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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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126 檜風呂

【転移の光】が引いていく。

ここは? 

周囲の様子を伺うと、自分が人に手によって作られた池の端にいる事がわかった。

明らかに外の光景だ。

頭上には白い月が見える。

アーバインと同じ様な月だ。

星空は薄くしか見えない。

山の麓なのだろうが、塀で囲まれた向こうには色とりどりの灯りが見える。

聴いたことも無い様な騒々しさも耳に届く。

ルナの歌声や手慰みに造る楽器とは違う騒々しい音楽も聴こえる。

ここは何なのだ?


『魔素』を探ってみても懐の『魔石』からも感じない。

おかしい。

魔素が抜けてしまっている。

転移で魔石を送ると魔素が抜けるが、ここまで抜けてしまう事は無かった。


目の前には木で作られた家があり灯りが漏れている。

白い紙と細い木で組まれた壁が開き、長身の男が姿を現した。

「〜〜〜〜〜………(どなたかな?)」

何と言っているのか解らない。

だが、自分のことを訝しんでいる事は伝わって来た。

服装も自分達とはずいぶんとちがう。

髪もきっちりと切り揃えて、何かで固めて有る。


初めて見る姿だ。だがその眼光には鋭さが合った。

相手の事を知らなければ・・・・・イバは【サトリ】の能力を使った。

だが、一瞬繋がりかけたが、切れてしまった。

相手は、右手を胸に置き何かを呟いている。

「〜〜〜〜〜………(術を使うのか?)」


イバは声をかけた。

「敵では無い。迷いこんだだけだ」


相手は「〜〜〜〜〜〜……(言葉を使うようだが伝わらぬか?)」

悪意は無いようだ。

困りきっている。


(どうにかして言葉を交わしたいものだ、先程の術もしや【サトリ】か?)


相手は屋敷から降りて来て、置かれていたサンダルの様な物を足に履き近づいてくる。

イバが人の手で作られた、その細い草で編まれたサンダルに興味を持っていた。

(同じ様なものを作っている)

イバは、今はボアの皮を重ねて底を厚くしたサンダルを履いている。

男はゆっくり近づいてきて懐から白い人の形をしたものを取り出して、手の部分を摘みイバにもう片方をつまむ様に指し示して来た。


イバは恐る恐る指をつけた。

すると【サトリ】を使った時のように、相手から心が流れ込んで来た。

『心配する事は無い。私は『萩月 常義』陰陽師である。あなたに危害は加えない。貴方の事を教えてくれ』

『私はイバ。古い言葉で海を表す。ルースの聖地から【転移陣】で送られてきた。ここはどこなのだ?』

『ここは、日本。地球という星の日本という国だ。先程、【転移陣】と言ったな? 【陣】を使う術が使えるのか?』

イバは懐から、親指と人差し指で作った円の大きさの青い球を出して見せた。

『これは【青魔石】。これに【魔素】と言う力を溜めておいて術に使う。人によっては魔素を身体の中に溜めておける者もいる。私もそうだ』

『我が、【陰陽道】で言うところの【真力(しんりょく)】だな。残念ながら、この地では【真力】は枯れてしまって得る事も出来ない。同じ様にその真力を溜める【月夜石】も殆ど残っていない。こうして、私が【サトリ】の術を使う程度になってしまった』

『待ってくれ!今、【サトリ】の術と言ったな?』

『あぁ、そうだ。そう言えば先程私に向かって術をかけようとしたが、【サトリ】の術だったのか?』

『そうだ、あなたの心を読んでこちらの意志を伝えようとした。【サトリ】の術だ』

『同じ術を同じ言葉で伝える・・・・・良いだろう。直接、サトリの術を私にかけてくれ。この【依代】は相手から攻撃的な術をかけられた時に身代わりとなる物だ。だが、要らぬだろう。イバの【サトリ】の術では他にどの様なことができる?』

『相手の考えや記憶を読んだり、【術の起動】を知ることが出来る。経験や知識、言葉も知る事ができる。もちろん、はぎつきさんが、記憶を渡さない様にして貰えば知る事はできない』

『それならば、早速私どもが使う言葉と日本という国、陰陽師について教えよう。頼むぞ』 

常義は【依代】を懐に仕舞いイバに相対した。


(本当にアジア人、日本人の様な顔立ちだな。)


イバは、常義の両手を握った。

互いの心が依代を介していた時よりハッキリと伝わってくる。

イバが色々と聞いてくる。

それについて常義は答えていく。

簡単な日常会話から身につけている衣服や日用品まで頭に浮かべては使い方を説明しその周囲へ広げていく。

常義もイバに質問をする。住まいの事、食事の事。


こうして互いの事を説明し合った。

気がつくと夜も更けて塀の向こうの灯りも、少なくなっていた。

「疲れませんか? 私は少し記憶を整理したいので休みたいのですが?」

とイバが、流暢な日本語で常義に語りかけてきた。

「ほほう。確かにイバが使う【サトリ】の術の奥深さには恐れ入った」


常義は、部屋にイバを上げる事にした。

イバは庭から靴を脱いであがれと言われた時は少し躊躇したが、受け取った日常生活にあったので素直に従った。

ただ、庭に横になった姿で転移して来た事もあり、いささか土埃が付いている気がする。

縁側に上がる前に【洗浄】をかけた。

貫頭衣の様な衣服を着た男の身体が、少し光ったと思ったら埃すら無くなっていた。

「術を使ったのか?」

「【洗浄】という術です。この術を使えば大概の汚れは落ちます」

「陰陽道には【浄め】が有るが、術を使うのに邪魔になる穢れを落とすものだから違うな。もっとも、それすらも使えなくなって来ているがな」

寂しそうに常義が呟いた。


イバは、縁側から萩月家の庭を眺めた。

魔素とは違うが明らかに何かが漂っている。

「【真力】と言われていましたね。少し試してみましょう」

イバは収納から空になった、【黄魔石】と【白魔石】を取り出した。

魔素を集める時の様にしてみる。

確かに有る。

魔石に集まって来ている。

聖地の魔素ほどの力では無いが、澄んだ力が集まってくる。


常義はイバが、左手に白と黄色の透明感があるゴルフボール大の石を置いて目を閉じているのを見つめていた。

次第に手の石が光り出す。

(まさか、真力?)

常義の眼でも庭の【双子池】や石塔、庭石のあちらこちらから、何かがイバの持つ魔石に集まって来ているのを感じられた。

と、同時に庭の池のほとりを中心とした四つの円と紋様で作られた【陣】が浮かび上がる。

イバは懐から【黒石板】を取り出して記録をした。

イバが【黒石板】を懐にしまうと【陣】はゆっくり消えていく。

「萩月様。【真力】は残っていますよ」

イバは先程の【魔石)を常義に手渡した。

感じる。

確かにこれは【真力】だ。

忠義は呆然としてコレは誠かと涙した。

試しに常義は懐から燕の形に切り抜いた【依代】を取り出して飛ばしてみる。

紙の【燕】は常義の手を離れ京の夜空をかけのぼる。

あぁ、間違いない。

常義は燕を、自分の一門の者の一人に向かって送ってみた。

呼ばない限りはこの離れに来る事がない。

しかし、燕の依代を握りしめた初老の男が廊下を駆けてくる。

「当主様! これは!」と、叫びながら・・・・・

だが、イバの姿を見て常義の前に立つ!

湧き上がる殺意!

「木場! よさぬか! イバは私の客人ぞ! いや、萩月の恩人になるだろう」

常義は木場に、今までの事を話してイバの為の着替えと風呂と食事を準備させた。


先程サトリの術で、話している時にも入浴の習慣があると聞いて、着替えも必要だからと準備させた。

この屋敷には萩月家に使える門人の道場がある。

その為、下着を始めとして衣服が用意されている。


最初は一人で入浴させようと思ったが、常義は自らも一緒に入浴する事にした。

「一緒に入ろうぞ!日本には裸の付き合いと言う言葉がある。自慢の檜風呂じゃ!」

イバは石鹸とシャンプー、リンスに興味を持ち、ウルマ島で作っている石鹸の話をした。

常義もイバが【収納】から取り出した、湯を沸かす為の赤魔石を使った魔道具の事に興味が出て実際に使ってみた。


風呂から上がり、衣服を着替える。

今まで来ていた下着や衣類は洗うと言われたが、【洗浄】をかけて【収納】にしまった。

身体の中に取り込まれる【真力】を使ってみたが、慣れないせいか、多くの量を使ってしまう。

イバは自分の無事を知らせるべく青魔石を、一番繋がりやすいサランに念話を送る。

『サラン私は無事だ。今、他の星の日本という国で萩月という男に会って世話になっている。必ず帰る!皆に伝えてくれ!特にシュウはいずれはこの地に来る事になる。術を磨け!この国は面白いぞ!』



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