198 別れし者達
『ほう、ここが地球か?』
『イバよ! 息災か?』
転移陣の光が収まって、すぐさまにオレンジ色と緑色の二つの球が飛び出してきた。
箱につけられた窓から転移の最中も観察していたらしい。
(そう言えば、俺は目を閉じたままだったな)
『ここまでの転移の時間は、こちらの世界では5秒と言うところじゃ。成程、近いの。ワシらの口伝では真っ黒な穴蔵を長いことかかったと言っているが、アーバインと地球の間は濃い青の世界で、時おり光の筋が流れた』
何でも興味を持つ不思議な種族だ。
友嗣は感心していた。
箱を片付けて彼女達の無事と、蒼が書いたルクアへの手紙を送る。
それを見てルクアが、こちらにくる日を決める事になっている。
『ほら、息子や、娘からと婿のノアからの手紙だ』
箱の奥に向かって光の筋が走る。
手紙を収納に入れて戻る間に、二つのポアーザは若菜と蒼の周囲をクルクルと周る。
『あ、あの〜 』
『若菜だね!』
『それに、蒼』
『間違い無いね』
『えぇ、お母様。言い伝え通りですわ』
『言い伝え?』
『これは又、大きな気を持った術師じゃな?』
『萩月常義で、ございます』
『あぁ、若菜の父君か。成程・・・・・だいぶ、友嗣の影響を受けたか、【魔素】を使いこなせているようじゃな。
どれ、わしをその掌に受けて【真力】を回してみせよ。なぁに、案ずる事はない』
『この星の者が、どう変わったかを見る為じゃ』
『それならば、私にはイバが真力を回してみよ。地球での暮らしでどう変わった?』
こうして二つのポアーザは、常義と友嗣の掌に載った。
どちらが話しているか分からない。
口調の僅かな違いだけだが両方が一緒に話している様にも聞こえる。
言われた通りに真力を回す二人。
『ふふふ、成程、常義の真力は鋭いの』
『イバ、そうじゃ、友嗣の真力はアーバインの時よりも、柔らかくなって来ておる。若菜の影響かの?』
『でしょうね。この娘はミーフォーに似ています。でも芯の強さはサランといい勝負』
『この星で、一国の王となれる者の妻にふさわしいワイ』
『そうじゃ、先にワシらに問うた事があったの?』
『眷属の事ですね』
『人と動物とは違い、意志を持って我が身を削って子を成す。確かにワシらが子をなす様によく似ておる。アレらは元からこの地に居た物かもしれん。もしくは、この地に降り立った者との間に出来た子かも知れないな。それで、神を産み出したのかもしれない。若菜の腹の子にも人とは違う物を感じる、産まれてからの楽しみじゃ。それに、ここにいる全ての者は人とは違っているのだろう? その理由も自ずと解る。急ぐではない』
『昔、ある星が幾つもの国家間対立とも人種間対立対とも言える状態で滅びようとしていた。その対立からでは無い。星の寿命が来たのだ。逃れようも無い星の死。ワシらもその星の出じゃ。だが、その星が終わりを迎えようとした時に何故か他の星に脱出出来た。ワシらの前に暗い穴が出現したのだよ。残っても死なのは解っている。その死を受け入れて星と共に死んだ者の方が多かった。だが、前に進んだものもいたのだ。 』
『最初それぞれの地に着いた時には、幾つもの穴を伝ってある者は空を飛ぶ箱に載ったとも、ワシら竜族の背に乗ったとも大きな帆船に載って海に出来た穴を伝って行ったとも言われている』
『アーバインに降り立った人族は獣人との協調を重んじ元の世界でもそうして生きておった。故に神の存在を否定し過ぎたる文明を追わずに居た。どうしても神や文明は種族の優位を産み出してしまう。心のどこかにそれを否定する記憶を持っている様だ。私たちもその者と星を捨てた、それは解るな?』
『だが、今アーバインを侵略しようとしている者たちは人族で神も文明も追い求めた。
他の種族との交流を全て拒否し、宗教、文化、教育、法全てで、異なる種族の存在を否定していた。
彼らは地球、アーバインに降り立った種族とは違い、科学技術、エネルギーを持ったままだったのだよ。
それもあって、彼らの技術は進んでいる』
『地球に移り住んだものは、人族だけじゃった。今の侵略者達から分離独立した民族じゃと思っている。
彼らは神を信じていたので、地球に存在した種族との間に出来た子を神の子としたのかも知れん。
彼らはこの地に降り立つ時に僅かな農耕と漁業を伝えただけだ。だが、元々、持っていた知識を使い神を信じ、科学を発展させ今に至る』
『そして侵略者達は又、その自分の故郷を食い潰した。だが今度は、助けは無い。今度は我が身を使って飛び出した」
『イバ、ルースが持つ黒石板は元はワシらアシの手になる物だ、音が無いと言っているが音は記録されている。魔素を注ぎ込むだけでは聞こえないのだよ。蒼が気がついたね。
返さなくて良い。
ワシらアシは動き回る種族でなくなった。
空も余り飛べん。
【黒石板】を使うのはアーバインの民がふさわしい。
ここまでじゃ。ワシらの知っている口伝えで聞いている話はな。
ダイアには私が消える時に伝わる。記憶は死なない』
『これが、私らが最初にこの地に来た理由だ。アーバインでは信じさせる為の知識がまだ無い。
だが、この地球には知識も有り神話も有り神もいる。どうかな?
巴様?』
『気付いて居たのか?』
『それは、もう、若菜様に何かすればすぐ様に巴様がお見えになる。それは解っていました。私たちは巴様に近しい存在ですよ、知識を渡す事と予言程度しかできませんが』
『ならば、手を貸せ! 今一番禍となっているアイツらを潰す』
『・・・・・そうですな。サラン達から念話で聞いていますが、アイツらが居たら他の者を呼び寄せかねませんからな』
『あんな物を自らの身に宿しているとは・・・・・』
『やはり、アレは別の生命なのですか?』木場が聞く。
『前の星でどこかの誰かが、その身に宿して異能の力を得て王となった事がある。だが、知っての通り犠牲が出る。王に従える男は、戦いで敵味方関係なく戦い殺し爆死する。自然、奴隷や犠牲となる者をを探して侵略を続ける、そして、それらが居なくなれば身を隠す。乗っ取られているのだ。意志のない線虫にな』
『薬はあるが、効果があり過ぎて消えているだろう宿主が? 同じ事が有ったのだよ』
木場は偶然入手した、あの薬にそんな効果が有るとは思いも寄らなかった。
しかし、何の落ち度もない人間を殺す為に、予め自決用の薬を与えておくとは・・・・・
そして、その薬を呑む洗脳をしておく一条の冷酷さ。
随分と解析が進んでいる。合成の見込みも経っている。
出来れば人体に無害したいのだが毒性が無くなることはない。
だが、死体を残さずに全てを消せる。
その利点は有る。
『魂を集めて『百鬼夜行』を起こす術をやっているとの話もあるが、多くは足切りという訳か?』
『相手の手に渡るくらいなら宿主ごと消し去る。それが、本音で一部の奴らが、他の寄生の仕方を考えたのが一条の連中。今も、生まれたばかりの赤子を使って試しているのは術の継承の一つ。譲が豊を教育しているのだろう』
『この蟲は【母子感染】はしないのですか?』
『何もしなければ感染しない。尿道から押し込む時に蟲も好みがある様でな。中に入る事を拒絶する事もある』
「木場さん。今の話では薬を合成しても殺処分と何も変わらない。やはり、蒼に作らせる捕獲して処分するしか無いですね。でも、他の動物にうつる可能性もあるなら薬は必要になるかも知れない。パンデミックを抑えるには必要になります」
「散布する方法も考えておくか・・・・・」
木場には生物兵器を作る事になるやもしれない、医師としての苦悩が見られた。




