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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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146 義父 常義

鞍馬から帰りの車の中。

後部座席の中央に座る若菜は、友嗣の肩に頭を載せて眠むっていた。

長い一日だった。

色んな事が有りすぎた。

お酒も入っているから余計に眠かったのだろう。

「すっかり安心している」

「今日は一日中、色々有りましたから」

「そうだな。一条の馬鹿息子と縁が切れたのが一番嬉しそうだな。もう、十年付き纏っていたからな」

「十年って、彼女が中学生の頃からですか!」

「その頃、彼奴は二十歳だったはず。未だ独身だが自宅にも他の家にも女を囲っている。子供もいた筈だが、今回の事で家督を継ぐ事は無かろう。妹も居るが男と海外で暮らしている筈。陰陽道とは何のゆかりも無い男だ。アイドル歌手だったみたいだがな」

「家督騒動が起きそうですね」

「おそらくな。うん? 」

常義の肩に小猿の姿をした【式】が現れ常義に何事かを囁き消えていった。

「木場さんからですか?」

「一条の使いが乗り込んできたらしい。【神隠しの術】がどうだかと騒いだそうだ。周辺住民が警察に通報した」

「動きますかね」

「深夜だから流石に動くだろう。文教地区なので案外に深夜の騒音には厳しいのさ」

「神隠しですか? 立証できませんよね」

「無理だな。それに、こっちに構っている暇は無いだろう」

「金の算段ですね」

「その筋の家にあれだけの武装をして侵入したんだ。しかも、陰陽師のトップを自称している名家だから、相手は何らかの術が実は有る。と、思い込むかも知れないな」

常義がルースと同じあの顔をする。

「誰が吹き込んだんです?」

「萩が向こうの奥様の枕元で囁いたらしい。次は手榴弾のピンを抜いて寝室に飛ばしてくるとな」

「どこかでやった事がありますよ」

「そう言っていたな。ミオラさんだっけ?」

「天然素材の環境に優しい化学兵器ですね」

「アーバインで使えそうな武器の有力候補だな」

「こっちでも使えそうですね」

「催涙ガスと同じ扱いにするしか無いだろうが・・・・・」

「常義さんも、軍事には詳しいのですか?」

「聞き齧り程度だ。羽田や九鬼の足元にも及ばんよ」


「どういたしましょう? お屋敷に参りますか?」

長谷山が声をかけてくる。

萩月の家だと若菜の様子に騒ぎ出す門人もいるかも知れない。

「そうだな。館林の屋敷に向かってくれ。白美が待って居るだろう。今日は館林の屋敷に泊まろう。悪いが友嗣くんは私と同じ部屋だ。少し話そうか? 将来の父として話しておきたい事も有る」

「・・・・・』


白美が館林の門を開いて長谷山が運転する車が入ると直ぐに閉じられた。

外からは見えない位置に回り込んで若菜を起こす。

「あー、よく眠れた!もう少し眠っていたかったなぁ〜」

「コレコレ、あまり見せつけるのでは無い。年が明けて婚約を発表するから、今までどおりに過ごすのだぞ」

「婚約か〜 なんだか恥ずかしいな」

「良いのですか? 私が相手で?」

「貴方しかいないわ! でも、プロポーズは必ずしてくださいね!」

「友嗣くん。彼女は本当に若菜かね? こんなに積極的な姿は見た事がない」

「えぇ」

「嬉しいのですよ。今まで、好きになれる相手が居なかったので望まない結婚をする位なら駆け込み寺に・・・・・なんて考えていらっしゃったのですから、おめでとうございます。若菜お嬢様。ばあやは幸せですよ」

「まだよ。私の子供の世話もしてくれるんでしょ?」

「そうですね。それを楽しみにしましょう」

「お嬢様。お湯の準備が出来ています。お世話しますので、お風呂に入ってお休みください。エステサロンも明日から予約してあります」

「あらあら、白美も嬉しそうね」

「それでは、友嗣様。お休みなさい。明日、又図書室でお待ちしています」

「今夜は私と友嗣くんはこっちで泊まるから朝食もここで取る。デートは食事前の庭での散歩かな?」

「エッ!そうですの?」

「常義さんが父として話しておきたい事があるそうなんで、今からお酒を呑みながらお話しをするんです」

「私も一緒に!」

「ダメだ。今夜はこれからの大事な話をしておかなくてはならない。さて、茜!いつもの部屋を借りるぞ!」

「はい。それでは後ほどお酒と軽いおつまみを準備してお持ちします。床もその時に準備させていただきます」

「お父様!ズルい!」

「こうも変わるものかね? これからの事を考える大切な時間なのだ。さぁ、こっちだ友嗣くん」

「それでは、お休みなさい若葉さん」

「私起きたらすぐに友嗣さんの所に行きますからね! お休みなさい!」


部屋では常義さんが謝って来た。

一条と室の若菜に対しての婚姻を要求する事を断る為に友嗣の名を借りようと思ったのは嘘では無い。

だが、では若菜と結婚させるのに相応しい男がいるか? 

と考えると思い当たる者がいない。

結局、許せるのが友嗣だけになったので思わず言葉に出てしまった。


友嗣も、若菜を一眼見た時から惚れてしまっていた事を包み隠さず告白した。

予言に振り回されたくないので出来るだけ自然に接して来たが、どうしても好きになって居る自分に気がついていた。

青魔石のペンダントを渡したのも【嫁取り石】としての気持ちがあった。

極め付けは一条豊の態度。

『コイツは今まで力と金で他人を操っている。若菜をコイツには渡せない。守れるのは自分しかいない!』

と思ったら婚約者と名乗ってしまっていた。

吹っ切れてやらかしてしまったが、これで良かったと思っている。

そう言って互いに顔を見合わせて、大笑いして酒を酌み交わした。

「今日の酒は『羽口(はねだ)』という銘柄だ。真面目な仕込みをする酒蔵で一度見に行けば良い。そうだ、コイツにも興味があるのだろう?」

そう言って取り出したのは、あの燕の型をした紙であった。

それを受け取った友嗣は手触りが違う事に気が付いた。

「この和紙も京都の山中で作らせている。陰陽師では萩月一門だけの為に作っている工房だ。今までは細々と私達の為に和紙を作る傍ら土産物用や縁の有る寺社への納品で糊口を繋いでいたが工房を切り分けて増産に入らせることにした。両角からも人を出すが良い時期だ。若菜と一緒に行ってくると良い。宿泊も出来る。そうだな、全工程を学ぶなら一週間は必要だろう。これなら、聖地でも作れるのでは無いか?」

顔が広い常義が紹介してくれる。

次々と学ぶべき事が挙げられる。

明日、夕刻のサランへの連絡が大変だ。

【転送陣】だけでも作るしか無い。

友嗣は黒石板に記憶させたこちらに送った【転移陣】と萩月の庭に浮き出た陣の比較もしなくてはと思い直した。


作中の商品名は少しばかし誤魔化してあります。

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