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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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143 時恵

屋敷で少しくつろいで、門人が呼びに来たので食堂に向かう。

大きな皿に盛られた、薄く透明感がある魚の切り身。

「コレが、フグの刺身。テッサです。関西では河豚(ふぐ)を食べると毒にあたれば鉄砲で撃たれた時の様に死んでしまいますから、【鉄砲刺し】と呼んでいてそれが縮まってテッサと言います。フグには毒が有りますからその調理には免許が要るんですよ。私は免許を持っていますが、もし釣りをしていてフグが釣れても料理はしないでくださいね。全身に毒があって私達にもどうにもならないフグも居ますから、ミガキを買うのであれば信頼できる魚屋で求めてください」

「口上は良いよ。早く食べさせてくれ!久しぶりのテッサだ!」

栗林が箸を手にして、今にも皿ごと食べてしまいそうだった。

「それじゃ、当主様。よろしくお願いします」

「栗林から睨まれるので、短く済まそう。知っての通り陰陽道の再興の兆しが見えて来た。だが、これからだ。忘れ去られた術を呼び起こし、新たな術を磨こうぞ! だが決してそれは欲の為に使うのでは無い。良いか? それを忘れた者には厳罰が下る。これだけだ!長谷山、後を頼む」

「それでは!乾杯!」

宴が開かれた。

晴美がテッサを取り分けてくれて言われた通りに箸をすすめる。

「旨い!」

「だろう! 関西人は冬になったらテッサだ! こうして食うと美味いんだ!」

栗林が何枚も掬って器に移す。

「コラ!l 意地汚い奴だな。お前は!l」

長谷山から怒られる栗林。

食堂は大笑いに包まれた。

料理が次々に出される。

フグを唐揚げにした物、その皮を和えた物。

フグ酒と言うヒレを炙って熱い日本酒を注いだ物まで出された。

友嗣はこの後の事もあり酒は控え目にしていたが、このフグ酒には思いの外酔ってしまった。

琵琶湖であがったモロコという魚の料理や赤い蒟蒻。

他の魚の刺身も出て美味そうだったが、この後も鞍馬で軽い食事が供されるのでフグ雑炊をいただく事にした。

「日本人だけですよ。フグを食べるだなんて・・・・・」

食に詳しい調理人がふぐ雑炊を持って来てくれた。


はるか昔の貝塚と呼ばれる、縄文時代以前の遺跡からフグの骨が見つかるらしい。

その頃から毒の処理の方法を知っていた事になる。

海外では網にかかっても、海で投棄しなければ犯罪となる場合がある。

今食している雑炊も処理をした骨を使ってダシを取っていると言っていた。

内蔵でも毒がない部分も有り料理として出せるが、今後、外で食事をする際に誤って食べる事もあるかもしれないので一般的に食べられる料理を出したと言ってくれた。

若菜と一緒に料理人に礼と詫びを入れる。

中座するのは心苦しいが次の予定があり、車で行くには人出が多すぎるので早めに出る事にした。

「私は出町柳からの電車でも良いのに・・・・・」

若菜が膨れて見せた。

通常なら小一時間も有れば着くのだが、今日は2時間以上を見ておかなくてはいけない。

(若菜さん位なら飛んでいけるのにな)

『エッ、友嗣さん空を飛べるのですか?』

直ぐに若菜が反応する。

『魔素を使いますが飛べますよ。【浮遊】、【飛行】、【飛翔】が有ります。地図を見た感じなら数分で着きますね』

『それでは、何処かで私を抱いて飛んでみて下さいね。私、憧れていたんですよ。空を飛ぶ事』

『そう言えば、まだこちらでは試していませんね。解りました。私一人で試して大丈夫でしたらお誘いします』

『約束ですよ!わーい、またひとつ夢が叶う!』

「どうやら、念話が使える様になった様だな?」

「お父様!どうして?」

「時恵と一緒だからだ。念話をしていても頷いてしまう」

「お母様も使えたのですか?」

「あぁ、私との間でなら、ある程度の距離があっても使えた。私達の縁を繋いだのも念話だ」

「聴いても良いですか?」

「恥ずかしいのだが、幸い今日は長谷山が運転してくれているから良いだろう。あの時、私と時恵の事で骨を折ってくれ他のは長谷山だからな」

こうして、常義が妻時恵との出会いを話し出した。


その頃、萩月家を早くに継ぐ事になった当時二十歳の常義は、方々の修験道の道を踏破して我が身を試していた。

自分には解っていた。

【真力】が無いとどうにもならない。

館林の書庫に籠り『真力』を得る方法を探す。

今まで何代もの当主が苦しんで来た事だ。

何も見つからなかった。

高野山に向かったのも【法力】が、【真力】と同一で有れば、京の都の【真力】よりもどうやら遅くに枯渇したらしいので何らかの痕跡がないかを探しに来ていた。

山中を歩き、岩陰で眠り小さな月夜石を片手に当てもなく山や谷を行く。

もう自暴自棄だった。

己の代で萩月を終わらせようとも思ったと言う。

その時の気持ちを察して若菜が常義の手を握る。

自暴自棄だったせいもあるだろう。

常義は足元への注意が疎かになり『浮石』に足を乗せてしまった。

滑落する常義。

助かりたいと言う気持ちと、このまま死んでも良いと言う気持ちが溢れ出す。

そに時であった。常義の頭の中に女の声がひびいた!

『ダメ!諦めては、死んではいけない!直ぐに助けに行きます、私は時恵! 待っていて下さい!』

一瞬だった。

だが、常義は滑落を防ぐ為に足から滑落する身体をなんとか操って端へ身体を寄せて崖の土に身体を押し付けた。

急いではいけない。

弾かれて体の向きが変われば頭から滑落する。

こうして、滑落を止めた常義。

何とか腰に残ったザイルを使って谷から木々の間に引き上げた。

右の脛が折れているか・・・・・

肋骨もヒビが入っているな。

肺に刺さらなくって助かった。

状況を先程の女に伝えてみるが返事はない。

気のせいだったのだろうか?

そう、思いながら横になっていたらいつの間にか気を失っていた。


「オイ!オイ! 大丈夫か? 助けに来たぞ!」

頬を叩かれて気がついた。

「助け?」

「あぁ、妹が教えてくれた。丁度、五人で修行の準備をしに山に入っていて、妹から念話で直ぐに行け!って怒鳴られたぞ。怪我の方は本当に妹が伝えて来た通りだな。ちょっと、添え木をするから我慢しろ。これを咥えてな!お前も運が良いな。今日じゃなかったら誰もこんな所に来たりしないぞ!」

修験僧らしい若者達が手際良く折れた右脚と胸に添え木をして行く。

口にはニッキの味がする棒が咥えさせられていた。

後に聞いたのだが修行の最中に食事をせずに山谷を駆け回る際にコレを咥えるらしい。

「気分が落ち着くし何より舌を噛まずに済む」

本当は黙っていないといけない事らしい。

こうして、里に降ろされて入院する事になった。


「時恵は知っていたと言う。兄の一光も母の久もあの日、私と時恵が出会う事を予言していた」


「私達が結ばれる運命で、これしか萩月の家と高野山の術の復興が出来ないとな・・・・・」


常義は真っ直ぐ友嗣を見つめていた。




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