189 目通り
『この寺の裏に、裏口がある』
一光と額真に連れられて、萩月常義、長谷山、岩屋友嗣、若菜が訪れたのは高野山の麓にある寺で有った。
一光の管理下にある寺で、一光の配下の者が通いで管理をしていて檀家を持っていない。
ただただ、石塔を護る為に建てられた寺だった。
「わしの一族が引き継いでいた寺だよ。ここがわしの故郷、時恵の故郷だ。そして額真の産まれた村だ」
「さて、そこの石塔の間に結界が張ってあるのが解るかな? ここから入る。もう、わしと額真は通れる様になって居るが、お主達も通れるだろう。柳も入る事を許されて居る」
こうして一行は結界を越え、あの御堂に着いた。
額真が木の引き戸を開ける。
やはり、畳敷の大広間が広がりその中に一光が一歩進み出て声をかける。
「萩月常義、長谷山巌、岩屋友嗣、若菜 お目通りをお願いします」
「おう待っておったぞ、ミツ! テーブルを用意せよ。紅茶で良いな?」
「はっ!」
畳敷の大広間が姿を変えて、まるで中世のヨーロッパの様な様式を備えたフロアになった。
円卓が二つ。
その一つに長身の黒いスーツに紺のネクタイを緩く結んだ男が座っていた。
「織田信長公・・・・・」常義が呻く。
「確かに! 歴史の教科書で見た顔とは違うけど・・・・・」若菜も同意する。
「その通りです。織田信長公です」
「長谷山、なぜそれを?」
「常義よ。お前の腰の扇は信長様からの頂き物だ」
「この扇!」
「そうだ、萩月常義! そして、お前が岩屋友嗣か? 成程・・・・・ミツよ!」
「はい。確かに常人とは違う様ですね」
「皆出てこい。友嗣よ。何を持参した?」
「旨いものですよ! きっと食べたことのない物です」
「あなたが若菜ね?」
「あっ!はい!岩屋若菜です」
「成程、優れたサトリだね」
「みなさん・・・・・サトリ」
「あぁ、そうだ。サトリだ。出雲阿国、静御前、帰蝶殿」
「坂本龍馬。明智光秀、松永久秀、上杉謙信 何時もは必ず遅れてくる龍馬が、一番乗りと言うのは女子がおるからじゃな?」
「そりゃそうぜよ! 確かに別嬪じゃな!」
「あっ、ありがとうございます」
若菜は手を握りに来た龍馬の手が温かいのに驚いた。
「この、中ではな、ほぼ生きていた時の感覚が有るんだよ。友嗣さん、心配しなさんな!その気はないし、連れ去ったりはしない」
それから、友嗣達から出された酒と購入して来たジンギス汗鍋を用いて、ジンギスカンを振る舞う。
もちろん魔女のタレだ。
「羊の肉か。なるほどな。塩・胡椒で喰うのが肉の旨い食い方と言っておるが確かに、このタレは臭う羊の匂いを旨味に変えておる。旨い物じゃ」
酒が苦手な信長は『ガラナ』がお気に入りで、氷を浮かしたグラスに注ぎレモンを搾って旨そうに飲んでいる。
『今日は、泊まりですね』と額真もトングを伸ばす。
その仕草に常義は、何処か一光に似た印象を受けた。
「一光? 弟に明かしていないのか?」
「・・・・・そうですな。せめて肉親には伝えておきましょうか」
「常義。気付いた通りじゃ。額真はわしの子じゃ。先程入って来た隠し戸からお山を下りて麓の女との間にできた子じゃ。額真の母親はこの子を山に取られて、他の男と子を成して生活しておるよ」
「それは・・・・・」
「幼き頃、一緒に遊び将来を誓った娘じゃった。お山に預けられた時にワシに課せられた仕事は、この御堂で毎日、粥をあげ茶を出し、甘味を供える。そして読経をしてお下げをする。それが仕事だった。
その頃は、まだ信長様達とはお会いできなんでな。
ある夕刻、お下げを済ませて宿坊に帰ろうとしたが、この御堂の先には何が有るのか興味が出てな、つい寺に戻らずに下りていった。驚いたよ。そうだろう!自分の寺の石塔の間に出てしまった。
寺の境内で、この額真の母が泣いておった。ワシは思わず走り寄り彼女を抱き締めて口を吸った。後はそういう事だ。女は他家に嫁に行けと言われて泣いていたのさ。ところが、腹がデカくなりその話は消えた。そして、額真が産まれた。スクスクと育ったよ。ワシも寺までは出れたので良く夜に遊んださ。
それでも、二人は結界から中に入ってこれなんだ。だがな、額真が三歳を越えた時、結界の中に入って来てしまった。今度は、ワシと額真が外に出れなくなった。朝まで、女は結界の外で結界を叩いて額真を呼び戻そうとした。毎日、毎日やって来たが、ある日、頭の中に声がした。『もう、あの女は来ぬよ。里を離れた』その通りじゃった。それからこうして二人でお勤めしておる。この子も26を越えた。先日からまたこうして結界が通れる様になっている。ワシに似て生臭坊主になっておるがな!」
「私は、外で子をなす事は考えていません。母に恨みはないし、父は尊敬しております。ですが、寂しくなかった訳ではないですから」
「ワシらを此処に閉じ込めておる存在が、仕組んだ事かもしれんし、一光の女に対しての愛情が結界を破らせたのかもしれん。だが、産み育てていた子を山に捨てたと言われては女も辛かっただろうな」
「額真様は、お母様にお逢いは・・・・・」
「若菜さん。私達は従兄弟ですよ。様付けはしないでください。母とは逢いました。喜んでくれましたよ。良い家庭を持っていらっしゃっています。」
「住所は後で教える。夫は亡くなっているが娘が嫁入り前じゃ。挨拶だけは済ませてくれ」
「兄上。解りました。式を置きますか?」
「そうじゃな。若い坊主がウロウロするより良かろう」
「これで、良かろう。友嗣! 『奉石』と『法力』をどうする?』
『やはり、人心を乱す存在がいる限り人々を守る存在は必要かと思います』
「そうか! それでは其方達が言う「転移陣』を始末してくれ。それからだ。頼んだぞ。何かあれば尋ねるがいい。もう直接入って来れる」
「若菜よ。何か手慰みを用意してくれぬか?」帰蝶が話しかけてきた。
「手慰みですか?」
「実はな、ワシらが普段居る場にはテレビは有るのじゃが、電話はない。テレビショッピングで欲しいものが出ても買えぬからな」
「オマケにこの二人は頭が固い。女の気持ちが解っておらぬ。ちょっとこっちに来い」
こう言って女どもが寄り添って話をするが、念話で周囲には聞き取れない。
色々と注文を受けている様だ。
「そう言えば皆様、服が今風ですが?」
「これか? ワシらは顕現している身でも有るが霊体でも有る。その際にテレビで見た衣装を知って、こうして纏う事ができる。小林***、高倉**、の番組は好きじゃの。だが、ワシらを扱った番組は笑い話じゃ」
(どおりで、ヤクザぽい格好なんだ)
アーバインへ送る為に持っていた、カードゲームをいくつか渡す。
遊び方も印刷された本が有るのでそれを渡し、茶菓子と酒、ワインを出して置く。
赤魔石を使った調理具も置いて行ってくれと頼まれた。
「一光! これなら火事の心配もないから良かろう? 電子レンジも考えて置いてくれ」
(魔素か真力で発電するシステム作ったら、ここで試してみるか?)
『そうじゃの! それは面白そうじゃ!』
「コーヒー豆も済まぬが、差し入れてくれ」
「書物も、差し入れていただきたく」
友嗣が出した白木の帆船には、坂本龍馬が食い付いた。
材料を次回差し入れる事を約束する。
他にもさまざまな要求が出され、一光が呆れかえっている。
若菜もメモを取って、帰って来た。
「さて、もう帰るが良かろう。
最後に大陸の奴らの話をしよう。ワシらでも大陸の奴らの事は解らぬが汚れて輪廻の輪に乗れぬ者が増えた。今はその魂魄を繋ぎ留める事にワシらをここに置いた者達は苦労をしている様じゃ。だか、もう相手には充分に魂魄は集まっている様じゃの。常義!来年の冬が危ないな。それに、まだ【呪核】を腹に入れた者や【その元】を入れられた者も居る。その者達も周りを巻き込んで騒ぎを起こす。気をつけよ」




