021 告白
その夜
前村長夫妻、村長の家族(ライラ、ミクマ、シューラ、ルクア)、イバ、ゲーリン、メイルで食卓を囲んだ。
前村長夫妻はルイスの事を気遣って新村に移っており、シューラの婚約を非常に喜んでいる。
しかも、相手がファルバン家で術師として将来を期待されたサキア、そして同じくファルバン家の当主夫人の弟子でありお世話係だったマウアの子であるイバで、しかも前村長が見込んで婿に取り実子を差し置いて村長の座を譲ったルイスの弟子になるというのだ。
ルイスは【銀の鳥】の攻撃を防ぐ為の手段を、海沿いのこの村と新村に施して村々を守った。
それ以上の守りを展開できる新たな婿は、老夫婦にとっては喜びだった。
精製した塩は老夫婦も昔、口にした事があるが高級品であった。
それをイバが精製して口にさせてくれ、更に新村でも作れる様にと精製用の大皿を送る事を約束してくれた。
ミクマが育てた魚も、小魚から成育させた物が食卓にあがる。
ルクアが作った魔道具の灯りは、老夫婦の夜の不安を取り除いてくれる事になるだろう。
何よりもシューラの明るい笑顔とイバに甘える姿は、今まで見せたことのないものであった。
『ひ孫が楽しみだな。』
そう和かに過ごしていた。
宴も終わりを迎えようとした時に
ルイスの後ろに、聖地の長とその護衛が臣下の礼をとって跪いた。
ルイスが立ち上がり老夫婦に深く礼をして言葉を発した。
「長い事、皆様には恩が有りながら秘密を抱えていた事をお許しください」
その姿に姿勢を正す一同。
「私の本当の名はルース・ファルバン。
術師の一門の長で有り【アレの街の領主】で有ったメトル・ファルバンとメルル・ファルバンの子です。
ご存じとは思いますが、私の家族は【銀の鳥】に両親と二人の兄と姉を、一門の高弟と共に私を除いて皆殺されました。
アレの街を襲った【銀の鳥】の攻撃でファルバンの門弟は殆どが亡くなり、各地に残存した者が残りましたが、何人かが己をファルバン家の継承者として名乗りをあげています。
しかし、ここに【黒石板】が有る事が私が正統なファルバン家の後継者で有る事を証明しています」
ルース・ファルバンが胸の【収納】から黒い石板を取り出した。
その【黒石板】が持つ魔素の量にイバは圧倒され震えた。
これを収納するなんて無理だ。
ミクマ、ルクアも無理だとわかった。
シューラは、表情を変えない。
「今まで秘密にしていた事は謝罪します。
それは我が命と繋がる皆様を守る為に続けて来た事。
ここに居る聖地の長ゲーリンは、ご存じの通りファルバン家の守備隊隊長。
メイルはその副官として私の一家を守り尽くしてくれました。
そして我が義息となるイバの両親は、我が一門の高弟で有り私の師となる男でした。
それを隠して今まで過ごさせました。
ですが、この場でお話ししました。
明日の村長会議で皆に告知します。
一つは将来、後継をイバとし、私は聖地に入った後はゲーリンから聖地の長を引き継ぎ、
その副官の一人としてルクアを育てます。
そして彼にはファルバン家の傍流の開祖として新しい術師を育てます。
ミクマにも浜の村長として聖地を支え働いてもらいます。
シューラには各村から集まるサトリの長として働いてもらいます。
二つ目は・・・・・又、【銀の鳥】がやって来ます。
今度は10年前以上に激しい攻撃が想像できます。
父上様、母上様には聖地で過ごしていただく事になる事をお許しください」
頭を下げ続けるルース。
静かに義母が話しかけた。
「頭をおあげなさい。ルース。解っていました。知っての通り私も【サトリ】で【予言持ち】です。
メルル様をお慕いしていて、あなたがファルバン家三男ルース様と知った上で婿にと決めたのは私です。
もちろん夫の許しを得てそう決めました。【銀の鳥】の事も解っています。
天空に有る邪悪な物が蠢動を始めています。
私も、この術をシューラに伝授します。
そして新村の事は任せなさい。
誰一人欠けることなく聖地に向かわせます。
ミクマ、ルクア、イバそしてシューラ。それぞれの長として働きなさい。
ライラ、知っての通り聖地では子をなす事が難しくなります。
イバ達が、なんらかの方法で解決してくれると思いますが、それでも女は不安に思うでしょう。
女の不安は男を揺らがせます。女達をまとめてください。
兄や姉達も協力してくれるでしょう。
前から知っていた事とは言え、改めて自ら話してくれた事を嬉しく思います。
この浜と新村の発展。
ありがとうございます。
そして、今再び訪れようとしている脅威から皆を守ってください。
ルース・ファルバン様 お願い申し上げます」
最後は夫婦二人で頭を下げてルースにお礼をした。
ルースの眼から涙が溢れていた。
宴席を離れて二階へ上がる。
ルクアがついて来た。
遠見の陣の当番になった若者達は、今日の宴の料理を分けてもらって食べている。
静かな海が眼下に広がる、
「皆、知っていたんだな」
「そうだな。特にお前のお婆さんはルース様のご両親と馴染みだったとはな。それならば、実子を差し置いてこの村の長にしたのがわかる。
ルース様が全力でこの村々と聖地を守った意味もな」
「しかし、ファルバン家の傍流の『開祖』になれって・・・・・どんだけ、俺に負担かける気だ?
俺はミクマ兄貴とイバ兄貴を支えていく方が楽なんだがな?」
「将来を見越しての事だろう。各地に残ったファルバン一門との軋轢はなかなか解消する物じゃないだろう。
そいつらを纏める為にもファルバン家と並ぶ一族が欲しいのじゃないかな?」
「俺が唆されてイバ兄貴を殺して、ファルバン一門の長になるって思わないと思っているのかね?」
「だからじゃないか? 今さっきミクマ兄貴と俺を支えてくれるって言っただろう?」
「全く人が良いね。イバ兄貴は!」
「それはお互い様だ。ミクマ兄貴も自分の力を知っているから文句を言ってこない」
「長男だ、次男だなんてコッチを殺しに来る奴には関係ないからな」
「あぁ、あの星々の中に居るんだろうな・・・・・」
「・・・・・どんだけ居やがるのかね?」
「・・・・・」
二人は、波の音を聞きながら夜空を見上げていた。




