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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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173 プロポーズ

友嗣さんは萩月の家から、館林との門を通り部屋に向かった。

今から深夜までは、ゆっくり過ごすと若菜を抱き締めて笑ってくれた。


萩月の式は、一般の神前結婚式とは違う。

他家の陰陽師の家々とも違っている。

一門の重鎮以外は、社に入れない掟になっている。


そもそも、お祀りされているのが『妖狐』だというところから違ってくる。

それを差して『萩月は正統な陰陽師では無い』と一条家が言ってくる。

一条家も表向きは他家と同様に、天照大神をはじめとする日本古来の神々を祀っているが、その実は大陸から日本に入って来た『道士』の流れを汲むので、別に祭壇を有していて、そちらを重要視しているのだが・・・・・


萩月は、伝承では祖先が妖狐との間に産まれた男子とされているが、実際には妖狐と結ばれたのは、『巴様の父 初代様 萩月孤月』

陰陽師としては凡人であったが、『妖狐 柳葉』との出逢いで彼の一生が変わった。

柳葉が霊界に帰る際に、戯れに抱いた人間の男。

子など出来るはずもなかったが何故か、一人の娘を産む事になる。

柳葉は力を失い人となって、霊界に戻る事無く『孤月』と共に一生を終えた。

巴様によると本当に人として、楽しみ、笑って、泣いてを経験して死んだそうだ。

孤月を見送る際にも、

『人の死が、こんなに悲しい事とは思わなかった』

と孤月の手を握りながら、泣いて見送ったという。

後に、巴様から直接お聴きした事によれば

『何も無い、霊界で漂うより、人として死ねる。何も無く『生き腐る』より、我が心の奥で死する事を望んだ為だろう。あぁ〜孤月よ! 我の魂を迎えに来ておくれ!』

が、最後の言葉だったそうだ。


こうして、人と妖狐の間に産まれた【巴様】が実質の初代になる。

萩月の家は陰陽師であったが、『孤月』によってその術式が他家と違う物に変わり、更に巴が女当主として君臨してからは更に独自の術を使う様になった。

それが故に一条家、室家とは流儀が違っている。

しかし、上からの信頼は厚く、伝承されている隠された儀式は萩月が行なっている。

常義が皇居や京都御所に入るのはその為だ。

その儀式に、ついての全てを伝承しているのが館林家。

だから、萩月は館林を守る事を大事としている。


萩神社での婚儀では、新郎だけではなく新婦も狩衣を纏う。

女当主『巴様』を引継ぐ為だ。

23時に萩神社にあがり、祓いを受けて、更に参内する者達の邪気を祓う。

奉詞、奉納舞

0時を過ぎる前に宣文を友嗣さんと読み上げ、もう一度奉納舞があって、祝詞が奏上されて萩神社から下がる。

三々九度は無い。

神おろしだけの神事。

父は何も言わないけど、多分、その場に巴様が顕現されるのが婚姻の儀だと思っている。


お祀りされているのは萩と白美を従えた巴様なのだ。


友嗣さんと一緒に父と茜の四人でホテルの一番良い部屋でステーキをメインにしたコースで食事。

夜半なので消化の良い物が良いらしい。

母とも、ここで食事をしたと言う。

その時は、茜と一光様が一緒だったそうだ。

(肉食はコッソリやっているそうだ)

友嗣さんは、軽めのジャケットで私をエスコートしてくれた。

少しだけワインを頂き、車で送って貰って萩月の自室にいる。

友嗣さんは、館林の離れにいる。

今は21時50分 友嗣さん何しているかな? 

顔を見たいな。

『念話』も繋いでくれないし・・・・・緊張しているのかな?

『そうでもないよ。準備していたのさ。約束している事があったでしょ? 外に出よう!』

いきなり『念話』が入って来た。

『でも、着替えないと・・・・・』

『大丈夫。30分前までに部屋に戻れば良いって、茜様からお許し出たからね』

若菜は今はレストランから帰って来たばかりの軽いドレス

『靴はここに持って来たから・・・・・僕の準備は揃った』

『・・・・・萩と白美の準備も整ったそうだ。じゃあ行くよ!』


ヒュン!と、身体が宙に浮かぶ。

友嗣さんがすぐ様、お姫様抱っこにしてくれた・・・・・が、周りの風景が違う。

星空が綺麗・・・・・空? 

京都上空だ!

私は友嗣さんの、首にがっしりとぶら下がる。

「大丈夫だって! 約束していただろう?空の散歩をしようって!」

「まさか、結婚式の直前に空を飛ぶだなんて有り得ない。怖い!」


「大丈夫。ここには『遮蔽』と『偽装』で京都市の上空五百メートルに床を張ってあるんだ。下からは見えていないし」

若菜を抱いたまま、見えない床の上で歩を進める。

カツカツと靴音が聞こえる。

彼の行き先には自分の白いハイヒールが置かれていて、彼がゆっくりと下ろしてヒールを履かせてくれた。

その様子を、萩と白美が撮影している。

萩が使っているカメラも、白美が操作している録音録画機材も、木場さんが準備したとんでもない仕様の物だ。


「さぁ〜行こうか?」

「どこへ?」

「約束していただろう? 空の散歩さ。大丈夫。僕らの下に床がついて回っているから心配しないで」

「・・・・・寒くない!」

「周囲を囲っているからね。風を楽しみたい?」

思わず首を横に振る。

11月の夜に風を切って飛んだら、凍ってしまう。

「そうだね。この中を暖めるので時間がかかったんだ」


友嗣が若菜を横抱きにして、ゆっくりと京都市上空を巡る。

眼下には、京都の街と遠くに大阪のネオンが見える。

東に目を向けtれば琵琶湖のシルエットが、行き交う車のヘッドライトで浮かび上がっている。

こんな夜更けでも、こんなに明るいんだ。

萩月家の上空に帰って来て、ゆっくりと降ろして貰った。

歩いてみると不思議な感覚だ。

神様も、こうして人々の生活を見て歩いているのかな?

女神の気分になっていたら、足元の萩神社に灯りが灯り始めた。

うわ〜綺麗。

上空から見る萩神社って、こんな風になっていたんだ。

知らなかったな。

今の光景を、萩と白美は撮ってくれてたかしら?

ちゃんと撮っているみたいだ!レンズが下を向いていた。

後で、見せてもらうの楽しみだな。


「若菜さん」

友嗣さんに、声をかけられて振り向いた。

彼が跪き、私を見上げている。


これって・・・・・

「見知らぬ世界へやって来て、不安だった私を支えてくれたのは、あなたのお父様を始めとした萩月一門の方々です。でも、それだけでは私には何もできなかった。

私の心の炎を燃やしてくれたのは、若菜さんあなたを助けたいという思いです。

そして、あなたが欲しい! 誰にも渡さない!その想いです。

アーバインと地球を救うという、先の見えない闘いに貴女を、そして私の子供達を巻き込む事になる。

この先の全てのアーバインと地球に、人々の笑顔を守る為に私の手を取ってくれますか?」

こう言って友嗣さんは左手を心臓の上に置き、私にその右手を差し出した。


『うわー、完璧だ! 白美ちゃんと撮れている? 録音は?』

『大丈夫!録画は友嗣さんの『黒石板』と『白石板』で同時に撮っている。音声もバックアップで撮っているわ!』

萩と白美は、台本とおりに事を進める友嗣に感謝した。


「はい。私も一緒に歩ませて下さい」

そう言って、若菜は友嗣の手を取った。

立ち上がった友嗣が若菜を抱き締めて、少し長いキスをした。

「きっとこんなところで、プロポーズを受けるのって私だけよね!」


「でも、きっとサラン姉さん達もやってもらいたがるなぁ〜」

「実はね。三人とも名変えを迫って来たのは彼女達なんだ」

「解る気がする。でもね、こっちの世界に来たら結婚式と新婚旅行はやる!って伝えて姉さん達に言われたわ」

「・・・・・三人纏めて・・・・・じゃ無いよな? 一人ずつか〜」

「二つの世界の人類を守るのも大切だけど、二つの世界の妻達の幸せを守るのも貴方のお仕事よ。頑張ってアナタ。ちゃんとお手伝いします」

笑って返す若菜。

空には冬の大三角形が浮かんでいた。

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