018 木札
翌日の朝、早起きして作って置いた木札に通し番号を『光魔墨』で書き込んだ物を準備して加工場に向かった。
タルムは小船で南の岬の先端に向かう。
この場所は海も深く、慣れていないタルムだけでは不安だと彼の兄さん達が舟を操っていた。
ヨルムさんは、こちらが加工場に入ったら岬を目指す。
加工場に入り2枚の木札を樽の中に入れて冷海水を流し込む。
魔道具が起動して木札が消えた。
シューラが外で手を振ってヨルムさんに知らせる。
しばらく待っているとヨルムさんが真っ直ぐに上昇した。
やはり、南の岬の先に転送先が有る。
ヨルムさんが下降したので、残りの木札を入れて冷海水を流し込んで転送陣を作動させた。
ヨルムさんが再び上昇して、送った木札が浮いている事を知らせてきた。
今頃、タルムが転送先の位置を測っているだろう。
二人のお兄さんがいるから安心だ。
「協力ありがとうございました。お陰で転送陣の秘密が解ってきました」
とお礼を言った。
「良いんだよ。実家に転がっていた魔道具が役に立つなんて思わなかったよ。でも、この樽の置き方が違っていたら大変な事になっていたのかね?」
「そうですね。でも良いじゃないですか役に立ってくれていますし。それよりも魔石を交換しておきましょう。ご主人の大切な思い出の品なんでしょう?」
「あぁ、気を遣ってくれてありがとう。そうしてくれれば有り難いよ」
イバは魔道具から『赤魔石』を外して女性に渡した。
代わりに魔素を充分に入れた『黄魔石』を取り付ける。
加工場の女性達に見送られて外に出るとシューラが
「良い事をしたわね。あの方泣いてらっしゃるわ。やっぱり寂しかったのね。骨も残っていなかったら・・・・・・娘さんは馬車から放り出されて、頭を打って亡くなっていたから顔も身体も綺麗なままだった。余計に辛いわね」
「じゃあ、サイスの街が襲われた時に巻き込まれたのはあの人の家族だったのか?」
「そうよ。女の子はタルムと仲良しで良く結婚しようって言い合っていたわ」
「タルムに許嫁が居ないのは・・・・・・」
「そうかもしれないわね。女の子の着替えの覗きをしているからかもしれない」
「俺がなんだって?」
又、シューラがタルムを弄っていた様だ。
「ご苦労様。位置はわかったか?」
「話しをそらしやがって・・・・・・ あぁ、海中から出てきている。加工場から考えれば俺の身長の5倍位の高さの差があるのじゃないかな?」
「そうか、ならば高低の指定の文字は解った。なんとか転送陣の実験に移れるな」
今日はそれぞれの家や作業場で食事を取る。
村長はまだ新村から帰ってきていない。
食事の後から白石板に、この村と新村の分そして予備の分を含めて赤魔墨で陣を描いていく。
ルクマと実験をして、それぞれの知らせの陣を使い、こちらから陣の起動の切り替えができる様にした。
「しかし、よく複雑な陣が描けるね?」
「この父の魔道具のお陰だよ。術を意識すると陣を描こうとする対象に陣が浮き上がって見えるんだ。後はなぞるだけだよ」
「それは又、何とも便利な魔道具だな」
「どういう訳だか、俺にしか使えないのが面倒なんだけどな」
「薄い金属の板を陣の紋様に合わせてくり抜いて、魔墨をくり抜いた部分に塗れば一度に白石板に陣を描けるさ。イバ、明日、【保護の陣】を金属の板に描いてくれるかい?」
「【保護の陣】? 良いけど金属の薄い板なんて有るのかい?」
「ほら、米を持って来てくれた避難民が乗っていた船を調べて剥がしておいたんだ。何人もの人が亡くなっていて外に運び出すのも出来なかったから沖で沈めたそうだ」
「でも、くり抜くのはどうするんだ?」
「それは、今夜丘から叔父さんがやって来るから大丈夫。物の形を変える事と物体を操る【傀儡師】だからできると思うよ。でも、間違いなく二日酔いだから明日のお昼過ぎかな?」
「本当に術師だらけだな」
「初代が優秀だったそうだ。なんでも、ファルバン家で1番優秀だったけど暗殺されるのを恐れて、その才能を隠して未熟だと言って他所の聖地に押し込めてもらったらしい。それで、行方をくらましてこの浜に戻ってきて村長になった。言い伝えだけどね」
「押し込めてもらったって事は、その当時の当主は彼が優秀なのを知っていた?」
「そうなるね。今のファルバン家は散り散りになって、本当の当主は行方知らず。当主の証の【黒石板】の行方もわからないらしい」
(黒石板・・・・・・どこかで聞いたきがするが・・・・・・)
「イバ・・・・・・君もそう思っているのじゃないかい?」
「村長の事か?」
「あぁ、今のルイスという名が偽名なのはみんな知っている。でも、僕ら家族にも教えない。命の危険があるんだろう。でも、この辺りでそんな事が有り得るのは領主かファルバン家だけだ。聖地の長がゲーリンと言ってファルバン家に使えていたことも、そして村長と手紙のやりとりをしている事。
村長の一家が銀の鳥に全滅させられた事も、そして、彼の術の広さと知識。
今、君を弟子に迎えてシューラと結婚させようとしている。
全てがファルバン家に繋がっている様な気がする」




