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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
215/928

213 苫小牧

「予想外の事で治療が先延ばしになったけど、【卵】を産むのか?」

「解らないが、調べる気にもならん」

「【芽胞】と呼ばれる増殖方法に近いのだろうが、生物でも無いんだ。調べるなんて思う方が危険だと思う」

「ですね」

後を任された『木場圭一』は、羽田の医療団と相談していた。

テレビ報道でも、『人体発火現象』を起こした被害者の遺留品から身元が明かされ、縁者へのインタビューが次々に行われる。

行政からは報道自粛の要請がされているのだが、互いに煽り合って歯止めが効いていない。

死体すら残っていないか、生き残っていても身体と心に傷を負っていると言うのに・・・・・

通常の社会復帰は、出来ないだろう。

心配された様に、ここ数ヶ月の間で日本国内で、他所の地域にいたり上京したばかりの女性が殆どだった。

【一条 譲】だけでは、数が多過ぎる。

萩月一門と友嗣は【一条 豊】も【呪糸蟲の感染源】になったと確信している。

大陸に行かずに、譲と行動を共にしている。


一光に連絡を取り、柳に調べてもらいたいと告げた。

一光も、『御堂の主』から関東圏に人を出せと言われて準備している。

女性の心の安寧の為に、高野山女人堂の協力を仰いであるそうだった。

友嗣には宗教が解らないが、これはありがたい事だった。

数人づつでも預かって貰えれば【奉珠】【法力】で、心の安寧を得ることが出来れば助かる。

特に、この八王子周辺に協力してくれる寺院が多いのも、移動に難が有るライラ達には負担を軽減できる。

一光に礼を言い電話を切った。

ライラ達には寿美が、自分の別宅に招いて休んでもらっている。

警護も転移陣の為の部屋を設けて、友嗣か美耶の応援がすぐに駆けつけれるようにしておいた。


前回、関東圏で三百人を超える程度保護出来たが、今、両角家の調査で確認している他県の数を見ると同程度みたいだ。


妨害や意図的な反撃は、無かったと言っていい。

他県にも手を付けて、早く解放してやりたいが人手が足りない。

カプセルから、出たらどうなるかも気がかりだ、


美耶が海が見える横須賀が好きだと言うことで、九鬼が用意してくれている横須賀のホテルを、作戦終了まで使わせてもらう事になった。

二人なら【式】でも電話でも連絡はつくし、【転移】で距離は関係ない。


カプセルに、女性を隔離収容して今日で五日目。

中には【蟲の発生】が起こらなくなった女性も居たが、意識の混濁が深くカプセルから出せないでいた。

だが逆に準備を充実できる。


この間も二人は北海道から順に人口密集地にあり、何らかの【陣】が仕掛けられて居そうな場所を探した。

札幌市とその近郊で三ヶ所、函館市と苫小牧市、それに釧路にも怪しげな場所が有った。

釧路の駐屯地の司令官を務める『羽田毅さん』らにこの事を伝え、自分達の【術式】では無くハッキリと視認出来ないが、感覚的な物だが何かがあると伝えておいた。

「感覚は大事だ。中には入り込まない様にしておこう。【式】で見張るだけにしておくよ。しかし、可愛い奥さんだな。姉さんじゃ厳しいんじゃ無いか?」

釧路でも、そう言われてしまって美耶は複雑な表情をしていた。


そこから順に関東へ接近したが、仙台市、福島市、新潟市、に各一ヶ所。

関東圏は土浦市、宇都宮市、千葉市、東京都内六ヶ所、

とまあ、こんな調子で全国に存在していた。

その全てに、【式】を使った監視を付けている。

「大きな歓楽街を持った都市で、人口がある程度の数が有り住宅街の近くですね」

友嗣に資料を持参した九鬼の門人が全国の状況を報告した。

友嗣が横須賀のホテルに居るのも眼下に、その公園が見えるからだ。

それも合って此処には、常義から伝授された姿を消す【式】を置いている。

更に数日が過ぎ間も無く、日も変わろうとしている。

今日も、収穫無しかと眠ったミーフォーの元に向かおうとした、その時、公園の中に人影が入って行くのが目の隅に引っかかった。

奴の歩き方・・・・・見た事がある。

「ミーフォー! 起きろ! 奴だ!」

飛び起きるミーフォー。

男は周囲を気にする事なく真っ直ぐに公園の中央に立ち、おもむろに両膝をついて両手を着いた。

男の背中越しに浮き上がる【術符】。

ミーフォーが『新宿御苑』で見たあの術式だ。

その集約部分に奴の体が有り、奴に向かって何かが送り込まれる。

その光はやがて消えて、光が収まった。

男が更に腕を押し込み地中から、棒状のものを引き出した。

そして、それを片手に持ったまま車に戻る。

一瞬、奴がホテルの最上階に目をやって、ニヤリと笑った顔を【呪核】が動き回る。


見られている事を知ってやがる。

「イバ、あの公園のイヤな感じが消えた」

「あぁ、あの棒が、その根源【呪旗】なんだろうな。そして、ワザと見せつけてやがる。あのカナヅチ野郎!」

「あの、若菜を落とした鞍馬とか言う山の中で炎のお祭りの日に、泣いて、泳げないって言った人ね?」

「・・・・・まあそうだな」

(落としたって言うなよ・・・・・実際は、俺が落ちたと思っているんだから・・・・・)

【式】で尾行されているのを知りながら、気にも留めずに『横浜関内』のビルに車が吸い込まれる。

この日を境に、全国の【呪符】が埋められている場所で、回収行動が始まる。

しかも、今度は通勤通学時間を狙って堂々と仕掛けて来た。


最初に行動を起こしたのが北海道。

ススキノ周辺の三ヶ所に埋め込まれていた【呪旗】を連続して回収されてしまった。

住宅街に【呪旗】が存在しているのが仇になる。

【腐術】でも使われたら、被害が甚大だ。

パニックも相手の狙いなのだろう。

相手の男は堂々と、苫小牧市に向かって車をすすめる。

此処では『不発弾処理』と偽りの発表をして、近隣住民を強制的に避難させてあった。

警戒線が張ってあるが、奴の車を停める事はさせずに警察官を横に避けさせた。

車内を覗いてしまった警察官が、怯えた表情をする。

道の、ど真ん中に車を停めて近づいて来る。


こいつ一人か?

対応するのは羽田毅

サポートを御室美咲

「そこで、止まれ! 立ち入りを禁止している区域に入ったんだ。拘束させてもらう」

「・・・・・フン! やってみな!」

「止まれ! 最後の警告だ!」

「だから! やってみなよ!」

何処からか、【呪旗】を2本取り出し身体の前で交差させて(かまえ)を取った。


「羽田さん! やる気みたいですよ!」

「だろうな。萩月一門の初手合わせは俺みたいだな!」

「譲って貰えませんか?」

「そうはいかんよ。兄弟子としちゃ、良いとこ見せないとな!」

腰抱きにしていた刀袋から、抜刀術用の日本刀を取り出した。

刃は落としてあるが、代わりに幾つかの【陣】が蒼によって彫り込まれている。

ルクアが、【青魔墨】を使って【陣】を浮き出させている。

「友嗣君に早く【収納】を教えてもらわないとな。格好いいだろうな!その方が!」

「たかが、陰陽師風情に止められるのかな!」

一気に突っ込んできながら左、右と払って来た。

黒い塊が【呪旗】を離れて襲って来る。

「聴いていた通りだな!」

羽田が大きく構えるわけでもなく、鍔鳴りの音をさせた。 

切り裂かれて黒い霧になって消えて行く『黒い塊』

美咲には、黒い塊に憤怒の顔が浮き出ていたのが見えていた。

「へぇ〜羽田だっけな? 11月に釧路の基地で、けし掛けた時には監視だけをしていた筈なんだが、そんなこともできる様になったか?あの、憎ったらしい岩屋のお陰か?まあ、奴の相手が出来ないのは残念だが、お前だけは消して置いた方が良いだろう!」

見る見る、相手の雰囲気が変わる。

「御室! 気を付けろ、コイツは少なくとも【呪核】を五個は埋め込んである筈だ」

「ほほう、柳からの情報か?」

「あぁ、ジャイも一条には切れていて、柳に情報洗いざらいぶちまけた!」


一条と輪道(ジャイ)が、対立?


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