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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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151やり直し

一光の御付きの僧『額真(がくしん)』が運転する車で、関の母と弟と共に栗林を和歌山まで送って貰い、新大阪まで栗林に同行させて、その間の列車の車内で鹿児島での生活について再度確認した。

高校一年の慎二の転校については来年度からと進めていたが、本人の希望で年明け早々に鹿児島に行く事になった。

関の母親は栗林の叔母にあたり、名を栗林に戻す事にしていたが関兄弟は長谷山の道場に通うなら関のままが良いとあえて関のままですごす事にしていた。

栗林は長谷山の一門で有り、元を辿れば長谷山の分家で鹿児島の道場の師範代は栗林の父だ。

萩月道場の将来の師範代候補で有るが、示現流の指折りの使い手で無手でも闘える父と違い、古武道だけを追い求めていたが、面倒見の良さから次の師範代の椅子は確実視されている。

そこに現れたのが『岩屋友嗣』である。

無手でも独自の技を見せ、尚且つ、萩月の剣術の師範の二人にヒケを取らない腕前を見せつけている。

これで、栗林に火が付いた。


今朝も、ギリギリまで高野山で棒術の使い手と剣術で鎬を削っていた。

朝から高野山の修練場に行くと聞いた信二は見学だけでもと頼み込み、朝早くから兄の慎一と共に汗を流して来た。

道着を準備してくれたのは、武術総代の『先真』だった。

しかも、無手で慎二の相手をしてやっている。

的確な指導。

足の親指一本の位置の違いを教えていく。


『コイツら強い訳だ。武術を計算して極めている』栗林は舌を巻いた。

しかも、外でも裸足で仕合わせる。

「そりゃ、そうさ。板の間、畳の間で事が起きる訳じゃ無いからな!」

聚楽のヤツが偉そうにして居る。

「それだけじゃ無いぜ」

ビール瓶や、そのケース、丸太なんかを無造作に置いて色んな方向から撃ち込んでくる。

街角や河原を模した場所もある。

「お前らこそ戦闘武術じゃ無いか!」栗林から文句が出る。

そして、そこで棒術を使う先真と木刀でやり合う羽目になってしまった。


兄の慎一は聚落と基礎の構えからやり直しをさせられながら、弟が総代の指導を受けるのを見ていた。

「仕方ないよ。慎ちゃん。ほら、貴方本当に【板の間空手家】だったわね〜、ほら、踵を上げて背筋伸ばして顎を引く!

顎を引くの! そんなに猫背じゃ斜め後ろから来る敵が見えないでしょう?

ほら、また親指の角度が広がった!」


次から次へと、ダメ出しが飛ぶ。

腹が立つが己の姿勢の悪さを、昨日突かれたのだ。

何度も、繰り返される右肘への攻撃。

それを庇う為に前のめりになり、肘が外へ向かい結果として左の脇腹を空けてしまった。


(コイツら理詰めで戦っていやがる)

感覚重視のパワーファイターだったから、合わないよ!と逃げたい気持ちもあったが、今のままじゃここじゃ、最下位で逃げ出す事になる。

そいつは嫌だ!

模擬戦を栗林と交代して、横で俺の真似をして姿勢を矯正されている弟に負けてたまるか!

いつも、俺を追いかけて来た弟に抜かれるのは嫌だ!

せめて、この高野山の道場で、萩月の奴らが知らない闘い方を完全にマスターしてやる。

そして、栗林と岩屋の奴に目を剥かせてやるんだ!


慎二が去り際に、赤に細い白の線が入った帯を突き出して来た。

「萩月の当主様からだって」

この帯は覚えがある。

俺が初めて、萩月の道場で締めた帯だ。

これを、黒帯に変える為に必死になったんだ。

「五年で、帰れる様にしろだってさ」

「あぁ、その時は萩月に、この帯を締めて帰ってやる」

「あぁ、俺が待っているから覚悟してくれ。きっと、俺が三席だからせめて五席にはなってくれよ」

「そうか、三日で四席に落としてやる」

「なんで三日?」

「当たり前だろう、初日は全力で岩屋に一泡吹かせてやる」

「二日目は、きっとそれを見ていた栗林の奴と互角になる」

「そして、三日目には、お前をコテンパンにして四席に落としてやるさ」

「相変わらず大口叩くな〜・・・・・年が明けたら俺とオフクロ、親父の遺骨を持って鹿児島の爺さんの家に住む事になるから、山口の家と納骨堂はたたむ。長谷山さんの助けで栗林さんの母校に転校するから、兄貴も通信講座で大学受験資格取ったらどうだ? 聚楽さん達もそうしているってさ」

「そうなんだ。エッ? アイツら幾つなんだ?」 

「なんだ知らないの? 俺と同じ16歳。高校一年だよ?卒業したら山を降りて大学に通うらしいよ。還俗して結婚するって言っていた」

「なんだと!」

色々と、慎一には理解できない事だった。

「おーい慎二。そろそろ時間だぞ!アニキの相手なんてしていると、ここに置いていくぞ!」


「じゃあ、兄貴。そう言う事だから。爺さんの住所と電話は知っているよね。電話はダメらしいけどハガキは良いらしいよ。検閲されるみたいだけどね。それじゃ、頑張って」

「あぁ、お前も頑張れよ!」


「さぁ、慎ちゃん。新入りは食事当番からよ。料理した事あるの?」

「あまり、やった事ない」

「それじゃ、超初心者ね。早く慣れないと大変よ。今日は30人はいるから庫裡(くり)は大忙しよ。着替えてらっしゃい。急いで、急いで」

「今朝はどうして、起こしてくれなかったんだ?」

「栗林さんと慎二君が来るのが解っていたからよ。それに、朝は粥だけど、あれは結構難しいから初めは任せないわ。

でも、明日からはまず起きて顔を洗って、朝のお勤めをして掃除か、朝食当番。食事を済ませたら片付けをして説法を聴いて、それから修錬。そして、お昼の準備・・・・・ おいおい教えていくわ。習うより慣れよって言うでしょう? 五年の一日目よ。頑張ってね」

とても、16歳には見えないな。

「そうそう、言い忘れていた。通信教育は三月終わりからだけど、今夜から私たちが使った一年生の教科書使って予習しておくわよ。実力確認の意味も有るからね」


九九からやり直しになった事は三人の秘密にしてもらった。


「脳筋だな」

「ここまでの脳筋なんて初めて見たわよ。ある意味貴重な人物よ」

「・・・・・」

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