213 苫小牧
「予想外の事で治療が先延ばしになったけど、【卵】を産むのか?」
「解らないが、調べる気にもならん」
「【芽胞】と呼ばれる増殖方法に近いのだろうが、生物でも無いんだ。調べるなんて思う方が危険だと思う」
「ですね」
後を任された『木場圭一』は、羽田の医療団と相談していた。
テレビ報道でも、『人体発火現象』を起こした被害者の遺留品から身元が明かされ、縁者へのインタビューが次々に行われる。
行政からは報道自粛の要請がされているのだが、互いに煽り合って歯止めが効いていない。
死体すら残っていないか、生き残っていても身体と心に傷を負っていると言うのに・・・・・
通常の社会復帰は、出来ないだろう。
心配された様に、ここ数ヶ月の間で日本国内で、他所の地域にいたり上京したばかりの女性が殆どだった。
【一条 譲】だけでは、数が多過ぎる。
萩月一門と友嗣は【一条 豊】も【呪糸蟲の感染源】になったと確信している。
大陸に行かずに、譲と行動を共にしている。
一光に連絡を取り、柳に調べてもらいたいと告げた。
一光も、『御堂の主』から関東圏に人を出せと言われて準備している。
女性の心の安寧の為に、高野山女人堂の協力を仰いであるそうだった。
友嗣には宗教が解らないが、これはありがたい事だった。
数人づつでも預かって貰えれば【奉珠】【法力】で、心の安寧を得ることが出来れば助かる。
特に、この八王子周辺に協力してくれる寺院が多いのも、移動に難が有るライラ達には負担を軽減できる。
一光に礼を言い電話を切った。
ライラ達には寿美が、自分の別宅に招いて休んでもらっている。
警護も転移陣の為の部屋を設けて、友嗣か美耶の応援がすぐに駆けつけれるようにしておいた。
前回、関東圏で三百人を超える程度保護出来たが、今、両角家の調査で確認している他県の数を見ると同程度みたいだ。
妨害や意図的な反撃は、無かったと言っていい。
他県にも手を付けて、早く解放してやりたいが人手が足りない。
カプセルから、出たらどうなるかも気がかりだ、
美耶が海が見える横須賀が好きだと言うことで、九鬼が用意してくれている横須賀のホテルを、作戦終了まで使わせてもらう事になった。
二人なら【式】でも電話でも連絡はつくし、【転移】で距離は関係ない。
カプセルに、女性を隔離収容して今日で五日目。
中には【蟲の発生】が起こらなくなった女性も居たが、意識の混濁が深くカプセルから出せないでいた。
だが逆に準備を充実できる。
この間も二人は北海道から順に人口密集地にあり、何らかの【陣】が仕掛けられて居そうな場所を探した。
札幌市とその近郊で三ヶ所、函館市と苫小牧市、それに釧路にも怪しげな場所が有った。
釧路の駐屯地の司令官を務める『羽田毅さん』らにこの事を伝え、自分達の【術式】では無くハッキリと視認出来ないが、感覚的な物だが何かがあると伝えておいた。
「感覚は大事だ。中には入り込まない様にしておこう。【式】で見張るだけにしておくよ。しかし、可愛い奥さんだな。姉さんじゃ厳しいんじゃ無いか?」
釧路でも、そう言われてしまって美耶は複雑な表情をしていた。
そこから順に関東へ接近したが、仙台市、福島市、新潟市、に各一ヶ所。
関東圏は土浦市、宇都宮市、千葉市、東京都内六ヶ所、
とまあ、こんな調子で全国に存在していた。
その全てに、【式】を使った監視を付けている。
「大きな歓楽街を持った都市で、人口がある程度の数が有り住宅街の近くですね」
友嗣に資料を持参した九鬼の門人が全国の状況を報告した。
友嗣が横須賀のホテルに居るのも眼下に、その公園が見えるからだ。
それも合って此処には、常義から伝授された姿を消す【式】を置いている。
更に数日が過ぎ間も無く、日も変わろうとしている。
今日も、収穫無しかと眠ったミーフォーの元に向かおうとした、その時、公園の中に人影が入って行くのが目の隅に引っかかった。
奴の歩き方・・・・・見た事がある。
「ミーフォー! 起きろ! 奴だ!」
飛び起きるミーフォー。
男は周囲を気にする事なく真っ直ぐに公園の中央に立ち、おもむろに両膝をついて両手を着いた。
男の背中越しに浮き上がる【術符】。
ミーフォーが『新宿御苑』で見たあの術式だ。
その集約部分に奴の体が有り、奴に向かって何かが送り込まれる。
その光はやがて消えて、光が収まった。
男が更に腕を押し込み地中から、棒状のものを引き出した。
そして、それを片手に持ったまま車に戻る。
一瞬、奴がホテルの最上階に目をやって、ニヤリと笑った顔を【呪核】が動き回る。
見られている事を知ってやがる。
「イバ、あの公園のイヤな感じが消えた」
「あぁ、あの棒が、その根源【呪旗】なんだろうな。そして、ワザと見せつけてやがる。あのカナヅチ野郎!」
「あの、若菜を落とした鞍馬とか言う山の中で炎のお祭りの日に、泣いて、泳げないって言った人ね?」
「・・・・・まあそうだな」
(落としたって言うなよ・・・・・実際は、俺が落ちたと思っているんだから・・・・・)
【式】で尾行されているのを知りながら、気にも留めずに『横浜関内』のビルに車が吸い込まれる。
この日を境に、全国の【呪符】が埋められている場所で、回収行動が始まる。
しかも、今度は通勤通学時間を狙って堂々と仕掛けて来た。
最初に行動を起こしたのが北海道。
ススキノ周辺の三ヶ所に埋め込まれていた【呪旗】を連続して回収されてしまった。
住宅街に【呪旗】が存在しているのが仇になる。
【腐術】でも使われたら、被害が甚大だ。
パニックも相手の狙いなのだろう。
相手の男は堂々と、苫小牧市に向かって車をすすめる。
此処では『不発弾処理』と偽りの発表をして、近隣住民を強制的に避難させてあった。
警戒線が張ってあるが、奴の車を停める事はさせずに警察官を横に避けさせた。
車内を覗いてしまった警察官が、怯えた表情をする。
道の、ど真ん中に車を停めて近づいて来る。
こいつ一人か?
対応するのは羽田毅
サポートを御室美咲
「そこで、止まれ! 立ち入りを禁止している区域に入ったんだ。拘束させてもらう」
「・・・・・フン! やってみな!」
「止まれ! 最後の警告だ!」
「だから! やってみなよ!」
何処からか、【呪旗】を2本取り出し身体の前で交差させて構を取った。
「羽田さん! やる気みたいですよ!」
「だろうな。萩月一門の初手合わせは俺みたいだな!」
「譲って貰えませんか?」
「そうはいかんよ。兄弟子としちゃ、良いとこ見せないとな!」
腰抱きにしていた刀袋から、抜刀術用の日本刀を取り出した。
刃は落としてあるが、代わりに幾つかの【陣】が蒼によって彫り込まれている。
ルクアが、【青魔墨】を使って【陣】を浮き出させている。
「友嗣君に早く【収納】を教えてもらわないとな。格好いいだろうな!その方が!」
「たかが、陰陽師風情に止められるのかな!」
一気に突っ込んできながら左、右と払って来た。
黒い塊が【呪旗】を離れて襲って来る。
「聴いていた通りだな!」
羽田が大きく構えるわけでもなく、鍔鳴りの音をさせた。
切り裂かれて黒い霧になって消えて行く『黒い塊』
美咲には、黒い塊に憤怒の顔が浮き出ていたのが見えていた。
「へぇ〜羽田だっけな? 11月に釧路の基地で、けし掛けた時には監視だけをしていた筈なんだが、そんなこともできる様になったか?あの、憎ったらしい岩屋のお陰か?まあ、奴の相手が出来ないのは残念だが、お前だけは消して置いた方が良いだろう!」
見る見る、相手の雰囲気が変わる。
「御室! 気を付けろ、コイツは少なくとも【呪核】を五個は埋め込んである筈だ」
「ほほう、柳からの情報か?」
「あぁ、ジャイも一条には切れていて、柳に情報洗いざらいぶちまけた!」
一条と輪道が、対立?




