199 ルクアという男
二人のポアーザは『萩神社』で暮らすことになった。
目に付くのを恐れたのもあるが、二人が萩の眷属達を気に入ったのもある。
鞠の様にして遊んだり、ちゃんと磨いたりしてくれる。
なんと言っても、眷属に囲まれて眠るのが好きなのだ。
色々な話をしていて、この頃では雪も萩神社で寝てる事が多い。
萩月の家では門人の目が気になるのだ。
【式】を使っているので用がある時には、すぐさまに駆けつければ良い。
14歳ほどに見える雪は可愛くも、美しいのでやはり目を引いてしまっている。
いよいよ、ルクアがやって来る事になった。
今まで、ポアーザの二人を含め動植物の移動も繰り返してきた。
チョアはやはり、油が抜け落ちて発芽しなくなってしまう。
出発前に、ダイアのポアーザが、ルクアの身体の周囲を巡り異常がない事を調べていた。
今回、ルクアには一枚の【黒石板】を渡してある。
記録もできないし、中のデータもあるかどうかが分からない。
そういう、手をつけられない物を地球の技術で調べてみる事になった。
九鬼と羽田が研究所を新たに八王子に置いた。
たったひとつの物を調べる為の研究設備。萩月の本気が解る。
「じゃあ、行ってくる」
見送りに来たリーファと娘を抱いて、しばしの別れを告げる。
「お父さんどっか行っちゃうの?」
「イバおじちゃんがいる所だ。サーファも行く事になるさ。送ってもらっている魔女っ子のテレビって動く絵も見れるぞ! 後、機関車のお話も見れる」
「サーファ! 行ってみたい! 早く呼んでね!パパ!」
日本語での、会話も順調に進んでいる。
記憶力も良い。
娘のサーファは、姉に似た風貌をしている。
まだ、どんな能力を持っているのかは解らない。
リーファの教育方針だ。
この子はゆっくりで良い。
サランの早熟なところを見て、そう思った。
リーファのお腹の中の子も、すくすく育っている。
転移の光が消えて行き、ビデオカメラを抱いたルクアが現れた。
「やあ兄さん。少し太ったかい?」
「大丈夫そうだな。ルクア。お前は痩せたか?」
「兄さんが居なくなったから、大変だったのは間違いないさ。でも、姉さん達が頑張ってくれているよ」
「まあ、こっちに出てこい。簡単な健康診断だ。最初はうるさい婆さんの検査だがな!」
『誰がうるさい婆さんだ! ルクア問題なさそうだね。【収納】は開けれるかい?』
「コッチでは寝かせてくれよ! 婆さんに夜中いっぱい、ぐちぐち言われて眠れないなんてやってられないからな!」
ルクアが胸の前から【収納】に入った、【黒石板】を取り出した。
「誰に渡せば良い?」
「あの、私が預かります」
「君が蒼さんか! ルクアです。 写真で見た通り、いやそれ以上に可愛いね。誰だい?彼女を男性と見誤るなんて!」
「今日はスカート穿いているからな。いつもの作業着じゃ無いし、化粧もしている」
「兄さん! そんな風だからダメなんだよ! 女性は引き立ててあげないと!」
「そうですよ!言ってやってください! 弟にダメ出しされるなんて! サラン姉さんが言った通りですね。若菜です。初めまして!弟のルクアさん!」
「確かに!綺麗だね!ルナ姉さんとはまた違う大人の女性だ!初めまして、若菜姉さん。姪っ子は順調ですか?」
「はい!お陰様で!ありがとう! でも、プロポーズはちゃんと場所を考えてね?」
「解っているよ!兄さん程、鈍くは無いからね。さて、まず木場さんでしたね。診察をお願いしたいんですが?【遮蔽】を張りましょうか?」
「【遮蔽】なら私が張るよ。君の兄さんの指導が良くてね。今では萩月一門の中でも【遮蔽】の名手だよ。それじゃ、【遮音】と【迷彩】をかけておこう。そのビデオカメラで外から撮ってくれないか?自分でも見てみたいじゃ無いか?」
「それは良いですね。そう言えば、ハイスピードカメラで展開する様を見てみませんか?術者の、どの部分から張っていくのか、人によっての違いがあるか、考えただけでもウキウキしませんか!」
「良いね〜羽田と九鬼に準備させよう。発想の違いかな?君は本当に僕達寄りだ! 友嗣君は遊び心が足りない!
さて、これが私の【遮蔽】だ!」
「やっと、静かになりましたね」
「【遮音】と【迷彩】をかけてくれて助かったよ。蒼さん。どうだい? ルクアは?」
「・・・・・ッ! アハ、あははは! 面白い人ですね! 一緒に仕事するのが楽しみです!確かに視点が違う!」
「で、蒼? 一緒に生活できそう? 」
「お母さん! 初めてですよ! こんな気持ち! 友嗣さんは不思議でしたけど、ルクアさんは何て言うかな、そう、楽しい人! 一緒に笑っていけそう!」
「それじゃ、大丈夫そうね」
「でも、少しは仕事以外でもデートしたりして、その気に、ならないかもしれません!」
「それはなさそうね。今のあなた、JAXAから帰ってきた時と同じ笑顔しているわよ」
「友嗣さん!」
「あぁ、サランに念話入れてくれ。ファーストコンタクトは大成功だって」
検診が終わり【遮蔽】が解かれた時にテーブルに置かれた『聴診器』『血圧計』『注射器』は、ルクアが貰うことを交渉していた。
流石に長年使っているので、同じ物を準備する事になった。
「確かに、血圧計は不思議ですよね?」
蒼がルクアの側で水銀の動きを二人で調べていた。
似た物夫婦ですか・・・・・
完全に置き去りにされた友嗣は、サランに状況を説明する。
『やっぱりね。蒼から赤魔石のペンダント回収して、ブローチか髪飾りに加工しなしなさいな。記録用の魔道具に組み込んでも良いわね』
『蒼に聞いて、ルクアの意見も聞くよ。案外、突っ返されそうな気もする』
『ルクア・・・・・やきもち焼きな所があるからね』
萩月への挨拶も、そこそこに二人で肩を並べてアトリエに帰っていく二人を見送った。




