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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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157 陣を重ねる

差し出された【陣】の下書きを見て、一矢桜は目を見張った。

先程見た【転送陣】よりも線が太い。

紋様の間に、わずかな隙間しか無いのだ。

一番中心に近い環の部分は単純だが、次の部分が隙間がない。

一番外周は、少しは楽な様だがそれでも中々に厳しい。

「真ん中の紋様は転送、転移共通です。一番内側の環の部分は指定した対となる陣は共通です。一番外側が方位、距離、高低差を表していて転送で使います。先程、転移、転送をやってみましたから解っていますよね?」

「それでは何故この陣は、全ての環の部分に紋様が有るのですか?それに線が太い」

「線が太いのは魔素を多く流す為です。子供達に【陣】について説明する為の魔道具が有りますから、庭に出てそれで説明しましょう」


(常義様から、『今までの陰陽師と違う術を使える』と聞いてはいたけど、これは黙って見てみよう)


茜と桜を、連れて一緒に外に出る。

庭には既に木場、長谷山、そして常義が待っていた。

茜が【式】を飛ばして呼んだのだ。

最初の頃は、ただの薄赤色の珠であった茜の式だったが、今では形を【秋茜】に変えて送っている。

今も、消えずに皆の周囲を回っている。

術の発動を、するので周囲の警戒をしているのだ。

周囲を、そして木陰や上空高くまで舞っている。


「萩月常義様」

桜が跪きこうべを垂れた。

「若い女が膝を付くでない。立ちなさい。幸い芝で汚れ無いだろうが草のシミは存外に落ちにくいのだぞ」

こう言って、常義は桜を立ち上がらせた。

「露樹さんには私が電話をして、一矢家が陰陽師として館林に帰る事を伝えて置いた。露樹さんは当主を桜とする事を願い出てきたぞ。今からは一矢(ひとつや)家当主として励むが良い」

「ありがとうございます。茜様、どうかご指導の程お願いします」

「良いのよ。私も嬉しい。源蔵さんもきっと喜んでいるわ。式が終われば友嗣さんと若菜さんには館林家の離れで住んでもらうけど、母家が寂しくなるから、よかったら泊まって行ってね」

「はい。部屋をお貸し頂ければ住み込みます」

「あらあら、それも良いけど新婚さんが居るから小姑みたいよ」

桜は28歳。

中学から大学卒業まで交際を申し込まれた事も有ったし、明治初期から続く日本画の専門画材店の跡取りとして、数々の縁談が持ち込まれているが、どうしても相手が彼女の意にそぐわずに独身であった。

「大丈夫です。彼女が幼少頃から若菜さんとはお母様の時恵様とも一緒に、書や絵の勉強をして来た友人です」

「そうね、それでは考えておくわ。貴女の両親も寂しがるといけないし」

(それにしても、友嗣さんは女性を惹きつけてしまうわね。さっきから桜が彼を見る目が憂いを帯びている。)


「鞍馬では転移の様子は白石板でしか見せていませんし、そういう意味では常義さん達も初見でしたね。今回は【転送陣】と【転移陣】を実際に起動させます。この庭を使って実際の転移、転送を試して貰います」

「本当は『動物を使って、こちらでも問題ないかを確かめて』と思ったのですが、鞍馬で実験無しに転移と転送やってしまいましたからね。あぁも上手くいくなんて想像していませんでした。怒りに任せて思わず八人も飛ばした時には、流石に冷や汗が出ました」


「確証があってやったわけじゃなかった?」

「はい。最初は横に流れる川に川床に乗せて流そうと思ったんですが、泳げないと泣く奴がいまして。あの手榴弾を持っていた男ですね。それならばと常義さんの記憶から彼らに対抗できる人達を探し出して飛ばしました」


あまりの無茶な行動に、頭を抱える常義と長谷山。

木場と茜は必死に笑いを堪えている。

桜はなんのことだか解らずにいたが、八人と言う人数を聞いて驚いていた。

「後で話してあげるわよ桜ちゃん。友嗣さん続けて。お昼になっちゃうわよ」

「あっそうですね。では・・・・・」

こうして、館林の庭での自らの身体を使って転送、転移を体験する。

起動するには陣に入って貰って、横から友嗣が起動させる必要が有った。

「しかし、友嗣君は陣を使わずに転移できるのかね?」

「私は、位置を確認すると陣が頭に浮かぶ様になりました。それが正しく描けたら陣が勝手に起動します」

白魔石を、芝に置いて友嗣が頭の中で陣を描く。

それに合わせて白魔石が、友嗣の足元に陣を映し出した。

それが一瞬輝いて、友嗣が庭の端に立つ桜の下に現れた。

そして瞬間的に戻ってくる。

「私らにも、できるかね?」

「間違いなく、お出来になるでしょう。その為にも【真力の泉】を見つけないといけません」


次に【陣】を重ねた場合の効果を見てもらう事にした。

「これは私の子供達への教育用の道具を再現しました」

(子供達? 達って・・・・・何人いるの?まだ、彼若いはずよね? 確か23だったはず。それで教育用の道具?)

桜がパニックに陥っていた。


「これは、水を得る為の魔道具です。

近くの地下水や空中の湿気、霧、雨を引き寄せて、この陣の中央から流し出します」

友嗣は【黄色い陣】が描かれた白石板を、水が枯れてしまっている池を渡る石橋に置き先ほどの白魔石で、空中に陣を浮かび上がらせる様にして術を起動する。

少しづつ陣の中央から水が溢れて池に落ちていく。

「では同じ物をもう一枚重ねます。」

こうして次々と水が溢れその量が増えていく。

4枚の陣を重ねたところ、一枚の陣の直径が10センチほどだったのに、二重、三重と重なった陣は大きくなっていた四重となった今、3メートル程の円形に広がった。

陣の底に有る白い石板は光り輝いて、湧き出る水は池を満たしていく。

(たった数枚重ねるだけで、こうも違うのか!)

池が溢れそうになったので、水を止めて白石板を回収して収納にしまう。

他の転移陣、転送陣もいつの間にか回収されていた。

「アレ? そう言えば、何処からあの白い石板は持って来たの?」

「はいはい。それは後で、いちいち考えていたら身が持たないわよ」


萩月家との境に有る門を潜る。

萩月の池は、その名のとおり館林の池と鏡写の様に萩月の庭に、やはり水を枯らして落ち葉を溜め込んでいた。

館林と同じ様に橋の中央に白石板を置く。

今度は、門人達が出て来ている。

慌てて飛んで来て裸足の奴もいた。

今度は【赤い陣】が書かれている。

「今度は【魔墨】の違いを見てみましょう」

(温度の調整だから、温風でも出すの? それとも炎!)

桜の目が、期待に溢れている。

だが、出て来たのはやはり水だった。

肩透かしを喰らった桜。

「起動するのは陣に描かれた内容で、温度を制御するのに効率が良いのが赤い魔石と言うだけです。でも、どうですか?水の量はl? 先程の黄魔墨で描いた陣を四枚重ねと同じですよね」

「それではこれを止めて、今度はコレです」

取り出したのは【青い陣】が描かれているが、先程の陣より小さい。

「陣が小さくなりました。でも、こうしないと大変です。お〜い!びしょ濡れになりたくなかったら、もう少し下がった方が良いぞ。よく見る為なら濡れるの覚悟してくれ!」

少し、待って友嗣が陣を起動した。

ドンと言う音を立てて立ち昇る水柱。

友嗣はすぐに水を停めた。

友嗣の周囲は【遮蔽】で囲って有って濡れなかったが、陣から水が飛び出すのを見る為に幾人かずぶ濡れだった。

「相変わらず、無茶苦茶な奴だな!岩屋!」 

栗林が声をかけて来た。

彼は殆ど濡れていない。

水が噴き出す瞬間を見届けて、一瞬で水がかからない位置に移動していた。

これが出来たのは、剣道両巨頭と数人だけだった。

「今のは・・・・・」

桜が、余りの結果の差に驚いていた。

「青魔墨の陣は一瞬でアレだけの魔素を消費して術を発動するんです。この白魔石の真力は空になりました」

萩月の庭は一面水浸しになり、池からは水が溢れて、中に積もっていた落ち葉は、吹き飛ばされて遮蔽の壁に張り付いていた。




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