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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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148 初見殺し

関慎一は、高野山の末寺で駆けつけた母にしこたま怒られ『腹を切れ!』と迫られた。

流石に腹を切らせる事はなかったが、裏高野の修行僧となるべく髪を剃られて、黒衣の僧服に着替えさせられた。

青々とした頭を下げ、謝り続ける関の姿は少年の様だった。

「大丈夫です。元は優れた陰陽師となる素質が有ったのですから、修行を続ければ改心をされるでしょう。還俗させるかは、一光様のお心次第ですが、一条の復讐に怯えて暮らすよりマシでしょう」

と、裏高野の指導僧から肩を叩かれていた。

「しかし、あの一条豊を含めた八人の馬鹿どもを、たった一人で再起不能にした人は恐ろしい。誰だか知りませんが彼が許してくれて良かったですね」

気になる事をこの黒衣の僧は口にした。

長谷山が、白石板で見た友嗣の無手の威力を思い出して武者震いしていた。


それを聞いていた関の弟、慎二が身を乗り出す。

「長谷山様。私も鹿児島で鍛錬すれば萩月の道場に移して頂けますか? 私もその方に指導を受けたく思います」


「あぁ、無論だ。あれ程の強者は、そうはいない。しかも指導が上手い。兄は残念だったが回って来たチャンスだ。

存分に鍛えて来い。私の道場でも【真力】を使った鍛錬が再開される」


それを聴きながら涙を流す兄、慎一。

自分が物欲に流されたばかりに・・・・・


「悔しいか? だが、機会は有る。一光様の元で修行をしろ、きっとお前は伸びる。萩月には帰れなくとも裏高野で萩月を支える事はできる。両家の当主は義兄弟なのだから励むが良い」


こうして、慎一は裏高野へ登って行った。

見送る母親は必死に涙を止めていた。


「御母堂。案ずるには及ばんよ。もう充分に反省はしておる。後は本人が自分を許せる様になるまで磨けるかじゃよ」

黒い僧衣の老僧が後ろから声をかけて来た。

突然、背後から声をかけられた長谷山と栗林は驚くしか無かった。

(相変わらず、気配が読めない)


一光である。

「一光と申し、この裏高野を任されておる者じゃ。良い良い、頭を下げずとも良い。わしが責任を持ってお預かりする。なあに、五年もすれ還俗を考えて、いい様になろう。その時には本人と相談の上高野山に残るか、萩月にもう一度頭を下げてやり直すかを決めさせる。今日は長谷山さんがその知らせを持って来てくれた様だな」

一光は常義の考えを読み切っていた。


「関様のご家族は折角、山口から来られたのだ。今日は表高野を散策されて宿坊で泊まって帰られるが良い。

私の名で予約を入れておる。栗林さんは裏高野の僧と拳を合わせみるか? それでは、関様達はこの者が案内しよう。額真。ご家族を送って差しあげよ。萩月の二人は私と参られよ。それでは、関様、確かに御子息はお預かりいたしました。明日、和歌山まではこの者が送って行きますゆえご心配召されるな。五年じゃ、五年。あっという間じゃよ。」


こうして、関の家族と別れて裏高野への山道を行く。

飄々と進む一光。

後から長谷山と栗林がついていく。

一光は編み上げた草履。

後の二人はスーツに革靴だ。

これは失敗したな・・・・・

「もうすぐじゃ、悪いが脇から入ってもらおう」

閉じられた山門に近づくと脇の通り門が開けられた。

「お帰りなさいませ。一光様」

「ようこそおいで下さいました。長谷山様、栗林様」

未だ、あどけなさを残した少年が三人を出迎えた。

「ふむ、関には聚落(じゅらく)が相手をしているのか? 聚楽(じゅがく)よ?」

「はい、ジャンケンで私が勝ちました故」

頭を上げた少年は長谷山と栗林を見た。

「長谷山さんも見ておくかね?」

「そうですね? 関はおそらく面食らって、一方的でしょうが、栗林はそうは行かないでしょう。萩月のスピードスターと呼ばれていますから」

「長谷山さん。もうその子は本気ですよ。今にも飛び掛かって来そうな殺気です」

「これこれ、聚楽。修行が足らんぞ」

「申し訳ありません。ですが、長谷山様は五年ぶりですね。私達二人を相手に掠らせもしなかった。その悔しい思いで今日まで鍛錬して来ました。どうか、成長の証を見て頂けませんか?」

「そうしたいが、済まぬが今日は栗林に相手をさせよう」

「そうですね。長谷山様はお休みになられていないようです。目の下の隈が隠せません」


事実、長谷山はこのところ真っ当に眠って居なかった。

関の事もあったが、鞍馬での友嗣のあの動きが脳裏に浮かんで、寝ていても身体が動いてしまう。

あの動き・・・・・自分でもかわせない。


案内されて入った本堂の脇に建つ修練場。

入って来たのが一光で有っても、ここでは挨拶抜きになる。


中央で闘う黒と白の道着、関の相手をしている黒い道着の男は古武道の構えのようだが、右手を受けにしか使っていない。

それでも関は攻めでいるが、相手が前に突き出した左手の手刀を匕首のように突いてくる。

両足と右腕は文字通り盾の役割しかしていない。

突き出した左手を引く動作が早い!

「ほう、前から防御は固かったがここまで成長しましたか!」

長谷山が試合を見ながらそう呟いた。

関とて萩月では若手の門人の第ニ席だ。

関は組みつこうとするが、右肘を徹底的に痛めつけられていた。

やっとの思いで左手で相手の道着の脇を掴みかけた瞬間、黒い道着が一転前に出た。

捩じ込まれる右手の拳。

関は相手の左脇側に身体を滑らせるようにしてこれを避けたが、左の膝が真っ直ぐに脇腹を捉えた。

崩れ落ちる関。


周囲で見ていた僧が関を運んでいく。

力の差が歴然だった。

徹底的に防御に徹し、相手の攻撃をカウンターで逸らしながら肘を狙う。

栗林は関の側に行き様子を見る。

内臓へのダメージは無いようだが、右の肘はしばらく腫れあがるだろう。

「先に、左手を右肘に入れて来て距離を測られた。それからは、その距離から動かないで、こちらの攻撃をカウンターで受け続けていたが、うまく騙されたよ。右肘の攻撃に嫌気が差して組みに行ったら待たれていたよ」

「いや、距離も詰められていた。右肘への攻撃を目眩しに距離が詰まっていた」

「試合巧者ですよ。腹立たし程に・・・・・他の僧の試合も見ましたが萩月では使わない、薙刀や棍を使う連中も居る。ここなら、多彩な相手と闘えます。鍛えて貰いますよ。栗林さん! やってみるんですか?」

「あぁ、双子の兄の方とな」

「やはり、防御から崩していくのですかね?」

「いや、違う。掌の皮の厚さが気になる。それに足の運びがおかしい」


「相変わらず相手への観察眼は流石ですね。私も今ヤツを見てみたら左右の袖の位置が違いますね。しかも、右利きの振りをしながら左利きですよアイツ。『初見殺し』をやられてしまいました。顔見せだったみたいですね。笑かしてくれますよ。こっちを見て謝ってやがる。裏高野なんて聞いたからストイックなのかと思って心配していたんですが、やっていけそうな気がして来ました」


関が笑って見せた。

(こんな笑顔。萩月では見せた事無かったな)


関のこれからの不安が無くなったところで、道着に着替えて準備運動をする。

畳ではなく板の間だ。

(こりゃ、投げられたら痛いな)

跳んでみると結構、反発力がある。

相手の聚楽が足を曲げ伸ばしして跳んでいる。

身のこなしの軽さ、この板の間の反発力。

初見殺し。


(相手を見ていたら遅れを取る!)


「始め!」

の声がかかるのと同時に、栗林は前に突きで出た。

「ウォ!」

予想外だったのだろう、聚楽の黒い道着が栗林が出した右の突きの下をくぐり抜けようとした。

友嗣と同じ動きだ。

ならばと左足を強引に振り下ろして、右手を内に回転させて右の回し蹴りを聚楽の後を追わせる。

「ウグッ!」

背後から襲いかかって来た、栗林の回し蹴りが聚楽の脛を捉える。

回転して逃げるが打撃を受けてしまった。


「なんちゅう、無茶な動きをするんや!」

聚楽が悪態をつく。

こっちが素なのだろう。

ヤンチャ坊主の口調になっている。

「痺れが取れるまで待ってやるよ。その動きはやられた事があるんだよ」


聚楽は右脛に受けた痛みを散らす為にその場で、何度も飛び上がっていた。

「長谷山さんから聴いたのか?」

「いや、ちょっとした観察眼さ」

「怖いね。しかも、あの切り返しのスピード。萩月のスピードスターってのは本当らしい」

「いや、そいつは返上しているよ。今は、とんでも無い化物が萩月に巣食っているから、これからますます強くなってみせるさ」

「そいつは、一度やってみたいね」

「あぁ、今は奴の本気を受けれる為の修行中さ。どうだい?いけるかい?」

「あぁ、楽しくなって来た」

両者は又、激しくぶつかり合う。

栗林の突き、蹴りをかわしながら、片手で床を使って宙に浮かび空中から後方への回し蹴りを送ってくる。

それを飛んで打撃を逃しながら背後に回り込む栗林、両者の格闘はまさに三次元の戦いだったが、最後は持久力の差で栗林が制した。

「いや〜強いわ。しかも、こっちの急所をいつでも突ける様な目をしてやがる」


「そうだな、いつから萩月の道場はそんな戦闘武術に変わったんだい?」

黒い道着を着た明らかに強者の40代の僧侶が戦い終えた二人を見ていた。

「先真様!」

この場では改まった態度は無用と言われていたが僧侶たちが直立し頭を下げた。

横たわっていた聚楽も、一瞬で立ち上がった。

「良い良い、寝ておけ。最後の後ろ回し蹴りで床に叩き付けられたのが効いているのだろう?骨は大丈夫な様だが後で見て貰え」


「聚楽! ちょっとこっちに来い」

栗林が聚楽を手招きした。

そっと、懐に入れていた白魔石を握り込み聚楽の左脇腹にあてる。

栗林の足の甲の感覚は、肋骨にヒビが入った事を感じている。

白魔石を使っての治療。

多分これで真力が無くなるだろう。

そうすれば友嗣のところに魔石が飛んで行く。

不信がられるだろうが、ヒビが入ったままでは辛いだろう。

「オイ! なんだこれ? 痛みが無くなっていくぞ! 何をした?」

栗林は掌中の魔石が消えたことを確認して、両手を広げながら立ち上がって見せた。

「萩月の術さ。今ので売り切れだけどな」


驚きが僧達を駆け巡る。

先真だけが、栗林の手から漏れた光に気付いていた。

『萩月は復興を果たすか・・・・・』



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