238 後始末
ちょっと長いですが、次章への導入です。
【呪核持ち】は海水に弱い?
爆発寸前に海へ飛ばすのが有効と知ったのは、友嗣が広島で飛ばした男が泳げなかったのも有るが、どうも【海水】に弱いのでは無いかと、羽田の研究者が気付いた事から始まった。
【呪核持ち】を暴れ始めた状態で、川に飛ばしても平気で暴れて後に自爆するが、海中に飛ばすと早く自爆する事から海岸に近い街では【転送】で沖に飛ばす様に徹底させた。
岩屋神社にも一条の連中が仕掛けて来たが、伊東と釜が神社で、九州の各都市や沖縄でも長谷山道場師範『栗林 元』を筆頭とした長谷山一門の陰陽師達が、館林家から支給された魔道具を使い撃退していく。
こうなると、すぐに【転送】の魔道具を使わずに【呪核持ち】が自爆寸前に停止する事を利用して、無手の門人が相手をして周辺への被害を防ぎ停止寸前には、剣士が【呪核】を切り刻み爆発させずに、黒い炎をあげて炎上させた後に魔道具を近い海に飛ばした。
これで、無手の武人達の出番が出来た。
この方法を【式】で共有した陰陽師の無手の門人が、剣士と手を組んで討伐にあたる。
中には【式】を使って、次の現場を知り【転送陣】の設定をする非戦闘員の門人と組んで、各地を転戦するチームも現れた。
これが出来たのは、岩屋神社が産み出した【真力】を溜め込んだ多くの【月夜石の勾玉】が準備されたからだ。
九州と四国、沖縄そして、いくつかの島には、【呪核持ち】が現れた時に、その出現を知らせる【知らせ石】が組み込まれた【魔石板】が埋め込まれ、蒼と桜がその位置を式で伝える。
【式】を受け取った門人達が【転送陣】か【魔道具の陣】を書き換えて飛ぶ。
その、能力に合わせてチームを組み、チームによっては海が近ければ戦わずに、とにかく沖に飛ばした。
岸にたどり着いた時には足止めをして自爆するまで抑え込む。
陰陽師達に守らせた、やってはいけない事。
『大きな手傷を負う事』
『死ぬ事』
そして、
『現場に残る事』
その存在を、知られていけない。
今回の作戦に関わった者達には常に、この事を叩き込んだ。
支給された【魔絹布】のコートとフードを身にまとい。
事が済めば、一刻も早くその場を去る。
アトリエで掘り出し加工した『月夜石の勾玉』に白山の【真力】を吸収させておき、東北と北陸の門人が対応した。
山間部は【陰陽】を参考にした【奉珠】と【術符】を使った高野山の一団が、陰陽師と共に、岐阜高山で長野で宇都宮でそして仙台で【呪核持ち】を滅した。
『一条 譲』を月に飛ばした後は、美耶が次々と各地に【転移】で現れ【呪核持ち】を撲殺して海へ飛ばす。
重傷者を【治癒】で応急処置をして消えていく。
ルースと常義は、互いに競う様に都内の掃討作戦にあたる。
他の新宿に居た面々も都内を片付けてその場を去った。
疲労と真力の処理能力を超えた陰陽師達を、【式】を使って連絡を取り合い回収していく無地のパネルトラック。
各自が持った【月夜石のアクセサリー】が、その位置を回収にあたる門人に知らせ、車中で待機した戦闘力が無い門人達の白魔石による治癒を受ける。
そして、以前使った収容施設で休ませた。
友嗣達も中京地区から西を担当。
仁はアトリエの警備に付き、侵入者をとりあえず武力解除して体育館に置いた個室にどんどん飛ばしていく。
彼らを待ち受け、少々苛つき出した【晶】が、素性を暴いて個室に貼り付けていく。
その彼女を、支える様に付き添う聖地から転移して来た男の存在。
休憩の時には、あたりの目に構わず晶は彼の肩に頭を載せていた。
【遠見の陣】で、その姿を館林の屋敷で見ている茜と遥。
この一条の後始末が終わった後に、晶が言い出しそうな事がわかっていた。
日本全国が落ち着き、全国に埋めた【魔石板】が使い尽くされ白い砂粒になって消えていく。
アトリエのパネルから全ての、【魔石板】の表示が消え去った。
予備の回収も始めていた。
残っていたとしても、二日後には砂粒になって消えていく。
最後に消えるのは桜の花びらだ。
『ツリガネムシ・シンドローム患者』は海水を怖がると言う噂が広がり、夏も終わったと言うのに海水浴場は繁盛した。
海外でも海水を利用したプールが相次いでオープンし、会員証は自分が日本で流行った『ツリガネムシ・シンドローム』に感染していないという証明になる。
この騒動を撮った数多くの写真が出回っていたが、羽田の部下達は顔の周囲が映像に残らない様にする【遮蔽の術】を応用した帽子をかぶっていた為、どれも顔がピンぼけになって、それはそれで夏の終わりの幽霊騒ぎになる。
先頃、流行った怪奇現象で亡くなった人達が、霊になって各地に戻ってきた。
とか、漂って来た異臭も、あの世の匂いだとの話も流布される。
全国で行方不明になったのは一千人を超える規模に達した。
しかし、全世界を巻き込んで話題となったのが、半月だった月が自ら赤い光を放ち満月になり、しかも中央部分に赤い竜が現れた事。
肉眼では、赤く光る点にしか見えなかったが、高性能の望遠鏡を有する各天文台の写真と映像が【紅く光る竜】
の姿を捉えていた。
そこに、新宿御苑から月に向かって飛んでいった人とおぼしき物と、大阪から打ち上がった人物が月面上で竜になり、月面上で赤い竜と闘った事が騒ぎになり、全国の天文台には問い合わせが集中してJAXA、NASAも観測データの解析に追われている。
JAXAにも萩月の門人以外の人物がいるので、その行動を止めるのは不自然になるので放置した。
もちろん海外でも、観測がされて新宿御苑と代々木公園、大阪城公園は規制線が張られたが、何者かが存在した様なドーム状の地下施設と数多くの遺体も発見され、近くのビルや施設が互いに繋がっていた形跡が有ったが、公開されることは無かった。
「しかし、【転送陣】で【転送陣】を次々と先に送り展開して、そこを更に【転送陣】を通過させて通路を作る。最終的に、あの二人が【陣】を通過させる時に物理的にダメージを与える。
紅竜を月に飛ばした時には次々に【呪怨】を与えて、最終の陣にサトリの能力で眠りにつかせて【遮蔽】をかけた。
そんな、事よく考えつきましたね」
「紅竜は、どうしても紛い物でそのままでは、弱ってしまうから柳さんと黄さんに相談したんだ。
そして、【陰陽】の正式な使い方を利用した。でも、JAXAと天文台の画像を見せて貰ったら紅竜の奴は時折、寝返りをうって月の影の形が変わっていたんだ。後で見せて貰えば良い」
「なんだか可愛いですね。でも、月に行っても暴れた後しか残っていないんですよね?」
「あぁ、【遮蔽】を外して、一条の竜の接近を知らせたら『紅の炎』を出し始めて肉眼で見えたのだし、そのうち月面探査で調査船が行くかも知れない。でも、結局は未解決になるよ。その為にあそこに送ったのだからね」
「地球上では、隠せる事じゃ無いですからね」
「あぁ、でも今回手を貸してくれた、みんなにも見てもらえた。一条の最後を。・・・・・・準備はできたかい?」
「えぇ、それに何かあったらすぐに帰って来れます。岩屋神社の事、お願いします」
「あぁ、やはり、そろそろアトリエからはアーバインへ飛ぶのは控えないとな。
あれだけ駆逐したのに、又、周囲に個人の研究者や海外からの研究者が、彷徨いて田畑に踏み込んでトラブルになっている。
神社の方も立ち入り禁止にした。
勝手に神社の敷地で木々を切り払って映像を撮るためのキャンプを張る馬鹿がいて、警察署で留め置いている。
木場さんもお灸を据えるためにワザと、言い逃れができない様にして警察を入れたからな」
「諜報員もいた様ですね。【式】にかかれば裸同然ですのに・・・・・某国の軍トップが更迭されましたね」
「あれだけ捕まって、彼との時間を邪魔されて腹を立てた『晶』に私生活まで洗いざらい喋らされたら、もう命令に応じないだろうな」
「捕まっても捕まっても次々に送られた来て、記憶の読み取りで疲れ切って【晶】ちゃん。学園に行かずに聖地で暮らすと言い出して、遥さんと室さんを困らせましたからね」
「智美さんが、居なかったら大変だったよ。流石に、ご先祖様の言う事には逆らえないからね。
さて、あの時に捕らえた諜報員や民間人には眠って貰っているし、使っていた機器は回収して、蒼と九鬼の一門が改造して聖地に送る。色々と使い勝手が良い機材が入手出来て喜んでいるよ。特に映像関連の機材が羽田さんが羨む物まで手に入ったらしい。今回、聖地には木場さんも同行するし助産婦さんや産科医も向こうに移住を考えているそうだ。蒼や技術者も準備を進めている。
常義さんも準備ができたし、行こうか? 向こうでもサランが待っている」
萩月の周辺が騒がしく、先に帰ったルースとサランとルナの勧めもあり若菜は聖地で出産間際まで過ごす事にした。
ミアラはリーファに付き添って残っているが、ライラと心理師達そしてサーファは聖地に帰っている。
リーファは来月が出産だが、早くも入院して病院内で色んな医療機器について、そして予防医学について学ぶ。
「凄いですね。あの熱心さ。うちの看護学生に見せてやりたいですよ。
しかも、無理をせず。自分の体調と胎児を気遣った生活。
悪いですが、彼女の生活記録を取らせてもらっています」
「あぁ、それも彼女に取っては大切な資料になる。
聖地にリルと言って完全記憶能力を持っているチームがいる。
今度、そこから少年がやって来るが、もっと驚く事になる。
更に言っておくが、医師と看護層、助産師を目指す少年や少女もやって来る。
そこで、どうだろう。
彼女が出産したら、それについて行ってくれないか?
何人か獣人の女性で、異常出産を懸念する症例がある」
「何を言っているんですか!すぐに準備します。言葉は通じるんですよね!
リーファさんの事を頼める人材については心当たりがあります。
私達のチームは、すぐに準備させます。
それに、新しい設備なんて現地には無いんでしょう?
ならば、何も無い時代からやって来た私達が駆けつけなければいけないのは当然です!」
木場は認めるしか無かった。
息子には医療現場で、まだやってもらう事が増えた。
萩月の家宰は木場で続ける。
従兄弟にやってもらうか・・・・・・
晴美に聖地への移住について、どう切り出すかを考えながら萩月の屋敷に向かう。




