014 柄
村長のサトリの力で、イバは自分が見てきた光景を村長とシューラに見せていた。
北の岬から丘の上の林までの風景。
南の岬と目の前にそびえ立つ岩場の光景と陣の様子を見せた。
「魔石を交換しなくてはいけないな。陣も交換した方が良いか。それでどの数が必要だ?」
「【遮蔽】【欺瞞】を組み合わせた陣を20、遠見が今14ですが岬の両端にもおきますから・・・・・・やはり20、【知らせの陣】が全部で40。結構な数になります。」
「【知らせの陣】とは?」
「魔石の魔素量が少なくなったり、陣に変化があったりした時に使います。何年持たせますか? 今の陣には青魔石が使われている様ですが。」
「あの魔石は3年前に交換した物だ。もう少し伸ばしたいが・・・・・・」
「最初に今どれ位の魔石をお持ちでしょうか? 5年位なら組み合わせを考えれば、今朝、塩の精製用にお渡しされていた赤魔石でも充分です」
「赤魔石でもいいのか? あの大きさなら50個は有る」
「良いですね。【知らせの陣】は黄魔石か白魔石で、指先ほどの大きさで充分ですからこれは私が準備しましょう。今使っている陣を先に交換して青魔石をお預けください。
魔素をガンガンに詰めて岬と丘の林と岩場を繋いだ広い範囲の陣に使いましょう。【保護】をかければ盗まれる事は無いでしょう」
「先にお互いの知識を交換する必要があるな。だが先に収納の術を強化しよう。色々と渡すものが有る。それに収納ができる様になったら身体一つで馬で聖地との間の行き来ができる」
「確かにそうですね。来月には馬が来ると聞いています」
「ヨルムに聞いたな。だが、乗馬はゲーリンに教わる事になる。奴は厳しいぞ。ワシも泣かされた」
「・・・・・・村長。アナタはいったい?」
「誰かと言うことか? そうだな。どうせ、収納に預かってもらう物を渡す時には話さなければならなくなる。ゲーリンとワシの家族や新村の村長を集めて話すとするか。ゲーリンにも催促されているしな」
「お父様・・・・・・」
「心配はいらない。お前達も薄々気がついているのだろうが、ちゃんと話す時が来た様だ。さて、風が強くなって来た。ニ階で話すとしよう。シューラ。茶と菓子を頼む」
「わかったわ。お父様。今日のお菓子はとっておきを出しますわ。お母さまたちがが先ほど焼き上がったって言ってらっしゃいます」
「本当に菓子作りは熱心じゃな。あぁ、遠見の陣に張り付いている連中の分も忘れずにな」
「タルムなんかにはいつもの甘葛の菓子でいいのよ」
「聞こえているぞ!」
「知ってて言っているのよ」
「かぁ〜! イバ! 今なら他の浜の娘が喜んで代わってくれるぞ!」
「カァ、カァとうるさいわね。タルム。名前をカラスに変えると良いわ。きっとカラスの雌がたくさん飛んでくるわよ」
「もう、やめてやれ。昔っからシューラに口じゃ敵わないんだから。タルム。ワシの部屋から魔墨を取ってきてくれ。筆の箱も忘れるな」
シューラを睨みつけながら村長の家の奥に行くタルム。
そんな彼を見送り二階へ上がる。
今日は三人残って白石板を見ている。
「【知らせの陣】を使えば、変化があった【遠見の陣】からの映像が勝手に映し出されます。楽になりますよ」
「よく調べたな。聖地の石板にはそんな【陣】の事は書き残されていなかったが」
「これですよ」
そう言ってイバは首から下げていた袋から、青魔石が組み込まれた魔道具の柄を取り出して村長に差し出した。
「これか・・・・・・」
今、魔石には魔素が宿り術者の手の中で光を放つ。
「あの時の杖です。転送の術がかけられていた。そして、この柄の部分には父が書き留めていた術について記憶されています。
残念ながら私にしか起動できませんが、その中に【転送の陣】、【保護の陣】、【遮蔽】、【偽装】、【隠形】、【障壁】、その他色々記されていて、私の魔素を使う力が上がると更に新しい術が頭に浮かびます」
「二人とも自分達に何かあったらコレを、子供に残そうとしたのだろうな」
「兄と姉が母に抱かれた私の後を追って来たのですが、その間に【黒鳥】が割り込みました。直ぐに【銀の鳥】も現れて二人は殺されてしまいました」
「そうであったか。私も、一度くらいは逢いに行きたかったがワシも追われる身でな。ゲーリンも同じで逢いにいけなかった」
「・・・・・・村長。ファルバン家の縁の方ですか?」
「そうだ。じゃが、答えは待ってくれ。先に仕事を片付けよう。シューラが階段を上がって来る」
「【探知】ですか?」
「本当に良く修練しているな。ゲーリンが言っている通りだ。やはり、聖地に置いたのが正しかったな」
「?」
「お前がサイスの村外れで保護されて聖地に連れられてきた時に、お前を引き取ろうと思ったのだ。だが、【黒石板】に聖地で修行を幼い頃からした子が能力が高くなる。そう書いてあったのでゲーリンに任せたのだ。
お前はワシの息子になる運命にはあったのだな」
「息子・・・・・・」
「だが、先に言って置くが今日からは【師匠】と呼べ。来年、シューラと【名変え】を済ませて、孫が出来たら初めて父と呼んでいい。解ったな?」
「なら、さっさと孫を抱かせてあげましょうか? お爺さん?」
お茶と菓子を置いたシューラがイバに抱きついた。
「シューラ!」




