022 嫁
翌日
近隣の村長や義理の兄や姉妹を集めた会議の席で、冒頭からルースはその身を明かしたが、やはり皆知っていた様で大きな混乱は無かった。
聖地へ引き篭もる事も予測していたらしく、その範囲をどこまで広げるか、範囲外の他の村への対応をどうするかが議論の的になった。
今居る村人と関わりが有る村までは許すがそれ以上は認めない。
閉鎖された環境で暮らすのだ、必ず不平不満が出る。
それは諍いを呼び、分裂を起こす。
そして出て行く者、放逐される者が出てくる。
その者が【黒鳥】に見つかればどうなるか、結果は火を見るより明らかだ。
【銀の鳥】がやってくる。
そうなっては聖地も全滅する。
一番外側の集落から移動させる。
出来れば行き先は知られたくない。
【黒い鳥】は跡を探し出す。
荷馬車の轍の後を隠せない。
だが、ルースが断言する。
移動に際しては移動先を判断されない様にする。
そんなことが出来るのか?
もちろん疑問が噴出する。
そこで、イバ達が見出した【転送陣】が示された。
北の浜の端に置いた荷車が、反対側の南の浜に現れる。
高さの調整がまだだったので、人の膝の高さから現れてドスンと落ちたが、これなら跡がわからなくなる。
そして時期。
コレはまだ不明なのだがルースと予知の力がある者達は3年を目安と考えていた。
前村長夫妻もそれ位だと発言し、イバもそれくらいだと朧げに思う。
シューラも同意する。
こうして2年後から徐々に直接聖地か、ここ浜の村へ集まる事になった。
食糧の備蓄に関しても、保存が効く物を先に聖地へ集める事になる。
更に丘の村から家畜や飼料が聖地の中で育つかの試験をする為に、幾つかの家族が聖地に入る事になった。
更に若い世代には直ぐに子供を作る事を奨励し、聖地の男女も浜や丘の者と見合いをする事となった。
ワッグも聖地に戻らずに、このまま妻と新村に行く事になった。
「しかし、お前が術師の子供でファルバン家の跡取りになるとはね」
「それを言うならお前もファルバンに繋がる一門の婿だぞ! 精進しろよ」
「あぁ、勿論だ。早く子供を作って米や砂糖を作って聖地に送るよ」
「あぁ、頼んだぞ。聖地の住居は任せておいてくれ。魔素を防げば子供を作れるだろうと思っている。
考えている事もある。浜に来て良かったよ。一気に術の用途が広がった」
「あぁ、あの穴蔵に逆戻りなんだ。子供時代に怖かったから怖くない様にしてくれな。
後、便所と堆肥の臭いをなんとかしないとな」
「さっきの、転送見ただろう? アレ実は街の商家が使おうとした便所の魔道具なんだ。
【アレ】の街から川に飛ばしていた様だ。参考にして考えてみるよ。」
「かぁ〜そうなんだ。便所か! でも、聖地の中で作物育てるなら堆肥はいるぜ。便所の糞だってそうだぞ?」
「そこも考えている。水の供給と下水の排水は重要だからな。
聖地で人が住まなくなったのも、原因はそれだと思っている」
「なるほどな。おっとそろそろ行くわ。落ち着いたら一度新村に来てくれ。歓迎するぜ。早く子供作りなよ」
「多分、一度聖地に帰って浜に戻ったらそうなるだろうな。忙しくなるしな」
「名前考えているのか?」
「あぁ、もう決めた。お前は?」
「イリス!俺を守ってくれた、術師の名前だ。嫁も土の術が使えるからな。
昨夜、向こうの両親の前で呼んでやった。涙を流して喜んでいたよ」
「土を操る術師は【傀儡師】にもなれるから貴重だぞ。後で【傀儡の陣】を何かに書いて送っておく。
ぬかるみや崖を土人形に作業させるのに使える。良い女房じゃないか!」
「そうか!良い事を聞いた。ルイスいやルース様が新村を廻って術を教えてくれるそうだ。
お前もそうなると良いな。それじゃ元気でな。聖地の奴等によろしく言っといてくれ」
「あぁ、任せてくれ。元気でな、頑張れよ」
ワッグは去って行った。
当然、イバの傍らにはシューラが居る。
「名前考えてくれたの?」
「あぁ、もう決めた。きっと気に入ってくれる」
「まだ、教えてくれないよね?」
「あぁ、床入りの前に告げる習慣だってな。アレ? と言うとワッグの奴!」
「そうね。一緒に寝たって事ね。だからあの娘、今日は態度がデカかったんだ」
「うわ。ちょっと露骨すぎるだろう!」
「仕方ないじゃない。もうすぐ、この村から出て行くんだから。それよりも今日はどうするの? 」
「とりあえず、今岩場に張ってある陣の魔石を交換するので、ヨルムさんに岩場の陣まで連れて行ってもらって魔石の交換と陣の様子を見たらおしまいかな?」
「じゃあ、その後は二人っきりでいましょ!」
「そうだな。浜の岩屋について行ってくれないか?
まだ、荷を入れていないから確認したい物が有るかもしれない」
「又、お仕事? 仕方ないわね。アソコなら外から見えないし声出さなきゃ見つからない」
「何考えているんだ? 【陣】だよ。あの岩屋に特殊な【陣】があるのに違いない。それを探しに行くんだ」
「そんな事だと思ったわ。本当に【術】の中毒者ね。頭の中も【陣】が重なっていそうね」
「そうかもしれないな。さて行こうか」
イバが差し出した手に手を重ねて嬉しがるシューラ。
「こうして手を繋ぐのは初めてね。嬉しいわ」
北の岬の付け根に有る岩屋へ、二人並んで浜を歩いて行った。
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シューラがフラグを立てました。




