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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
231/928

229 同い年

6,000文字ほど有ります。少し長いですが宜しくお願いします。

さて、日は『室 兼親』が『萩月常義』と会談した日に遡る(さかのぼる)。

置き去りにされた『室の護衛達』

皆、当主【室 兼親】が、一門を閉じようとしている事は知っていた。

事実、彼らも口には出さないが、守り続けていた陰陽師の術が閉塞して来ているのを感じている。

彼らが使っていたのは、信長、秀吉、そして、キリシタン大名大友宗麟らが残していた【月夜石】

戦乱の最中、陰陽師達が使う『月夜石の勾玉』、高野山の『宝珠』は、美術品としての価値があった。

それゆえに各大名や寺社の宝物庫の奥深くに眠っていたのを、【忍び】でもあった室が盗み出していた、と言うのが真相であった。

特に九州の戦国大名『大友宗麟』は仏教徒と神道への締め付けが厳しく、自らの領地にあっても彼らや百姓を奴隷としてイエスズ教会に売った記録さえ残っている。

実は大友宗麟の領地には多くの陰陽道の流れを汲む者たちが残っており、あの岩屋神社の祠の裏に多くの【勾玉】を隠していたのを供出させられた史実が存在した。

それを『室』の忍びが盗み出していた。

現在は、これが最後の【月夜石】で割れずに残って居るのは数十個しか無い。

彼らも、真力の消耗が少ない【式】を使った『防諜』に特化する事で生きながらえて来た。

人柱を使ったのも、時の権力者に取り入る為で実際には脱出か変わり身を使っている。

しかし、一条は【呪核持ち】を使って山道を切り開く工事まで行い、その力を時の権力者に見せつけた。

次第に術師としての『室』の評価は落ちる。

権力者に、取り入る手としては【(かね)】を使うしか無い。

忍びの術と【式】を使って全国の農産物の作況を知り米を買い占め、時には海外からの密貿易の上前をはねる。

こうして、『室』は生き残っていた。


萩月との最終決戦で一条家が必ず滅するので、萩月が生き残った場合には萩月の下についても良いとは言われていた。

それがまさか、匿い続けてきた七条の娘を立浪家の当主として帰し、その下に付くとは思ってもみなかった。

護衛達は萩月常義から言われた通り体育館へ足を運ぶ。


「ゲッ! 栗林 仁!」

「ご挨拶だな〜 今は一矢(ひとつや)仁だ。

縁あって君らとは同門になるんだ、君らの実力を見て欲しいと『室 兼親』様からお願いされた。

一週間ほどでお戻りになる。

その間に【月夜石】を使った術が使えるようにしてみせよう。

だがその前に、無手での鍛錬を身につけてもらう。

全ては、それからだ!

ご当主が、帰って来られたら色んな事をお話になる。

そうしたら、この鍛錬の必要性が判る。

ここには、萩月でも様々な武術に堪能な者が多い。

自分が今、治めている体術に合わせても良いし、他の武術でも良い。

ちなみに、俺は古武道を基本にしているが『岩屋流』とでも言うべきだろう『戦闘武術』に変わっている。

実戦に備えるなら俺の所に来い!

先ずは着替えてくれ、体育館の更衣室に練習生用の道着が用意してあるから使ってくれ。

だが!驚くなよ!」


こう言われて、皆で体育館に入って行ってみる。

ママさんバレーが、行われていて『一矢 仁』に目配せをして来た。

「何せ補助金を入れた改修工事だったからね。表向きは地域の交流を主眼にしたワケさ」


(あぁ、又、畳担ぎ(かつぎ)か・・・・・)

【御室琴音】は憂鬱になった。

高校時代、合気道部は部員の少なさから武道場には入れず、体育館の片隅に畳を出して敷き詰めて練習をして下校前に慌てて畳を片付けて帰る日々だった。

嫌な思い出だ。


更衣室に入る。

「こっちよ」

ズラリと並んだロッカー。

その横手に有るシャワー室。

「設備は良いわね、あの汗臭いウチの道場とは違うわね!」

室の同僚が思わず口に出す。

まぁ、同意してしまう。

だが、その横に見慣れない物が有った。


二人並んで入る幅の壁が部屋に開いている、【遮蔽】という周辺に見えない壁を作る術の応用らしい。

【波を打つ扉】

「この扉は、萩月の者か許された者しか入れないわ。

【ルクア】さんは、もうすぐ【館林源蔵】さんになる方よ。

彼が作った仕掛けよ」


突然現れた【ルクア】という名の金髪で茶色の目をした青年の事は聞いている。

非常に流暢な日本語を話して、『九鬼修造』の義妹にあたる『青山 蒼』と婚約を交わしたらしいという情報が最近回って来た。

更に館林家との養子縁組を申請していて、認可される見込みだと言うことも解っている。

彼の父親が、ハーフらしいと報告が上がって来ているが写真は無かった。

兎に角、萩月家特に岩屋家には謎が多いのだ。

一条家を本気にさせて陰陽師としての家を捨てさせたのも、『岩屋友嗣』が『萩月若菜』と婚姻した事がきっかけだと言うし、その萩月若菜も、『一条 譲』から一億円の小切手を三枚むしり取ったと噂されている。

見るからにお嬢様なのだが、人は見かけに寄らないその実例だ。


「下に向かう階段だから気を付けて」


先に、案内してくれた萩月の女性が『波』を気にせず入っていく。

恐る恐る、踏み込む琴音。

こう言う時には同僚は必ず琴音を前に出す。


中に入ると灯りが着いていく。

「すごい、蛍光灯じゃ無い!」

何か板状の物が貼り付けてあって、何故だか気力が漲る気がする。

「【月夜石】を使った明り取りよ。【真力】を出しているわ。

慣れないと、この程度の【真力】でも気分が悪くなるから気をつけて。

【月夜石の勾玉】をもらうまでは、この灯りを使って、【真力】を使う練習をするの。

それができたらいよいよ、【魔石】を使えるようになる」

「【月夜石】は、わかるけど【魔石】って?」

「友嗣さんが貸してくださる物で、【月夜石】よりも強い力を与えてくれるわ。

はい、ここが更衣室。もうロッカーに名前を入れてあるでしょう?

室様に今回の護衛の方々の、お名前書いて頂いて決めておいたわ。

ロッカーは個人所有になっていて、あの通路を歩いて来るうちに【収納】から配置される。

無限に門人が増えても大丈夫かな?

さぁ、着替えて」

色々と解らない言葉が続く。

ロッカーを開けると、紺の襟が付いた合気道用の練習着が準備されていた。

袴も有る。

良かった。

こう言ったところに来ると、武術に関係無く襟が厚い柔道着が用意されてやりづらいのだ。

しかも、下着まで・・・・

「チョット、コレ!絹じゃ無い?」

他の女性からも、悲鳴の様な声があがる!

確かに【絹】だ。

すごく肌触りが良い薄緑と白の縁取りが綺麗な下着だ。

スポーツ用のブラまで絹だ!

ここにある分だけで、お給金が飛んでもおかしく無い!

「ハイハイ、身体を動かすには合わない下着の子はそれを着けて、でも、慣れるまで肌触りに気を取られて鍛錬にならないから気を付けて!と言っても、手にとってしまったら逆に気になって仕方無いのだけどね。

洗濯の仕方があるから後でね。何枚かロッカーに入っているから持って帰っても良いわよ。

でも市販されてないから気を付けて。萩月のとっておきの秘密だからね」


もう、この下着だけでも、萩月に下る価値があった。


御室琴音は、合気道用の練習着と袴で更衣室を出た。

驚いた。

通常の道場の数倍の広さがある。

聴くとアトリエと裏の小山の地下を、羽田と九鬼の門人を指導して重機を使わずに術だけで掘り上げて、周囲の岩や土の層をこれ又術で固めてあるそうだ。地震にも耐えれるし恐らく、どんな国の核シェルターにも負けないと案内して来れた女性が胸を張る。

長野に造りは違うが同じ様にシェルターを作って、一条に備えているそうだ。

良い匂いがする木の板が張り巡らせてある。

これは、凄くお金が掛かっている。



一部の床は板の間になっていて、剣術の連中が技を磨いている。

抜刀の試技は真剣を使って、剣を振るたびにどこからか巻藁が、位置と角度を変えて現れて来る。

時には複数出たり、軌道を変えて迫って来たり逃げたりもする。

嫌な動きをする様にコントロールされていて、今も、膝の高さに現れた。

女性の剣士が、それに向かっていく。

切り裂いたその低い体勢のまま、前転をかけながら逆手に又一本切り裂いて試技を終えた。


どういう仕組みなのだろう?

でも、あれは・・・・

「琴音!」

『御室美咲』だった。

何度も資料と調査中に生で見た事がある。

同じ『御室』で同じ歳、お互い未婚なのは何だか嫌だけど、今は、釧路の駐屯地に居るはずなのにどうして?

「美咲?」

「やっと、会えたね。気になっていたんだ!

そうか、晶ちゃんの付き人って琴音か〜

確かに、アナタなら安心ね」

「『御室』を裏切って、室についた一族よ!」

一瞬キョトンとした、御室美咲が笑い出して

「一条のハニトラに、うちのご先祖様がかかったのだから仕方無いよ。【呪糸蟲】の事を知らなかったのか、うちのご先祖様がスケベばっかりだったから、ウチらのご先祖は弾き飛ばされて一条についた。で、先代のご先祖が産まれたばかりの娘を抱えて萩月に逃げ込んで育ったのが、うちのおばあちゃん。それでウチが居るだけよ。

『室』が正しかった。一条に騙された、うちの先祖がアホやっただけ。

あかんな〜この事を話すとおばあちゃんの影響で、どうしても関西弁がでてくる。

まぁ、コレからは仲間や!」

調査報告書の通りに、底抜けに明るく無頓着な性格。

差出された硬い右手を握るしか無かった。


「あ〜室の諸君!面白い事が始まるからコレを見てくれ!」

白いパネルが何枚も繋げられ、一枚にされた板が天井から降りて来る。

「何、あれ?」

「まぁ、見ててご覧」

急に、灯りが薄暗くなり白いパネルに、一枚の映像としてグランドが現れた。

広がる歓声。

投影して居るわけではなく、あの板自身が映像を映し出している。


グランドには、ゲートボールを楽しんでいるお年寄り達がいた。

そこに、奥から岩屋友嗣が姿を見せた。

急に画面が分割されて、遠景のグランドと先程の映像に分かれた。

「ルクアさん!凝ったな〜」

グランド内のお年寄り達が端に寄っていく、岩屋友嗣が懐からノートよりも大きい程度の白い板を取り出した。

「あれ、コレって」

「そう、素材は同じ物だけど機能が違う」

遠景の方には、年寄り達が相変わらずゲートボールをしているように見えている。

「幻影?」

「そんな感じだね」

中央に進み出た彼の後に、『萩月常義』そして我が当主『室 兼親』様が姿を見せた。

岩間友嗣が地面に置いた白い石板に手を触れたと思ったら、青い巨大な陣が広がった。

こんな、巨大な【陣】を見た事がない。

しかも、空間に広げるなんて・・・・・・

だが、岩屋友嗣は頭を振って収縮させていく。

(大きすぎた様だ・・・・)


「へぇ〜流石にハワイだと三重の陣になるんだ。安全を重視する友嗣さんだから当然か?」

促されて当主が萩月の当主と並んで陣の中央に進み出る。

【陣】の外から空中に話しかけるようにしていた岩屋友嗣が【陣】に触れた。

足元から立ち上がる光。

もう一枚の映像では老人達のゲートボールが続いていたらしいが、そんな事はどうでも良い。

あの二人は何処へ消えた?

光が消えた陣からは二人の姿が消えていた。

その後も何人かが陣に入っては消えて、最後に岩屋友嗣と女子高校生が消えて、あの白い石板が残った。

それを、木場 博が回収して全てが元に戻った。

老人達が、何事も無かった様にゲートボールを楽しんでいる。

「美咲!・・・・ さっきハワイって言っていたよね?」

「そだよ! 私だって、琴音がブートキャンプに参加するって聞いたから、室のメンバーに親戚が居るって強引に来ちゃったんだよ。釧路の駐屯地から!

一週間!がんばろうね」


もう、お腹いっぱいの琴音だった。

この、道場でしばらく鍛えると言う話になったのは二時間ほど前だろう!

それでどうやって、釧路から京都の山奥に来ると言うのだ!

美咲が萩月は京都と釧路、東京には瞬間的に移動できる術を使う事ができて、今回はハワイの羽田家の別荘と行き来ができる様になったと言い出した。

しかも、ハワイで結婚式をあげるのが、あの正体不明の【ルクア】、もちろん新婦は青山 蒼。

彼と岩屋友嗣が、異世界から来た義理の兄弟でルクアの姉が岩屋友嗣の正妻という事。

そんな事は知って居るが、なんだ!その異世界から来た新郎!

もう、頭がおかしくなりそうだった。

「無理も無いよ、私も最初知った時にはそう思ったもの。でも、この道場に入るあの扉、そして飛び出して来る巻藁どう思う?

この壁だって、どんなに傷付けてもすぐに治ちゃうよ」

と言って、いきなり切り付けて見せた。

木屑が飛んだが、何も変わりがなかった。

木屑さえ消えていた。


その日は、簡単な体術のお披露目になったが、萩月の門人は人外になっていた。

室の中にも高位の術者の中には、空間を移動する様な捌きをする者もいるがそれを超えている。

それに、身に注がれる【真力】の扱いが曲者だった。

力の加減が解らない。

相手に組みに行って横を通り過ぎてしまったり、軽く投げたつもりが壁に思いっきり叩きつけたりしていた。


「無理もないよ〜慣れるまでは、投げ技は仁さん達『長谷山』の門人に受けてもらいな〜、奴ら、女の子に投げられると喜ぶから!」

「こら! 美咲!人聞きの悪い事言うな!

だが、構わないぞ! 本気の友嗣さんや仁さんに比べれば可愛いもんだ。

それくらいにならないと、一条との決戦には出して貰えないからな!

特に、離れての技を使えないと【自爆】に巻き込まれるぞ! 【身体強化】と【遮蔽】【盾】を身につけろ!」

「まぁ、まぁ 糸賀。今日はここまでだ!【真力】に振り回されて後で辛くなる。

それに、歓迎会の準備だ!

友嗣さんが、山の様に肉と例のタレを差し入れてくれている。

先に、風呂に行って来い!代金は不要だぞ。

今夜は無礼講だ。酒も出すが呑まれたやつは明日がキツいぞ!

宿舎も空いているし、女性は温泉施設の外から用意された部屋に入れる鍵を受け取って来い」


グランドいっぱいに用意される、網と手製のデカいジンギスカン鍋、沢山の握り飯に野菜!

近所のおじさんおばさんそして、子供も参戦して食べるだけ食べた。

こうして、お腹いっぱいになった一日が終わった。


美咲に部屋を取っていなかったと琴音は泣きつかれ、一緒の部屋に布団を並べてお互いの一族の話をした。

そうか、室に移った御室と同じで、萩月に入った御室も苦労して来たんだ。

明日は、美咲の師匠がやって来る。

楽しみだ。

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