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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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130 古武道

道場で繰り返される【符】、【印】と【真言】を使った術の起動。

繰り返される驚きと嗚咽の声。

この力を失って数百年立つ家もある。

顔にこそ出さないが陰陽師としての自負を失いかけていた。

門人の中には真言すら唱えられないものもいる。

それでも、その身に流れる陰陽師の血が成せるのだろう。

各家の当主はそれぞれが家に伝わった術を起動していく。


友嗣が是非、習得してみたいと思ったのが木場直の【天測】

【陣】と合わせて真言で発動するが、【星見】(占星術)の為に編み出された物だ。

日中でも天の彼方で陽の光に隠れてしまっている星空すら見ることができる。

戦時中は軍部より厳しく再興を求められたが、真力を失った陰陽師達から軍部に、この術が渡る事は無かった。

木場の一族は軍による強要、迫害から身を守る為に身を隠した。


しかし、真力に慣れないせいか門人の半数が横になっている。

今この道場に残るのは東京から来た羽田、両角、九鬼の長と数人の萩月の門人だけだった。

常義、若菜、木場、長谷山、館林は【萩神社】に入っている。


常義から友嗣の素性を探ってはならないと言い聞かされているが、門人のひとり栗林仁だけは誘導をかけてくる。

だが、友嗣はサトリだ。

彼の意を先に読み誘導される事は無かった。

遂には諦めて無手での立会いを求めて来た。

友嗣も、この国の体術に興味が有り受ける事にする。

真新しい道着を用意されて袖を通す。

綿で厚く織られた道着。

襟袖の仕立てが厚い。

(少し動きにくいな)

他の門人に習って、柔術の真似をする。

(だいぶ違うな。追撃をしないのか?)

友嗣が不思議そうに他の門人が組み合うのを見ているのを見て、栗林自らが中央に出て門人と拳を交わした。

友嗣に見せつける気だ。

中央に引かれた線が2本。

それを挟んで体面し礼をした後に体術を尽くす。

栗林の術は柔術と言うより古武道の裁きだった。

(ほう、投げを打った後に格好だけ突きを入れるか・・・・・なるほどな・・・・・)

聖地では身体強化をかけるから最後まで本気だ。


(シュウを相手にする程度でいいかな?)

友嗣は軽く受け流す気でいた。


中央で対峙するふたり。

(そういう事か・・・・・)

漏れ出てくる道場内の門人達が友嗣に向ける眼の奥の殺意の意味が分かった。


先程、若菜と言葉を交わし、あの不思議な青い石を加工して渡す。

しかも、明日は若菜の22歳の誕生日である。

門人はその事は知ってはいるが、相手が萩月一門の当主のひとり娘ということも有り誰も声をかけずらい存在。

そのせいもあって、若菜は母を亡くしてからは連接する館林の屋敷で寝起きをしている。

だのに・・・・・コイツは・・・・・



これは困ったな?

最初から潰してしまうのもなんだしなぁ〜

身体を起こし対峙する二人を見ている門人達の半数以上が栗林の様な目をしている。

友嗣は最初はこちらからは手を出さずに捌き、かわすことにした。

審判として立ち会う長谷山の家人の「礼!」の声が消えぬうちに栗林のローキックが友嗣の脚を刈りに来た。

この二人は身長差はもとより足の長さに差がある。

しかも、友嗣は腰を落とした構えをしていない。

重心が高いと見ての攻撃だ。

ご丁寧に右の上方から回す様なコメカミへの手刀の軌道で、友嗣の右くるぶしへの攻撃から目を逸らさせている。

「上手い!」門人達の声が出る。

だが、友嗣は右前方に飛ぶ様にして攻撃を見切っている。

蹴りに来る栗林の左脚に、左手を添えて栗林の横を擦り抜ける。

栗林はバランスを崩し前転で体勢を戻す。

(栗林のあの早い蹴り脚を踏み台にした?)

長谷山は見てとったが、周囲の者の中で何人がそれに気づいたであろうか、その後は栗林の攻撃をかわして、すれ違い様に友嗣が栗林のどこかに軽く指先だけで突きを入れている。

屈辱に顔を歪める栗林。

審判を務める長谷山巌の長男 博信(ひろのぶ)は圧倒的な力の差を感じていた。

(実戦で戦った事が有る者と道場での強者の差だ。)

それから先は、徐々に栗林の動きが良くなるが、友嗣が:更に一段スピードをあげる。


遂には栗林が、中央で大の字になって大笑いしだした。

「いや〜どんだけ強いんだよ! 参った参った! 若手の中では一番だと思って居たんだがここまであしらわれたら笑うしか無い。しかも、攻撃の際に見せてしまっている『スキ』に丹念に突きを入れてくれる。ワザと見せた『スキ』は軽く弾いてそれで生じた新たな隙をついて来てくれる。悔しかったが楽しくて仕方ない!これからも、宜しく頼むわ!」


長谷山が「古武術を、やって居たような構えじゃ無いんだがどんな武術だ?」と聴くが、

「おいおい教えていくよ。私も取り入れてみたい面も有るから教えて欲しい。【真力】を得れるようになったらもっと強くなれるさ」

「だが、対外試合は気を付けないといけなくなる。特に一条と室の連中に知られたくはない」

「皆も気を付けてくれ。彼らに知られると政治、経済、そして暗部を使って皆の身が危険になる。家族を巻き込みかねない。ご当主様は優位性を保った状態になれば他の一門に声をかけるそうだ。今日、今までやって有頂天になるのもわかるが、場合によっては禁足をかけさせてもらう」


その後も、長谷山が木刀を使っての示現流の流れを汲む激しい打ち込みを見せてくれた。

これを羽田家の門弟が捌きで凌いでいく。

彼等は、この萩月の道場での両巨頭で互いの剣を認めている。

(シュウもタカもリョウも今は羽田家の剣に近いが、長谷山の剣も捨てがたい)

友嗣は自分が、ゲーリンやメイルから指導を受けたのは両刃の直剣で、日本刀とはやはり違いを感じていた。

羽田家の門人が巻き藁を使っての真剣による、居合を見せてくれる事になった。

し〜んと静まり返る道場にチンという鍔鳴りの音だけが響いて巻き藁がほぼ真横に切り分けられた。

凄い。

剣が抜かれた瞬間は、見えたが巻き藁を切った瞬間が見えなかった。

加速する剣。

長谷山も同じ様に準備をして、これ又途轍もなく長くしかも厚みのある日本刀を持って来た。

巻き藁を2列3段にまとめて、胸の高さから腰の辺りの高さで固定される。

静まり返った道場に響き渡る裂帛の叫び!

ズンとでもザン!とでも聞こえただろう。

長谷山が打ち下ろした野太刀は6本の巻き藁を切り裂き、道場の床一寸で止まって居た。

何という全身の筋力の豪胆さ。

長谷山が使った野太刀は6キロは有るという。

それを、あれだけの速さで振り下ろして床上一寸で止める。

羽田の剣士も『私には出来ない事です』と素直に認めた。

友嗣に木刀の握りを教えてくれるが、ふたりで全く違う。

友嗣の素振りを見た剣術師は、羽田の門人の剣術が友嗣に合っていると言って当面は彼が指導することとなった。



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