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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
222/928

220 サーファ

「やっぱり、良いですね〜

北海道の夏!

憧れだったんですよ!」


大きくなったお腹の若菜が、はしゃいでいる。

妊娠4ヶ月の旅行などするべきではないのだろうが、【転移陣】を使うならと許しが出て居る。

京都の暑さでエアコンが苦手な、若菜がへばったのもある。

それに、近々、ルクアと蒼との結婚式がハワイで行われる。

もちろん、航空会社の規定で安定期に入る前で若菜の渡航に問題がないわけでは無いし、一条の眼が何処に有るかもしれない。

自爆野郎と、同じ機体に乗り合わせたくも無い。

特に友嗣と一緒だと眼を引くだろうという事で、何人かは密入国する事になる。

その為の、アトリエと釧路を繋いでの転移陣を使った場合の若菜の体調の確認も兼ねている。


釧路の駐屯地に出るなり威力を落とした『鎌鼬』が秋子を襲う!

(しず)!】の掛け声に応えて髪飾りから変化した薙刀で、鎌鼬を払い去る秋子!


「いい物を作って貰ったね! 秋ちゃん!」

「物騒な技! 使うのね!ひとみちゃん!」

イヤイヤ、薙刀と抜刀術用の真剣を持った、ふたりが言うセリフじゃないでしょ!


『一番最後に』と秋子に順番を決められた友嗣は、やっとその意味に気がついた。


ひとみなら【転移陣】から出た瞬間を狙って来る。

秋子なら、きっとどうにかして、【鎌鼬】を防いで見せてくれる。

お互いに笑い合うふたり。

その手にした薙刀も真剣も、含み笑いをしている気がするが・・・・『私も名で呼んで欲しい・・・・・』と聴こえた気がしたのは気のせいか?


薙刀使いの茜様がジーぃっと友嗣を睨んでいる。

その他にも羽田毅、御室美咲らも、秋子の薙刀に注ぐ羨望の眼が痛い。

それに、皆が気付いていた。

朝霧ひとみが、空間から抜刀用の真剣を抜き出した事を・・・・・

【収納】が使えている。

実は朝霧親子は【収納】が使えるようになっていた。

ひとみは、その器用さからと息子の影響。

息子の(ひろし)は、あのいい加減な【転移術】で多くの【式】を空間に撒く事で【魔素】の処理量が上がっている。

ひとみは息子の様に、あの亀の【式】に陣を背負わせて、いくつもの場所を転移して相手を抜刀か鎌鼬で切ることができていた。

日本で、最強はこの人だろう。

友嗣でも、いきなり襲われたら【盾】を張って間に合えば、なんとかなる程度だった。

中京地区の取り巻きと、人間爆弾を始末したのは朝霧ひとみだった。

この話は別途外伝で・・・・・


茜、秋子は朝霧ひとみが運転する車で、釧路東岸から知床半島を周り、網走から釧路に帰って来る間で温泉巡りをして帰ってきた。

友嗣と若菜は釧路では北極星に宿泊し、猫達の歓迎を受けた。

夏ということもありジンギスカンでは無く、BBQで時を過ごす。

友嗣が忙しい中、免許を取得して自由な行動が取れた。

どうせ、羽田毅達が何処からか【式】で見守って居るのだろう。

新たに作られたキャンプ場を見て、子供達の受け入れ用にと見て回った。

乗馬も友嗣がやってみせて器用に馬を操ってみせた。

サトリの能力を使えば簡単らしい。

若菜もコッソリ使って見たら、周辺の馬や牛が集まってしまい大変だった。

「こんな事は無かったなぁ〜」

あまりの懐きぶりに乗馬クラブの職員が驚いていた。

こうして、短い北海道旅行が終わった。


この間も美耶は、八王子と横須賀で警戒にあたっていた。



「しばらく、温泉に入ることはないのか〜」

男ふたりが、朝っぱらから湯船に浸かって、青空を見上げている。

一条 篤と関 慎一だ。

室からの忠告もあったが、ふたりを裏高野山で遊ばせておくのは勿体ないと、常義も九鬼修造に続いてふたりを送り出す事にしていた。

彼らの他にも退職した医師や医療関係者そして、靴の加工業者が聖地とウルマに渡る。

転移者は全員ポアーザの診断を受けるが、このふたりには【呪糸蟲】の影響は残っていなかった。

石化した方が爆発はするが、安全なのかも知れない。

ふたりはツマミとビールの定期供給を、お願いして転移して行った。

特に醤油と味噌、漬物に豆腐と要求がうるさく閉口してしまった。


関は無手の道場で子供達に教える事になっていて、篤は関と子供達に勉強を教える事になっている。

後一年、頑張れば大検にかかるだろうと篤が太鼓判を押していた。

慎一も、どうしてこんな簡単な事が解らなかったんだろうと頭を捻る。

教える奴が上手いのさ!

実際、篤の教え方は上手く、聖地での教育の功労者にあげられた。



日本への子供の一番乗りは『サーファ』になった。

父、ルクアの結婚式にルースと一緒に参列する為である。

未だ三歳のサーファの地球への転移は心配もあったが、リーファの強い要望もあり短期間でも有るからと行かせてみることにした。

リーファは、サーファが違う世界を見る事で、娘が何かを掴んで来る様な予感がしていた。

サーファは、お父さんに複数の妻がいる事は気にしていない。

それどころか、サーファにお母さんがひとりしかいない事を寂しく思っている節もあった。

しかも、自分にとって従兄弟にあたる兄、姉も多く居るしかもみんな、もうしばらくしたら日本に行ってしまう事を知っていた。


アトリエに、少女の大きな声が響き渡る。

「パパ!」

ルクアの娘『サーファ』である。

金のウェーブが、かかった長い髪と青い眼。

ルースの自慢の孫である。

「ルース! ようこそ地球へ!」

すっかり仲良くなった常義が、迎えに出る。

「常義! 元気そうで何よりだ!」

「さあ、早く【陣】の外へ!サーファ! いらっしゃい! 楽しんでおくれ!」

「おじちゃん!ありがとう!」

常義の目尻は下がりぱなしだ。

聖地に着いた時にも、このふたりが出迎えてくれたのだ。

サランは大泣きする、修造に手を取られて大変だった。

「お父様。初めまして若菜です。お会いできて嬉しいです」

少し大きくなった、お腹で若菜が出迎える。

未だ長い黒髪で、すっかり赤くなった瞳の若菜。

「おうおう、若菜さんか!やはり写真で見るより美しいな。お腹の子も順調なようで、何よりだ。

いつも、聖地の事を気遣ってくれてありがとう。

みんなが、やり甲斐を感じて生活できているのも皆さんのお陰だよ。

重ねて礼を言う」

深く頭を下げるルース。

「頭を上げてください。お父様。私達も、友嗣さんが居なかったらどうなっていたでしょう。

今はもう、お互いが家族ですから当たり前のことです」

「さあさあ、挨拶は抜きだ!温泉に行こう!」

「そうじゃ、ミーフォーが写真を送って来てな!サランとルナが悔しがって居たわ! ポラロイドと言うのか、アレは便利だな。ルクアの後を任せている土の術師が重宝している。

友嗣と美耶は、ハワイに準備の為に行っているのじゃったな?

若菜さんも行けば良かったろうに」

「いえ、来週には行けますから、今は、美耶姉さんに楽しんでもらいたいです。

こちらに転移して、その夜から、姉さん働き詰めですから」


「あの子らしい。

困った人が居たら身体が動いてしまうのだよ。

若菜さん。 友嗣もだが、あの子も見てやっておくれ」

「はい。大好きな姉さんですから」


温泉ではサーファが大人気になっている。

何せ愛くるしく、人懐こいし流暢に日本語を話すのだ。

事務所からタカさんが出てきて、売店のオモチャを、次々に渡そうとして秋子に怒られていた。

その秋子も『アキおばあちゃん』と呼ばれて目尻が下がりぱなしだった。



蒼とルクアはハワイでの挙式前にやり上げておきたいと、今日もアトリエで作業中だ。

サーファは、そんな二人にくっついて離れない。

秋子に抱かれて、二人の作業場での作業をじっと見つめて居る。

今も、蒼が加工を終わらせたレーザー加工機を清掃する様子を見つめている。

ルクアは蒼の、この作業後の清掃を参考にして、聖地での魔墨加工場の安全管理を進めた。

魔素酔で【遮蔽】が緩くなって、魔石を吸い込む事故を防ぐことが出来る。

あの回廊での作業でも・・・・・魔石の粉を作る作業場でも・・・・・


作業する際には、ミダクが残したネックレスを瓶に入れたまま外に出して作業をする。

蒼もプロポーズの後からは、彼女が見守ってくれて居る気がすると喜んでくれて居る。


「ハワイに行く前にお守りとしてサーファにも作ってやるか・・・・・」

「それ、良かったら私に作らせてよ。

サーファちゃん! お守り作るけど、どんなのが良い?」

サーファは迷う事なく蒼の胸許で揺れるペンダントと秋子の髪留めを指差した。

「アオママのペンダント綺麗! アキおばあちゃんのパッチンも綺麗!」

「解った! サーファの金色の髪に合う様にカチューシャにしよう。ペンダントだと引っかかると大変だから、チョーカーにしておこうね」

蒼はペンダントの魔石から少しずつ魔素を取り出しながら、赤魔石を加工していく。

ルクアのプロポーズの後から、魔石の指先での加工を試している。

ヘルファも同様だ。

ルクアの印章の【波】を少しアレンジしている。

ヘルファのチェーンも、一つ一つの輪に波が刻み込まれている。

こういう作業も、レーザー加工機無しでも出来る様になって来ている。

チョーカーを加工し終わり、ルクアに渡す。

ルクアが【障壁の術】を刻み込む為だ。


次はカチューシャだ。

サーファの目が、蒼の指先に釘付けになっている。

注ぎ込む魔素の加減を調整して、銀の台座に金の波を刻んでいく。

ピンクのイルカとブルーのイルカをあしらってサーファの髪に合わせていく。

サーファの霊波に合わせてあるから、おいそれとは外せない。

やはり裏に【陣】が刻まれていて、サーファの位置をルクアと蒼そしてリーファに伝えてくれる。

サーファは、このカチューシャがいたく気に入り、飾りを追加したりしたが大きくなっても使い続けた。

その夜は、ライラ達も萩月と高野山の女僧に、任せて温泉にやって来た。

すっかり秋子に懐いていたが、やはりライラも大好きで、その夜はグランドで花火をしたりしてはしゃいでいた。

近くの子供達も遊びに来て、大はしゃぎしてしまい。

カチューシャを外さずに寝てしまう。

「大きくなったもんだね」

「花火を怖がりもしないよ。私のバカ兄貴たちが居なくって幸いだったよ。きっと、でっかい花火を作るって言って大騒ぎしそうだからね。・・・・・でも、こういうのも良いもんだよ。

人を楽しませる物を作るって言うのもね」


ライラは星空を見上げてそう思った。

「星空に【黒鳥】や【銀の鳥】を探す夜は無くさないとね」





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