019 馬
自分の父である村長のルイスがファルバン家の生き残りで、しかも正統な後継者では無いかと確信しているルクマはイバの考えを聞く。
ルクマはイバを見つめていた。
「・・・・・・わかっている。だが、村長会議の席で全てを話すと言われている。それを待とう。ライラさんもシューラも君と同じ様に気付いているだろう。
だけど、本人が話すのを待っている。だから、俺たちも待っていよう」
ルクアはそう言ったイバに向かって笑いかけた。
「本当にいい人だね。イバ兄さんは。今ので、僕は兄さんとして認める事にしたよ。わかった。術の話をしよう。
兄さんの【保護】の術に使う陣を見せてよ。僕が教わって習得している陣と比べてみよう」
「昨日も兄さんって呼んでいなかったか?」
「嫌だな〜 アレは女の子を紹介してもらう為だよ。
でも、タルムにも紹介してあげてね。新村の娘はタルムが亡くなった幼馴染の女の子の事を気にしていたのがバレて振られちゃったんだ。その子の為にも吹っ切らないといけないのにね」
「お前はどうなんだ?この浜の娘や浜の娘に仲がいい娘は居ないのか?」
「いい娘もいるし、僕に好意を持っている娘もいる事は知っているよ。でも、みんなお互いを知りすぎていてね。
この娘と家庭を持ったらこうなるという予測というか未来が見えてしまうんだ。
それがつまらないから、新しい出会いが欲しいのさ」
「随分と泣かしたんじゃないだろうな?」
「まさか、そんな事したら狭い村の中だ。周りの人間にバレてコテンパンにやられちゃうよ。
そして間違いなく『名変え』をさせられているよ。
だから、この村や新村の女性とは深い中にならない様に気を遣っている。
兄さんと姉さんみたいに、イチャイチャしたりした事無いよ」
「そこまで言うか? イチャイチャ仕掛けてくるのはシューラだぞ!」
「下まで聴こえる様に喋ったらコッチが恥ずかしいわよ。
良いじゃない。イチャイチャして。
イバは私の事知らなかったけど、私は小さい頃からイバの事知っていたし、お父様から聞いていたわ。
だから、イバと逢うまでは誰とも付き合わないって決めていたからよ。
どうする?お茶の時間よ。
新村の村長や聖地から前触れが来たから、夕方にはみんな揃うわ。
会議は明日だけど食事の時に話しも出ると思うからルクマも食事には出なさい。
もちろんイバは主賓の席の近くになるわ」
「なんで?」
「アナタが今から一番働くの。あー!思い出しただけで頭にくる!
『【名変え】をしても月の半分は離れて暮らす事になる』なんてどうかしているわ!」
「聴いてないんだけど・・・・・・」
「聖地で預かっている魔石に魔素を入れるので二日、その他の用件で二日、移動で一泊して、浜に到着。
浜の用事と修行で五日。次の朝から聖地に向かって一泊。
それの繰り返し。11日の内で浜の家で過ごすのは5日よ!馬鹿にしているわよ!
イバ!直ぐに馬に乗れる様になりなさい!
今日、一頭置いて行ってもらうわ。
指導はゲーリン様かお付きの人にお願いするわ。一日で覚えなさい。」
「大変だね。兄さん」
「何言っているの? ルクマも聖地との間を行き来する事になるのよ。
乗馬出来るか、飛行が出来るかになりなさい。
でないと、いつまで経ってもイバだけが忙しく働かされちゃうわ。
イバに怪我でもされたら堪らないわ!」
「姉さん。なんかその言い方じゃ僕は、どうでも良い様に聞こえるんだけど?」
「そんな事無いわよ。私はイバに怪我なんてして欲しくないって言っているの!」
「なんか、釈然としないな〜」
「とにかく、二人とも乗馬の訓練は必須よ。ルクマも奥さんが浮気したら嫌でしょう?」
頭の中を自分のいない間に、浮気をしている娘が脳裏をよぎる。
「当たり前じゃないか!やるよ!兄さん下に馬を見に行こう!」
「ルクマ。お前完全にシューラに操られているよな?」
「兄さん!そんな事はない!
兄さんも、姉さんの事を考えれば乗馬出来なければ僕が許さないよ!」
慌てて外に馬を見に行くルクマ。
「シューラ? ルクマを操ったな?」
「何の事?私は、雑用をルクマにやらせてイバといる時間を増やしたいだけよ。
それに、私を一緒に馬に乗せて浜を走るなんてカッコいいじゃない!
さぁ、お茶にしましょ。丘の叔父様がチーズを持ってきてくれたわ。
軽く炙ってパンに載せて食べると美味しいの。
きっとイバも好きになるわ。さぁ行きましょ」
シューラに腕を取られて階下に降りる。
タルムは外に自分の下で働く事になっている子供を捕まえに行っている。
『俺もシューラに首根っこ押さえつけられてしまったな!』
『いいじゃない。こんなにいい娘はいないわよ』
『しかも、サトリじゃ浮気はできないな』
『私と繋がる距離だと無理ね。
流石に聖地で浮気されたら厳しいけど、きっと会った時に挙動不審になるから絶対に無理ね。
諦めなさい。それに私は成長しているし、ある秘密も持っている。
それが発動したら聖地でも、あなたと繋がる事が出来るわ』
「なんだい!それ! 怖いぞ!」
思わず声をあげてしまったイバだった。




