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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
181/926

179 間話 フイルム

間話ですが、文字数がちょっと多くなりました。

羽田の【式】を使った初仕事です。

隊員達は凡そ120名も居た。

『施設転用の為の作業協力』という名目で派遣されている。

自衛隊の全体数から言えば微々たる数かも知れないが、此処に居るのは幹部級が殆どで、現場の哨戒にあたっている羽田、九鬼の門人達は、まだ白魔石を使った術は使わせていない。

新たに支給された防寒着が彼らを喜ばせている。

【陣】を描き入れた【魔絹布】を身体の前後に入れて寒さからその身を守っているのだ。

【薄い遮蔽】も展開しているので銃弾が飛んで来ても、致命傷にはならない。

もっと強力にすれば弾き返せるが、後での説明に苦慮する。

調べようとすると燃えあがる、あの【陣】が描き入れられている。


今日は午前中と午後を併せて40人程度の指導をして数人が黄魔石を受け取った。

どこから聞いたのか部分的な身体強化をやっていて、宿舎のベッドで唸って居る。

「面白がってやるからだ・・・・・」

羽田が呆れていた。


幹部連中は夜も己れの新しい【術】【式】を使いこなす為に夜間でも、駐屯地の吹雪の中で模擬戦をしている。

若い連中とは違い、残された時間が少ないのだ。

それに、これ程の仲間が一堂に会する!

『偉そうな口をしていた割にはショボい【式】だなぁ〜』

『何よ!手加減しているの分かんないの? 相変わらず鈍感ね!』

『余計な気遣いだ! これッくらい屁でもないぜ!』

『・・・・・おう、おう。よう〜いゆうた! 根性!決めて止めんと消し炭になるぞ!食らいやがれ!あの時の怨みじゃ!』

『くぅ〜怨み込みか〜!本気はいかんぞ!誰か手伝ってくれ〜』

『又、人に頼りやがる!いい加減根性見せんかい!タマ着いとんのかワレ〜!』


彼方此方で、日頃の鬱憤が晴らされて消えていく。

力を出せなかった悔しさが、今解消されていく。

じきに、力を使い切って仲良くカマボコ宿舎に並んで簡易ベッドで並んで寝る。

朝は筋肉痛や頭痛に襲われても、心の奥底は快適だ。



釧路市の繁華街を川で挟んだ高台に道東を管理する庁舎が有る。

河口近くの高台に有り釧路市街が見下ろせて、夕陽の景色が良い事で有名な幣舞橋(ぬさまいばし)が近い。

若い陸士、陸曹は、こちらで寝泊まりする。

今応援に来ている連中も、駐屯地に充分な宿泊施設がないので、この庁舎内の宿舎で寝泊まりしている。

夜は許可が降りれば、橋を渡って繁華街に向かう。


庁舎近くに立つビジネスホテルの一室から、自衛隊の門を出入りする職員の写真を撮り続けている二十歳位の男が居た。

「所長。もう飽きて来ましたよ〜」

「贅沢言うな。この部屋から顔が写る様にして10日間写真を撮るだけで、経費向こうもちで80万頂けるんだ。コレ食ったら代わってやるから我慢しろ」

カップ麺の焼きそばと、付属のスープで腹を満たす中年の男。

「フィルムの配達まだですかね。24枚の奴しか残っていないからもう三本しか有りませんよ。もうじき、職員交代の時間で出入りが増えますよ〜」

「良いから続けろ。フロントにもいくつか有るだろう?」

「昨日、買い占めしましたから、まだ入っていないかも知れませんよ」

「畜生!なんで、こんなに隊員が増えているんだよ。明らかに見た事ないし、歩き方が道民の足の運びじゃない。明らかに道外の連中だ」

「10日っていつまでですかね?」

「明日の朝10時までだ。その時間になったらフィルムを受け取りに来る」

「所長〜終わったら。この部屋で寝て良いですか?」

「あぁ、どうせチェックアウト時間過ぎているから10泊分振り込んであるそうだ」

室内の電話が鳴る。

「こちらフロントですが、お客様にフォトショップの方が、お届け物だそうですが?」

「すぐ持って来てくれ! ついでにコーヒーを10杯分頼む。サンドイッチもな。いつものやつで良い!」


「何しているんですかね?」

「お客様の詮索は御法度だぞ!」

「でも、このホテルであの方向って自衛隊の門ぐらいですよ。アイツら隊員の顔写真撮っているんじゃないですかね?」

「確かに、このひと月で明らかに道外の人が出入りしているよな」

「東北地方の人でも、足の運びが違いますからね」

「そうだな。特にここは橋から急な坂になっているから余計に解るからな。あっ、この事家に帰っても話すんじゃないぞ! ウチのホテルから顧客情報がバレたて事になったら、色々とうるさいからな」

「でも、自衛隊員の顔写真を大量に撮っている連中が犯罪に絡んでいたら、それは、それでまずいんじゃないですか?警察に届けましょうよ〜」

フロントマンは上司に報告するか迷っていた。

「チェックアウトは明後日だよな」

「そうです。10泊分の入金がされています」

「それじゃ、チェックアウトしてから警察と自衛隊に電話連絡しよう」


やっと夜間の閉門の時間が来た。

コレで明日の朝4時までは門は開かない。

もう、開いたってそれはイレギュラーだ。

朝4時までは眠れる。

こうして、興信所の所長は明日現金で手渡される、分け前を考えようと思ったが寝てしまった。


「所長、所長! もう、5時前ですよ起きてください!」

しまった!寝過ごしたか?

4時30分。良かった、この時間ならそんなに門を潜る奴はいない。

「誰か通ったか?」

「いえ、今、外に出て来ている人が初めてですね」

「そうか、あと少しだな」

「アレ? あの人こっち見てますよ?」

「動くな!カーテンを揺らすんじゃない!じっとしていろ!」

「・・・・・行きましたね」

「あぁ、最後の最後に踏み込まれたら、どうしようも無いからな」

二人は緩くなったコーヒーと硬くなったサンドイッチで、朝を済ませた。

あと30分。

フロントから連絡が入る。

「おはようございます。フロントでございますが、杉太郎様が、おいでになられています」

「荷物の受け渡しがあるんだ、部屋にはいってもらう。量が多いんだ。良いだろう?」

「従来ならばロビーでの、ご面会をお願いしておりますが、宜しいでしょう、早めにお願いします」


杉太郎は取引の相手だ

数分後、部屋の扉がノックされた。

「杉です」

「早いですね。後20分ありますよ」

「いや、仕事をやっている所の確認と最後の始末をやらないと依頼人がうるさいんだ」

「なんだ、アンタも中間かい?」 

「あぁ、更に数社噛んでいるよ。内容が内容だからな。バレたら不味いんだろうさ。アンタらも眠いだろうが、早めに引き払った方がいい、その為に来たんだ」

杉は黒い手袋をしたままで、帽子を脱がない。

「ゴミ箱の中身は、持って帰れ。近くの公園や、店先のゴミ箱に突っ込むなよ。指紋も拭き取れ、興信所ならそれくらい知っているよな?髪の毛を残さない様に、ほれ、これを使って掃除しろ」

粘着テープを寄越して来た。

「よし時間だ。そのカメラごと渡せ。撮り切った様だな。オートワインダーがかかってやがる。出る準備だ。トイレのペーパーホルダーやノブも気をつけろ!ほら、洗面台のブラシと歯ブラシも練り歯磨き粉のチューブもビニール袋も石鹸も持って出るんだよ。それコレを渡す。カメラ代込み130万で良いな。よしコレが撮ったフィルムだな。未使用が10本コレは持って帰れ。じゃあ、出るぞ」

鍵もテーブルに置いたままにして、ドアをストッパーで開けて外に出る。

三階でエレベーターも使わずにフロントには鍵は部屋に置いて来たと告げて、逃げ出す様に外に出て車に乗り込む。


釧路駅ではなく帯広方面に向かい無人駅で下される。

後五分で帯広行きが来るから、それで帰れと言われて降りた。

今後一切連絡はしない。札幌で会っても知らないふりだ。

そう言って別れた


「いや〜徹底していましたね。やはり大手なんですかね」

「もう俺はいいや、こんなに緊張する仕事はもう懲り懲りだ。帯広で時間があるから飯食って、酒飲んで特急列車で帰るぞ。こうして中古カメラが50万に化けたから良いや。レンズは向こう持ちだったしな。指紋を拭き取るのが大変なんだろう」


ストーブも無い無人駅で、一両編成の電車に乗り込んで、しんどい11日間の拘束を抜けた。


さて、現像込みで700万の仕事だ。

ホテル代やフィルム代、興信所に払った分を出しても400万の稼ぎだ。

しかも、現金で先払いで受け取っている。


釧路市郊外の潰れかけた現像設備を、印画紙込みで20万で借りた。

国道から一本外れた現像所。

プリンターの音や現像液の匂いを考えてここに作ったのだろうが、仕事付き合いが有ったオーナーが死んで、跡を継いでいない、彼の息子に声をかければ貸してくれる。

型は古いが、使いやすいK社のセミオートプリンターだ。

色の調整が曲者だが、腕に自信があればどうってことない。

試しにやったテストプリントもいい調子だ。

現像は自分でやんなきゃならないが、もう十年以上この仕事をやっているから目を瞑っても出来る。

は・・・・・言い過ぎだけどな。

この、酸っぱい匂いも今じゃ落ち着くほどさ。

クーラーボックスに120本フイルムケースが入っていた。

「おうおう、良く撮りやがったな〜」

どっちがやったか知らないが、フィルムケースには撮った日付と時間帯が書き込んである。

撮った枚数もだ。

被写体がいる間にフィルム交換しないように9割程で交換している。

「へぇ〜指紋やゴミを残すなんて素人臭かったけど、カメラの扱いには慣れてやがんな。流石、浮気調査のプロだな。いい勉強になった」

さて、やるかとライトを消して赤い現像用の赤いライトに切り替える。

これからが、俺の腕の見せ所だ。



フィルムケースが、次々に浮かび上がる。

驚いた男の目の前でポン、ポン、ポン・・・・・と、キャップが空いてケースがクーラーボックスに落ちる。

全てのフィルムが、男の手が届かない天井に張り付いた。

「ヘッ?」

目を擦ってもフィルムは、宙に浮かんでいる。

そして、次々に撮影済みのフィルムが、引き出されて床に転がってカサカサと音がした。

カサカサ、カサカサ・・・・・床の上のフィルムの上を何かが這い回っている。

最後に望遠レンズを外した、カメラ本体から、カシャ、ポンとフィルムが飛び出して男の目の前で引き出された。

慌てて掴もうとしたその時、暗幕のカーテンが開かれ全ての窓が開き強烈な日差しが差し込んだ。


全てのフィルムが感光した。


どうする?

依頼人に素直に今の話をするか?

誰が信じる?

引き渡しは明日の夕方だ。

・・・・・逃げよう。

今からなら札幌の事務所に帰って、金庫から金を引っ張り出せばほとぼりが冷める間なら逃げれる。

男は床に散らばったフィルムを眺めたが、時計を見て処分することにした。


数日後、点けっ放しになっていた、電気ストーブにフィルムが接触して燃え上がり黒い煙を上げるプレハブ小屋のニュースがローカル紙に掲載された頃、男は東京都内の雑踏に紛れ込んでいた。



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