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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
18/926

016 転送

翌朝。

やはり男たちはもう漁に出ていた。

今日もタルムは窓に腰をかけていた。

「よう。おはよう。昨夜は大変だったな。

村長だけじゃなく、俺のオヤジや叔父貴にウワバミの叔母さんまで相手にさせて二日酔いじゃ無いか?」

「あぁ、完全に二日酔いだ。みんな酒が強いな。でも、飯も美味かった。特に牡蠣だっけ。生で食べたのは初めてだ。焼いても旨いが、あの酸っぱい果物の汁をかけて食ったのは堪らないな」

「レモンだな。でも気をつけろよ。決まった場所で取れた新鮮な牡蠣しか生で食べられないからな。

間違ったら腹を下すか死んでしまう事もある。焼いて食べていたのはそういう牡蠣だ」

「あぁ、それはシューラから散々聴かされた。気をつけておくよ」

「顔を洗ってきな。今日は昨日の陣をこの魔墨で描いてもらう。ルクマも来るから色々と教えてやってくれ。

村長は朝から新村に出かけている」


階下に降りて便所と洗顔を済ませてうがいをしていると背後からシューラが抱きついてきた。

「おはよう!イバ!」

「おはよう!お転婆さん」

「もう、意地悪言って! 嫌いになるわよ!」

「悪い! まだ頭働かない。お前の家族は加減をしてくれないからな。ライラさんだけだったぞ。止めてくれたのは」

「海で育つと、お酒強いみたいなんだけど?」

「俺は5歳までは海育ちだけど、その後は穴蔵育ちだ!」

「又、じゃれあっているのか? それより飯だぞ。今日も浜で食うらしい」

「今日もって?」

「普段は自分の家や仲間内で寄り合って食べるのさ。昨日はお前のお披露目だったし、ワッグが婿に入って新村に行く事も皆に知らせた。それに、お前がちびるか気を失うかで酒をかけていたからな。

今日も昼からやる仕事の話を村長に代わってミクマがする。だからだ」

「人を賭けの賽にしたのかよ。で、お前はどっちにかけた?」

「内緒だ。さぁ飯に行くぞ」


今朝は近くで罠にかかったウサギを使った汁と魚を炙った物に米だった。

塩が上手く出来ていて美味かった。

やはり、サイスの村が焼かれた後に見よう見まねで塩作りをやっていたらしい。


飯の後、子供達は遊びに行き、残った大人達にミクマが話をした。

養魚場の拡充・拡張をする。

今は入り江の岸の一角だが、網を1番端の岩場まで伸ばして岬と繋いで囲いをする。

後はとってきた魚のうちで網目よりも大きいが食べるには小さいものを網の中に放す。

今使っている養魚場の網を最も細かい物にして小さな小魚を飼育する。

その為の網作りを始める事になった。


網はサイスの村より遠い街で作っていたがその街も焼かれて、浜で編んだり丘の村人が作っている。

今、より多くの網を造らせている。

その代償として干し魚や塩や小麦、米と魔石を渡していた。


加工場の女達は作業に戻って行くが、イバはシューラとタルムと共に彼女らについて行って、女達が作った血の処理と臭いを無くす魔道具を見に行った。

作業台が手前斜めに傾斜がかかっていて、その1番上から水と氷の陣で冷海水がまな板の上を流れる。

冷水を使う事で臭いが立ちこめない。

手前に樋が作られていて、その中を通り血や不要な鰓や内臓が流れて行って桶の中にそれらが貯まると、魔道具が起動して溜まった物が消えていくという。

元は商家の為に作った便所の魔道具だが、受け取る前にその商家は【銀の鳥】に焼かれたらしく魔道具が残されていた。

魔石は取り付けてなかったが、夫が残した財産の中に残されていたので取り付けてみて上手く行ったので、冷水を作り出す魔道具と組み合わせたと辿々しく説明してくれた。

魔石は3年変えていない。

斜めに刺さって桶の中央に位置した杖の先端に赤魔石が取り付けられている。

中々の高品質の魔石だ、青魔石に迫る性能だ。


臓物が消える瞬間をイバは見逃さなかった。

【転送陣】間違いない。これは【転送陣】だ。

【転送陣】はこれで3つ目にしている。

この命を救ってくれた魔道具。

そして父の記憶を封じた魔道具。

自分の考えが正しければ、この桶の中身の行き先は南の岬の先。

明日その事を確かめよう。


4つの輪が描く同心円。

中央にある円の中に入った品物が何処かへ送られる。

杖に仕込まれた転送陣は起動する時に陣が杖を中心に投影される。

4つの円に囲まれた部分のうちで1番外とその内側に紋様が刻まれている。

1番内側には紋様が書かれていない。

この事についてはイバは想像していることが有ったが、まだその実験に着手できていなかった。

加工場を後にして村長の家の二階へ向かう。

黙り込んだイバに気遣いシューラは、お茶と菓子の準備をしに台所へ向かった。

ルクマは白石板を数枚準備してタルムと何かを話していた。

意を結した様でイバが二人に声をかけた。

「一枚、白石板をもらっていいか?」

「あぁ、墨はどうする?」

「魔墨は慣れていないから慣れている墨と筆を使わせてもらうよ」

そういうと、今見て来た陣を描き出した。

「よく覚えているな」

「アレは【転送陣】だと思っている。

俺の命を救ってくれた魔道具は焼けて無くなった。

だけど【柄】に父が残した記録がその陣じゃ無いかと思っている。

違っているのは1番外側の紋様の数カ所なんだよ。

次の輪の紋様は代わっていない。

ここが転送の術を意味していて、1番外側が方向と距離を示していると思うんだ。

高低差もあるのかも知れない。

1番内側の空白の輪の部分も思っている事があるけど、そこはまだ確信がない」


「それじゃ、加工場の陣がどこへ飛ばしているのは解っているのか?」

「あぁ、先ず距離だ。もしも相当の距離を飛ばしているのなら、あの魔石は魔素切れを起こしているだろう。

そんなに離れていない。丘の方向だったら流石に腐って臭いで気付く。海の方だろう。北の岬の先には新村が有る。

そんなところに魚のアラや血が撒かれたら船の行き来の際に気付く。南の岬側は急に深くなっていて漁場でもない。

あちら側には新村も無く行く事もないと聞いている。

間違いない。南の岬の先だ。岩場の先の漁場はもちろんあり得ない」

「一眼見てそれに気付くか! 確認の方法は?」

「木切に文字を描いてあの桶に入れて水を流し込もう。

最初は数枚を使って異常が無ければ2、30枚だ。

船を出すか空から見つけるかだな」

「イバが飛ぶのか?」

「オレとシューラは、魔道具を見ていなきゃいけない。タルム頼んだぞ!」

「俺が飛ぶのか?」

「他に誰がいる?」

「・・・・・苦手なんだ。」

「なんだって?」

「だから、高いところは苦手なんだよ!」

「そこの窓に、いつも座っているだろう?」

「足が着いている時は大丈夫だ。だが、空に浮かぶのは嫌だ」

「そうは言ってもな・・・・・」

「なぁ、イバさん。別に、ヨルムさん一人で良くないか?」

「・・・・・それじゃ、タルムは船で向かってくれ。」

「イバ。今のは貸し一つだぞ」

横では茶を持ってきたシューラが笑い転げていた。

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