164 人外
「はぁ〜、怒涛の一日だったわ」
桜が、パジャマに着替えて畳に寝そべる。
若菜の買い置きを茜が出してくれた。
若菜も桜の真似をして、やはりパジャマでゴロリと横になった。
蒼だけは自前の紺のスゥエットだ。
「ほら、先にお布団を敷かないと寝落ちしちゃうぞ!」
蒼がテキパキと布団を並べた。
茶会に使う為の小さな卓袱台を、中央の布団を半分あげて、顔を突き合わせた。
そこで、若菜が蒼の作品を見て思った『展示会』の事を話した。
若菜が通い、来春卒業する『京優学園』の卒業式は、初日に大学、二日目に高等部、三日目に初等部、中等部と三日間連続で行われ、この間、講堂と体育館、武道場が開放になる。
そこで、展示してはどうかと言う事だった。
更に、続く週末の二日はオープンキャンパスになるので学園外からも人が来る。
いつも、殺風景なので準備委員が困っているのだ。
一応共学では有るが歴史的に女学校なので男子数が少ないのに、華やかさに欠けていた。
怪しげな業者が聞きつけて学園に交渉を仕掛けて来たが、物販と怪しげな美容サロンへの入会勧誘が目的だったので断った。
『室』の息が、かかった業者じゃないかと常義は言っていた。
桜が若菜を通して交渉にあたる事にした。
日本画以外にも『青山ヒカリ』の様な新人の作品で、見てもらいたいものがあるし良い機会だ。
若菜も今まで一条の事で迷惑かけて来ていたから、お返ししなきゃと思っている。
そう言えば、今朝、意識が無かったけど『三億の小切手』がどうとか聞いた気がするけど・・・・・、明日、白美に聞かなきゃ・・・・・
蒼から聞かれて元に戻る。
「お風呂じゃ、あまり聞けなかったけど、良く異星人の彼と結婚する気になったね?」
「そうか、異星人か〜、でも彼の病院での検査にも付いて行ったし、それで、彼の身体が人間の体と違っていないと聞いて安心したからじゃないかな?」
「それじゃ、問題はその前じゃ無い?」桜が突っ込む。
「彼の身体が普通の男性の体と一緒って聞いて安心したという事は、その前に、そうなっても良い、そうなりたいって思っていたんでしょ?」
「そうなってもって・・・・・」
みるみる 若菜の顔が赤くなる。
「聞き方が間違ったか? まず、彼はどうして萩月を訪ねて来たの? 彼、陰陽師じゃ無いわね?」
若菜は二人に友嗣が、アーバインと言う星の住人で子供の頃に侵略者に家族を殺された事や、聖地と呼ばれる陰陽師に例えると真力に満ちた洞窟内で暮らしている事。子供を連れて新しい遺跡の奥に出かけたら、潜入していた暗殺者に殺されそうになって、先程見た様な【転移陣】で萩月の庭に出て、父と会いそして【真力】を集めて萩月一門の復興を果たそうとしている事を話した。
更に、自分に付き纏っていた『一条 豊』が七人の手下と一緒に鞍馬で襲って来た時に、陣を描く事なく神戸のその筋の事務所に、転移させてボコボコにさせて再起不能にした事を話した。
一方、『一条 豊』が若菜が中等部にあがる頃から付き纏っていた、と話した時の桜と蒼の顔はとっても見せられたものでは無かった。
こうして、アーバインの正妻のサランとルナ、ミーフォーの許しを得て地球での妻となる事にした事を話した。
友嗣が赤ん坊の頃に会ったサランと15歳の成人後に結婚式にあたる【名変え】を行い、更にルナとも結婚し、こちらに転移する一年前には十歳上のミーフォーと結婚して子供が五人いる事を話した。
(子供五人・・・・・妻四人 まあ、向こうでは犯罪じゃ無いし、日本の戸籍だって改竄して作っているんだろうな。だから、若菜ちゃんとは初婚になるか・・・・・)
若菜は、アーバインに住むやはり異星人か異世界人ではないかと思われているダイア達に伝わる予言のとおり、彼がこの地に現れた事、そして、彼がこちらの女性と結ばれて子供を連れて帰る、とされている事を話した。
二人共、元はこういった事は信じないのだが、陰陽師の力に目覚めた今、信じない訳にはいかなかった。
自らが、その信じられない対象になっている。
次に話は萩月家の出入りの画材商で、絵や書を学ぶ友人で有った桜が、陰陽師としてしかも一家の再興を任された当主となった話だ。
桜は常義から友嗣という若者が【真力】を萩月の庭で呼び起こし、萩月が復興する手助けをしていて、その彼が詳細な陣を描く為の新しい筆を欲している事を聞いて、今朝、彼を訪ねた事。
陰陽師とは違う術を使う事は知らされていて、表面上は落ち着いてる風を装っていたが何度も『なんじゃこら〜!』と、叫びそうになって茜様から宥められた事、仕舞いには無感情になってしまっていた事を話した。
バッグの中から友嗣の指導を受けて初めて作った『保温の魔道具』を取り出して実際に紅茶を温めた。
「ここの温度変更のところに、加工を入れた物を明日、ヘルファの加工をやっている間に作ってみようかな」
今日、魔石を桜が作った魔道具に埋め込んだり、ヘルファを捻ってみたりして自分にも今までの陰陽師とは違う事ができる事を思い知らされた蒼が楽しげに保温の魔道具に触れていた。
蒼も母親と過ごした金沢での生活やJAXAの研究所、つくばの学園都市での経験と、個人経営でも優れた技術力を持った試作品の研究・製作をしていた老父婦の話をした。
九鬼の一門で、蒼の為に造られた会社じゃ無かったのかと思っている様だった。
先代の九鬼の当主は、初めての女の子で歳が行って産まれた蒼が可愛くて仕方無かった様で、今の当主に家督を譲ると金沢で生活をしていた。
蒼は父親とは思わずに近所の優しいおじいちゃんと思っていたそうだ。
その先代が亡くなり遺骨が横須賀の九鬼家へ引き取られて、世話になっていた工場も高齢を理由に畳むことになった。
相模原の工場は販売される事が決まっていて、機材の搬出や移転に途方に暮れていたら、九鬼の現当主、蒼の義兄『九鬼修造』が遺産代わり、といって全てを取り計ってくれた。
このアトリエは青山家の故郷に有り廃校になって、その後の用途を探していた村との調整を母と義兄がやってくれていた。
まだ、空き教室は有るが、やはり不便すぎるのか蒼のアトリエしか入居者はいない。
中々に便利なのであり、入浴施設はすぐ近くでお昼からでも入浴できる。
野菜やお米はこの学校周辺の農家が、出荷できない規格外品と言って分けてくれるし、お裾分けの煮物やお漬物が美味しい。
でも、その全てが義兄と母の思惑通りだったとは・・・・・悔しくも有り、嬉しくもあった。
それよりも今では、友嗣の事を助けたいと思っている自分が不思議だった。
「そう言えば、宿直室の冷蔵庫に煮物が入っていたな。教えてやった方が良いかな?」
「あっ大丈夫です。今、友嗣さんに念話で伝えました。分けてこちらに送ってくれますよ」
「ここで良いかな?」
そう言って若菜が卓袱台の一点を見つめた。
すると、タッパーから取り分けられた煮物と小皿と箸が現れた。
若菜の位置を掴んで彼女の視線の位置を特定して転送して来ている。
サトリ同士だからこそ出来る離業だ。
「ほんと、なんでもありだね」
「でも、桜さんも蒼さんも出来る様になるのじゃ無いかな? 私でも、これが出来る様になったから」
と言って指先を小皿に当てて二人の前に移動させた。
水平に空中に浮かんでいる。
「貴女もすごいね」
「友嗣さんに言わせると、これが彼には出来ないそうです。持続的に物を浮かす事を彼は練習中ですよ。きっと車でも浮かしちゃうんじゃないかな?」
「特撮映画会社が見たら、土下座して出演依頼されるわね。私達」
「そんな簡単なことじゃ済まないでしょう?」
「たった半日で、人外になるとは思わなかった」
「そう?私は楽しくて仕方ないよ。今、レーザーの工作機を使わずに金属加工できる様になるかな?って楽しみなんだ」
「アレ?そう言えば彼が、向こうの世界の【創芸師】や【土の術師】には金属加工出来る人がいて、これはその人が作った金属板を、くり抜いて作った物をあてて、上から墨を塗ったって言ったよ」
サンプルに貸してもらった【陣】が描かれた白石板を出して見せた。
「これを見て『青山 ヒカリさん』の作品を思い出してここに至っているの」
「そうなんだ、しかし、工作機械なしでどうやって切り抜くんだろう。見てみたいな」
「蒼ちゃんも、行く事になりそうね」
「違う世界か、なんだかワクワクして来た」
こうして、煮物やお菓子をつまみながら今までの事や将来の事を話し合って、深夜になったところで白美から怒られて眠る事になった。
「「「今まで無かったな〜こうやって友達と夜更けまで話を続けて過ごすなんて・・・・・」」」
三人が共通して思った事だった。




