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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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249 若菜の出産

若菜が出産した。

言われていた通り、女の子で常義の喜びも格別の物だった。

だが、この子の出産にあたっては、ちょっとした騒動があった。


出産の際には萩、白美が六尾の妖狐として萩神社に控えて、巴様と同じ霊波を持つ新たな主人の生誕を待った。

雪には岩屋神社で子狐達の守りをさせている。

彼女たちも、落ち着かない様子で時を待っていた。


出産には木場らがあたり、その『恩恵』を得た。

アーバインでサラン、ルナの娘が産まれてひと月程で『サトリ』の能力を開花させたが、若菜との間に産まれた娘は、産湯を使っている最中にその能力を発揮した。

産湯を使わせていた助産師の女性に、『念話』で話しかけて来たので有る。

『貴女の右側の脳に小さな【瘤】が有るわ、一度診て貰って。お父さんに手伝ってもらって手術を受けなさい。娘から聞いたと言えばわかるわ』

こう、伝えて来たので有る。

思わず取り落としそうになったが、産湯を終わらせて主治医に相談する。

赤児は大きく泣くこともなく、若菜の胸に吸い付いていた。


「CTの準備を急げ!」

こうして助産師の脳への検査が行われて、言われたとおりに右脳に小さな腫瘍が見つかる。

メスでの除去が難しく、レーザーで焼くか?との話になったが、『お父様に手伝わせろ』との言葉を信じ、友嗣に手術室に入ってもらう。

友嗣が【遠見の陣】を利用した画像を見ながら、【転送】を使って細かな腫瘍の断片までも取り除き手術を終えた。

開頭もしない。

その後に行われた木場の一門の『術後ブリーフィング』で、レーザーを使った手術を続けた場合には障害が残る可能性が有ったと結論付けられた。



「これは美人になるのう。切長の目が、ワシにそっくりじゃ」

巴が、智美の姿で病院に祝いに現れた。

萩は涙が止まらず、白美も目を潤ませていた。

雪が果物篭をサイドボードに置いた。

「まだ、産まれたばっかりです。

どう、変わるかわかりませんから、勝手な事を言わないでください!」

「【巴】の名前を空けておるぞ」

「急に【智美】だなんて言い出したのは、コレもあったんですね!

イヤです!

巴様みたいに、わがままになったら大変ですから!」


若菜さん 母になって容赦が無い。

思わず引いてしまう巴様。

苦笑をする祝い客。

今までは平伏する対象であったが、『顕現』されてからは、良くも悪くも馴染んでいる。

学園に居ても盗撮犯や、個人的な知識で萩月に接近をはかる連中の意識を阻害して記憶から抜く。

カメラの取り扱いにも慣れて、フィルムを感光させていた。


友嗣は、彼女のそういった影の働きを知っていて感謝している。

もちろん、若菜も解っているが【巴】の名付けはお断りだった。

なんと言ってもやりにくい!


「もう、友嗣さんと話し合っていて【岩屋美沙緒】と名付けます」


「そうか、仕方ないのう。

美沙緒(みさお)か! 良い名じゃな!」

(まぁ、仕方あるまい。それに、この娘と私は繋がっている。【憑依】した状態の時に呼ぶ名が居るじゃろう)

「何か、たくらんでいませんか?」

若菜が鋭い目を向ける。

「そのような事は無い。ともあれ、先ずは一安心じゃな。

どれ、ワシはリーファの子供も見ていこうかの」


病室の外では、三人の眷属が話し合っていた。

「白美。間違い無いわね」

「えぇ、美沙緒様の霊波は巴様と同じです。言われたとおりに巴様に繋がっておられます」

「この事は、我等と雪だけの秘密にしましょう」

「萩月には、今までとおり私が、館林は白美が、そして岩屋は雪が守護に付きます。宜しいですね?」

「いいえ、萩様は岩屋へついてください。萩月には私が守護に付きます」

「雪、それで良いのですか?」

「繋がっていると言う事は巴様と同じ、であれば美沙緒様は萩様が御守りになるべきです」

こうして、それぞれが守護すべき家が決まった。


(岩屋には貫禄が付いた若菜様、それに巴様が憑いている美沙緒様。それにあのサランさんやルナさんまで、美耶さんは、自分の事は自分で済ませられるので助かるけど・・・・・私には荷が重すぎる)



リーファは、同じ階で休んでいた。

出産して、もう一月になるが、具合が悪いというわけでも無い。

医学的な興味から、産後の回復までの体の変化をエコーなどで見てもらっていた。

だから、外を歩いたり、こうして医学書を読んだり、日本各地の気候や産業について調べたりしている。

ふたりの子供も健康で、後はいつ聖地に帰るかという問題だけだった。


いずれは、ミーファーの出産も有る。

このまま、日本に残るか・・・・・

敵の本隊が、到着するまで15年以上。

子供達と日本で暮らして、馴染ませるのも手だと考えていた。

リーファの聖地での仕事も、孤児の引き取りが無くなって孤児院が縮小して来ており、一人暮らしの老人や、ケガや病気を患っている老人の介護も軌道に乗ってリーファは手持ち無沙汰だった。

一度帰って相談してみるか・・・・・

「そうじゃな。リーファは源蔵から聞いた様じゃが、こちらで暮らす事も考えておく方が良い。

だが、そうなると慣れない環境で取り残される者も出てくるやも知れん。

その者達の為にも、リーファはこちらに住むのも良いのでは無いか?」

「そうですね」

先に若菜のところに顔を出した後に、リーファに智美が、お気に入りのアップルパイを持ってくると【式】が伝えて来ていた。

白い、手のひら程の子狐で、可愛くてしょうがない。

『この術は物にしたい。美耶も、間も無く実体化できそうだと言っていた』


源蔵とリーファは、その夜話し合い、蒼の帰還を待って一旦、聖地に帰る事にした。


その頃、蒼は発電システムに苦労していた。

【魔素】の影響が出るのだ。

月夜石で動かしていると安定して動くのだが、聖地に入ると、どういう訳かシステムに組み込んだ【月夜石】が、周囲の魔素を吸収して制御困難になりブレーカーが落ちるのだ。

取り外した【月夜石】を【収納】がかけられた箱に入れて地球にいる源蔵に送る。

試しに収納に入れない状態で、真力を入れた月夜石も合わせて送る。


やはり月夜石も収納に入れて送らないと、真力が抜けてしまう様だ。

聖地で発電用に使った月夜石は、地球上でも安定した動きは見せなかったが、徐々に月夜石らしい安定した動きをし出した。

源蔵は発電機に使った月夜石に変化が生じたと考え、更に詳細に調べて、その原因を突き止めた。

月夜石が、真力を放出すると地球上では全体から真力が供給されるが、聖地で発電用に使うと、あちらこちらに虫食いの跡の様に穴が開く。

そこに、魔素が周囲から供給されて、真力と魔素が混合された状態で発電機に供給され、次第に魔素での発電になる事で制御困難となってブレーカーが落ちる。

【月夜石】が【魔素】を吸収するのは解っていたが、この様な働きをする事は初めて解った事だった。

『聖地で動かす時には、魔素で動かすしか無いか〜』

完全に行き詰まった。


この頃では、同じ『創芸師』ということもありカイが遊びに来る。

「ねぇ、ウルマに遊びに行こうよ。上の船が過ぎ去ったばかりだから外に出れるよ。

スキーも出来るし【バイ】とその子供達と遊べるよ!」

「バイ?」

「ミーファーさんが、つけた名前だよ。メスの狼。

【従順の魔道具】が付けてあって、万が一に備えて有るし、今まで噛まれた事は無いよ。

ちょっと、甘噛みはしてくるけどね。

ボアやトナカイも居る。

蒼は真面目過ぎるよ。

観光もして欲しい」


阿部夫妻は寒いのは苦手だと、聖地に用意された碁会所と木場晴美の元に別れて過ごす事にした。

「碁か〜麻雀に将棋、どっから見ても日本の下町の風景だよな〜」

「でも、やる事が出来て楽しんでいるよ。食べる事にも、難儀していた人達もいるからね」


食事も広場を囲む様に店舗や屋台まで出来た。

お金を使っていないけど、材料を配給して貰うために客から札を貰う、その枚数で経営状態と材料の支給量や管理状態をリル達が管理している。


「パソコンだっけ? リルか重宝しているよ。

彼女は毎日の事を記憶しているから要らないんだけど、人に説明する時に便利だって言っている」

「何気に、優秀な人が多いからね。

このまま日本に来たら、あっという間に大企業になってしまうよ。

どっかの国でも丸ごと買い取るか?」

なんて、話をしながら蒼は休暇を取る事にした。


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