248 迫る災い
出産が近くなり、若菜は木場が準備したリーファと同じ階に入院している。
相変わらず、萩月邸と館林邸周辺が例によって騒々しい。
館林の屋敷で過ごした後、友嗣が直接病室に【陣】を使わずに転移して入院させた。
萩と白美が警護に付いている。
木場 直が、アーバインに定住すると言い出し相談の結果、直倫が職を辞して妻の和美と共に萩月家に住まう事になった。
萩月の家宰は木場の従兄弟にあたる、【木場 直倫】が継いでいた。
長谷山が経営するホテルの支配人だったので一悶着あったのだが、常義のとりなしで仕方無いと了承した。
和美は『郷土料理研究家』で、様々な地方の郷土料理を客人や門弟、そして萩や白美、眷属の子達に提供しガッチリ胃袋を掴んだ。
和美が送った【式】の伝言を聞いて、雪が岩屋神社から今日のお惣菜とオヤツを受け取りに通う。
今日は、イバまで聖地に帰って来ていた。
部屋にいるのは、ルースを始めとしたゲーリン達を含めた各部門、地域のリーダーで、ウルマと浜の村からも、ここに一同が集まっている。
壁に架けられた【魔石板】に写し出された映像を、木場と青木が説明する。
「ここ、見比べると明らかに天体の移動とは違いますね。
光の強度が変化しますし、その変化が周期的です。
恐らく外壁に設置された太陽光パネルが周囲の恒星の光を反射しているんです。
その周期が短いです。
長さも感じられます。
この事からこの物体が、高速で回っている円筒形の物体という事が解ります。
コロニー艦と呼ばれる、大勢の人を眠らせた状態で収容した、とんでもなく大きな円筒形の筒の形をした船が先頭で進んで来ています。
通常は、この船は後方に控えて、前方に戦闘力を有する艦艇が先行するのですが理由は不明です。
大きさは縦半分に切ったら最低でも、【聖地の農園】くらいの大きさです」
あがる驚きの声。
無理も無い。
人の足で横に端から端まで歩いたら、1時間はかかる。
浜に向かって長い方向に進めば2時間だ。
「まだ距離が有るので解るのはこれだけですが、この光が変動する物体の後方にも、流石に大きさは小さくなりますがそれでも長さ数キロの一緒に移動している光の点が複数見受けられます。
コイツらが、護衛艦になると考えられます。
観測開始したばかりなので、この惑星系の中か内かはわかりませんが、夜間で北磁極方向から40度方向東側ですね。
夜間の観測エリアになります。
夜間に継続的な観測を続けて見失わない様にします」
「いつ来るんだ」メイルが聞く。
「まだ、こちらに向かって来ているので距離と速度が正確には観測できていないのですが、15年から25年と幅があります」
「それについてはわたしから説明しよう。
今から、この船はこのアーバインが有る星々の中に入って来るが、どうしても速力を落として進んでくる、
草原を走る間はどんなにスピードを上げても平気だが、林の中、さらに森の中に入ったら走れないだろう?
それと同じだ」
「その時間があるのなら、イバが地球でやった方法を準備して置いて撃ち落とせないのか?」
「多くの【陣】を展開して爆発させる事は出来るだろうが、その間に反撃が来ます。
この一番デカい船を落とす事が出来ても、後方の戦う能力の有る戦艦が、この辺り一帯を一撃で吹き飛ばすでしょう。
それに、このどれかの船が一隻でも落ちて来たら周囲はそれだけで火の海になります」
「そんなに・・・・・」
「空の上の敵は面倒なんです。
奴等が飛び立てなくなる時がやって来ます。
宇宙船を地上から打ち出せるエネルギーの調達には長い時間がかかるでしょうからね。
彼等が降りて来てから、闘いを始めましょう」
「ルース様が、言ってらっしゃったとおりか・・・・・地球はどうなんだ?」
「地球はアーバインより状況は悪いですね。相手にとって地球の軍事力は赤ん坊と大人の差があります。
しかも、相手にとって見えているんです。破壊は容易でしょう。
征服を考えない、ここを攻めて来る連中と同じだったら地球は数日で滅びます」
木場の冷静な解析だ、ルースも同意見だった。
「ですが、相手の動きがわかっていますから、徐々に手を広げて行きましょう。
今上空を回っている船は観測だけをしています。変化があれば、そこへ向かう様ですが、その範囲は決まっています。
ですから、その範囲外を探索して生きているアーバインの民の手助けは出来るでしょう。
もちろん、隠れ続けることに変わりは無いのですが、その為の手助けをしましょう。
決して、聖地やウルマへの移住をさせる訳では無いです。
あくまで、彼らをその地で生活させる。
分散させて生き残る確率を上げる。
聖地もウルマも新しい世代が産まれて来ています。
残酷ですが、それ以上の助けを与えるのは危険です。
特にこの向かい側に大陸には、接近しない様にお願いします。
侵略者達は、あそこに降りて来ます」
会議が終わり
ルースが萩月常義とイバと源蔵、そして萩月門下を呼び止めた。
サランとルナそしてゲーリンとメイルもいる。
「これから伝える事は秘密です」
青木が、何枚かの写真を拡大したものを取り出した。
「この右端がこちらに向かっている艦隊の拡大です。
それで、この左端にも光は弱いですが、前の艦隊を追っている光の集まりがあるんです」
「それは?」
「後続艦隊かも知れません。前の艦隊がアーバインに降りて整備を終えた頃に追加して降りて来る」
「それは・・・・・」
「アーバインは、間違いなく滅びます」
青木の考えは最悪の結果を予言した。
地上に降り立ち農地開発、インフラを充実させ航海する為の船舶を作り、コンクリートや鉄鋼石そして、エネルギー資源を手に入れて、その陣容を確立した時に後続艦隊がやって来て更に航空戦力まで充実させたら、アーバインは全く反抗すること間なく白旗をあげる事になる。
「15年後か・・・・・」
充分なようで短いタイムリミットを突きつけられた。
指導者達だった。




