は鍛錬を続けた。
彼が、【天測】を使う時に彼の足元に浮かび上がる【陣】
祖父、木場 直の時にはハッキリと解らなかった。
桜がそれを描き写し、蒼と一緒にこれが【天測の陣】なのかを調べている。
友嗣が、ミーフォーと一緒に聖地に連れて来た。
他にも八木と天体望遠鏡メーカーの社長【古城】そして羽田が同行して来た。
木場夫妻は、軽く手を上げて孫を迎え入れた。
【遠見の部屋】では、聖地に篭る事になった経緯とその過去を映像で見て、未完成だがアーバインの天球儀の上を、動く敵の船団の位置を確認した。
【天文台】でも昴は、魔石板に映る青木と祖父が見つけ出した敵艦隊の黒い点を見つめていた。
今回、八木が運び込んだ、もう一台の天体望遠鏡。
社長が、九鬼仕様に改良を加えて準備していた物だ。
これを組み立て、剥き出しの大地でルナが展開する【遠見の陣】と昴が使う【天測】を合わせて、アーバインに迫る艦隊を捉えれるかを試す。
地球では、恵まれた環境で動かせれるか解らない。
そして、それに同調させる【遠見の陣】は『ルナ』と『藤田恋歌』
これを組み合わせてやってみる。
聖地での訓練期間は五日。
六日目には、解体して上空を通過する船をやり過ごす。
組み立てには、八木が指揮するウルマからの技術者に【遮蔽】を使いながら作業を進めさせてみる。
その間、昴は青木に聖地の中を案内された。
「これは、想像以上に大きいですね」
山腹を掘り進めた構造で、五千人を越える人員が住む。
季節によっては聖地の住民が浜の村かウルマに行って、生活するので流動的なのだ。
そして、最初に訪れたのは【診察室】
駐在している医師団の中には、見知った医師『仁科』と自分を取り上げてくれた助産婦の『早乙女』がいて、早乙女が昴を、しっかりと抱きしめた。
「こんなに大きくなって! 助産師が一番幸せを感じる瞬間よ。自分が取り上げた子が大人になって人様の為になる事をしている。昴君!頑張ってね!」
「はい!ありがとうございます!。
聞いてはいましたけど、大変そうですね。
それじゃ、まだしばらくいますから後ほど改めて伺います。お仕事の邪魔をして済みません」
「あはは、しっかりした子だね」
「自分が、なすべき事を知ったからじゃ無いですか? 今までは、なんの為に医師になるのかが、解らなかったみたいですから」
「美耶さんが、連れて行ったんだよな。あの女性達のところへ・・・・・」
「目を逸らす事なく、両手を握って見つめていたそうですよ。亡くなっていく女性たちを」
「しかし、木場家はスパルタだね。だが、これからは彼等が主戦力になる。
地球でも同じ事が起これば、とてもじゃ無いが地球の方が危険だ。
ルースさんも、常義さんも皆んな考えているのだろうね。
若者を、アーバインへ移住させる事を」
「さて、患者さんがお待ちですよ。次の患者さんを入れて!」
仁科達は、治療は白魔石を使う治癒師に任せるが、術の前後の患者の容体を確認する。
それを、リル達が纏めていく。
来年になれば、ウルマに派遣する医師もやって来る。
昴は、道場に連れて来られていた。
昴自身は、護身術程度で合気道を学んでいる。
指導者は『藤田夫婦』
この頃、アトリエの存在を知り【転移陣】の事も知った。
前から陰陽師の家系の子供と知っていて、萩月の道場で会った『藤田真奈美』とは同門だ。
そして、真奈美に妹が出来て、二人の歌を聴いて涙する自分を知った。
その妹が、実はこの聖地から来たと知ったのは、先程『天文台』で聞いたのが初めてだった。
道場は萩月道場とは、また違う熱気に包まれていた。
今も、道場の壁を蹴って立体的な攻撃をする猫獣人の娘と、それを木剣でいなして弾き飛ばす熊の獣人が中央にいた。
「凄いですね。僕なら瞬殺されますね」
「まぁ、間違い無いな」
「青木さんも、武術をやるんですか?」
「何時迄も、女房に守って貰う訳には行かないからな。少しずつやり始めている。空手だがな」
「こちらで、ご結婚されたのですか?」
「いや、【名変え】はまだだ。来月の予定だ。こちらで式を済ませて長野に連れて行く。
アレが奥さんだ。驚くなよ」
さっきまで猫の獣人の相手をした熊の獣人が、次の相手を待ち構えていた。
息が上がる様な様子もない。
だが正面に、その女性が立つと昴にも判るほど筋肉が膨れ上がった。
女性はスラリとした体型で、武器も持たずに立っていた。
「えっ、あんな細い女性に、この獣人は本気になっている?」
一礼を済ませると、女性が先に動いた。
女性が真っ直ぐに向かって行く、熊の獣人がカウンター気味に木剣を身体の中心軸に向かって、胸の位置に突き出す。
必ずどこかに当たる。
潜っても、剣が追いかける
だが、その女性の姿が消えた。
相手の足元に飛び込んで、足の脛に手を掛けて体を回転させて壁へ飛んだ。
壁を足で蹴り身体を床と並行にして、熊獣人に飛んでいく。
先程の猫獣人が使った技だが、
早い!先程の猫獣人も早かったが、それが霞む程だ。
先程まで闘っていた猫獣人の娘が、戦いを食い入る様に見ている。
「嫁さんに、心髄しているんだあの子は」
剣をかわし、襲ってきた木剣の腹に腕を当てて弾いていき、最後は相手の心臓の真上に拳をあてた。
相手の剣はカスってもいない。
「あぁ、今日も一本も入れられなかったか!なるほど、旦那が見に来ていたか!
それで、さらに加速しやがったな!ありがとうな!シューラ!」
「ありがとう!ジグ!やあ!忍! その子かい? 【天測】の使い手は?」
「はい!木場 昴と言います。何ですか!今の動き!」
「【身体強化】を五割ほど使ったかな?
途中で忍が見えたから、ちょっとギアをあげた。
ミレイ! ちょっとおいで!」
先程まで試合の様子を見ていた【ミレイ】と呼ばれた少女がやってきた。
「ミレイと言います。シューラさんの弟子です」
「木場 昴です。先程の動きは凄かったですな。僕なら瞬殺されています」
「木場? 木場先生の、お孫さんですか!」
ミレイという娘は、片膝をつき頭を下げた。
「母の命を救ってくれた木場先生の、お身内で有れば恩を返す為にも、何なりとご命令下さい」
「えっ! どうしたの? いや、立って!」
「治癒師でも治せない病気がいくつか有って、そのひとつが【癌】なんだよ。友嗣さんは医師の指示で【転送】で脳腫瘍を飛ばして除去したそうけど、癌細胞が正常細胞の中に食い込む症例は厳しいんだ。
彼女の母親の癌を、木場先生が執刀されて回復に向かわせている」
青木が彼女が跪いた訳を話してくれた。
「お祖父さんも長い事、現場を離れていたから、仁科先生や看護師の助けがあってだよ。それに、【遠見の陣】も使ったんでしょ?その人達のお陰だよ」
「先生は、それに【天測】を併せたのさ。癌細胞と正常細胞の区別をされて、血管も避けて手術ができたんだ。木場先生が居なかったら助からなかった」
「【天測】にそんな使い方が・・・・・」
「いつでも、命じてください。木場家の為なら命をかけます」
「はぁ〜 サランさんが、日本から持ち込んだ忍者物のビデオの影響だね」
そういえば、この『ミレイ』忍び装束だ。
「もう良いから立って」
「昴!どこを見て回った?」
「【遠見の部屋】と【天文台】そして、【診療室】で、ココですね」
「ミレイ‼︎ 他の施設案内をしてあげな!アンタも汗をかいているから着替えておいで、【白魔石】を使って洗浄をかけな。忍び衣装は【収納】に入れて! 何時もの制服に着替えなさい!」
「はい!」
「えっ? 制服?」
「あぁ、これもサランさんが『京優学園』の制服を持ち込んで着させている。ミレイは中学生」
「えぇ〜あの動きを、中学生でするんですか?」
「獣人は、成長が早い。私やカイも、獣人の血が混ざっているから成長が早い。
老化は遅くなるから、私は忍にそれだけ尽くせるがな?」
青木さん、真っ赤。
「お待たせしました」
見ると確かに京優学園の制服で、しかも赤地に白線二本の二年のスカーフ。
「京優学園って、青スカーフじゃなかった?」
「特別コースだ。聖地から受け入れる子供と、萩月一門で余り人に知られたく無い能力持ちは、特別コースに入学させる。今、蒼さんが獣人でも受け入れられる様に制服を改良している。ミレイを見てご覧」
「あっ! 耳が無い!尻尾はスカートの中か? でも、膨らみそうなんだが?」
「ほら、近くで見てあげな!」
押し出されて近くで見ても、耳は見えない。
「触って良い?」
「はい!」
そーと、耳があったであろう位置に手を伸ばす。
何となく感覚はあるのだが、良くわからない。
「ほら、尻尾を探して! お尻も撫でてみな!」
尻尾が少しだけ解る。
いやでも、これはダメでしょ!
「昴さんなら構いませんよ!あぁだこうだと想像されるより、触って確認して貰う方が恥ずかしく無いです」
そう言われて、お尻の部分を腰の辺りから手を下げて行く、
あっ 腰椎の少し上辺りから膨らみがあるけど尻尾の感覚は無い。
「蒼さんが作った【真道具】のすごいところは、身体の一部を【収納】を使って隠しているところだよ」
「痛くなったり、変になったりしないの?」
「そんな事は、無いですね」
改めて耳の部分と尻尾を触る。
どうしても、ミレイを抱きしめている様にしかならない。
緊張して息を止めていたミレイが深く息を吸い込んだ。
・・・・・途端に昴に、もたれかかってきた。
「あらあら、大変だ!昴君、ちょっとミレイから離れてくれる?」
そうしようとしたが、ミレイが昴の肘の辺りをガッチリ掴んで離さない。
それどころか、更に身体をくっ付けてきた。
『スパコーン!』
ミレイの頭に張り手が飛ぶ。
「イタタタ! ハッ!ごめんなさい!昴さん!」
慌ててミレイは、シューラの影に隠れた。
そこから昴を見ている。
「あー悪い忍!昴の事宜しく!ミレイは、お話ししよう!」
「ミレイ 発情しちゃったの?」
「多分そうだと思います。初めてなんで解らないですけど・・・・・」
「猫獣人の中でも、発情する事が少ない家系なのに一発で発情とは・・・・・【赤魔石】のベルトつけておこうね。
でないと昴に襲い掛かるだろう」
モジモジしながら、ミレイは頷いた。
「やれやれ、早くも昴は【嫁】をゲットしちゃったよ」
ミレイの一族は性的な合性が激しく、女性側が受け入れ出来なければ排卵もしない。
それが、一瞬、昴の体臭を嗅いだだけでミレイは発情してしまった。
もう、昴以外では発情しないだろう。
「師匠・・・・・」
切なそうにするミレイの肩を抱きながら、【念話】でサランに状況説明するシューラだった。
『こうも、日本から来た男に落とされ続けて大丈夫?』
そう言われても、あなたの旦那と弟は日本の女を速攻で落としているじゃない?
文句も言いたかったがグッと堪えた。
『堪えてないわよ。
やはり、双方で混血を造って種の保存を図っているのかもね。ミレイどう?落ち着いた?』
『はい!済みません。初めてだったもので取り乱して』
『そこで、シューラ! 来月からの天体観測の班に青木夫婦は帯同よ!』
『はぁ?』
『長野で一週間。その後、オーストラリアで一週間、観測業務を続けるわ。更に、ブラジル。発見できなければチリに行って探すわよ。
それで、あなたもミレイも私の一族の名前で戸籍作るわ。
ミレイ!あなたも行くの。
二人とも、お互いの旦那様の警護よ。
ミレイは四月になったら、昴と一緒に京優学園に入って中等部三年生よ。
キスまでは認めるけど【青魔石】受け取るまでは、その先はダメよ!
守れなかったら、多分妊娠するから日本と聖地で離れて暮らす事になるわよ』
『青魔石なしで・・・・・』
これは、堪えた。
ミレイの家系で【青魔石】を受け取らずに子供を産めば、どんな誹り(そしり)を受けるか想像出来る。
今まで、まだ残っていた身体の火照りが消えた。
一緒に過ごせないのは我慢できない。
コクコク頷く、ミレイ。




