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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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108 謝罪

残酷な描写が有ります。

間の仕切りが、作られることもなく二つの風呂は混浴状態になった。


衣服は下着を含めて避難所に数多く保管されていた物を配った。

二つの聖地にも残っているだろう。


何度も【遮蔽】とベスダミオを抜く術の繰り返しをさせられる。

獣人達の集落からも、ほぼ全員駆けつけて風呂に飛び込む。

お湯を、こんなに贅沢に使う事など無かった。

青魔石に魔素を蓄えておいて良かった。


ミオラも、我慢できずに風呂に入った。

男の視線が集まるが、もう気にしない事にした。

【・・・・・次からは分けさせよう!】


【遮蔽】を展開して男の接近を阻んだ。

しかし、あのドロドロが役に立った。

手や布で広げて擦れば、泡が出てきてベスダミオの残り香や返り血が消えていく。

なんだかさっぱりした気持ちになる。

【洗浄】も簡単で良いが、湯に浸かるだけで気持ちがいいのにあの泡は最高だ。

ルクアやルナ、リルに渡したらきっと良いものにするに違い無い。

ライラ母さんなら、レモンの皮を使って香り付けしてくれるだろう。

こっちで、やらせてみるか?



獣人達がパンを担いでやってくる。

「しまった!忘れていた!」

慌ててあがろうとしたが、獣人の子供達に引き戻された。

「大丈夫。馬を使って持ってくるし、雪が残っている場所は犬ぞりを使うから」


風呂の横では、大きな鍋に様々な肉や野菜が煮込まれた汁が次々に作られて、風呂から上がった者が立ったままで食事をしていた。

中には裸のままで食事を済ませ、又風呂に飛び込む子供もいて大笑いされていた。


「久しぶりだよ。笑うなんて。アンタのお陰だ。ありがとう。礼を言い尽くしても言い切れない。こんな事ならキラもペルも逃げ出さなかったらよかったのに・・・・・」


横にきた、奴隷から解放された犬獣人の女が礼を言って気になる事を話した。


「何言っているんだい?あの二人が、ここの事を知らせてくれたから私が来たんだよ」


「あの二人って・・・・・」

「生きているのかい! あの二人は!」

大騒ぎになった。

慌てて【遮蔽】を展開する。

狐獣人の男が、裸で掴みかかりそうになったのだ。

男が見えない壁に頭をぶつけたが仕方がない。

自己防衛だ、罪ではない。


「あぁ、済まなかった。弟が生きているなんて思わなかった」

「私達もだよ! 妹が生きているのかい!」

「あぁ、生きているよ。今頃、南の聖地か浜の村で暮らしている。今頃【名変え】を勧められているだろうな。もう済ませているかな?」

「・・・・・聖地で子供が産めるのかい?」

「あぁ、イバ達がそうしている。今、3千人くらい暮らしている」


「そんなに・・・・・私たちはどうすればいいの?」


「それについては考えがある。流石にこの人数をまとめて、南の聖地へ向かうのは無理だ。今日は遅い。明日、獣人達も含めて話し合おう。気になる情報もあるし、言っておきたいこともある。みんな、避難所に行ってくれ、くれぐれも麦畑の中の遺跡には近づかない様に」

「わかっているわよ。行けって言われても、あの悪臭じゃ近づけないわ」

子供達も、鼻を摘んでイヤイヤしている。


縛り上げられた女達は【捕縛の魔道具】を首に巻かれて、今、監視が立った風呂に入っている。

これからしばらくは、下働きをさせて他の女達の怒りが消えるまで魔道具はつけっぱなしになるそうだ。

命があるだけ儲け物だろう。


夕暮れも迫り避難所の匂いも消えていた。

まだ一部の犬獣人は中に入るのを拒んだが、術師から取り上げた暖房用の魔道具を使って夜を過ごしてもらう。

疲れていたのであろう。

目の前で、まだ燃えている青い炎を気にせずに寝ている。


避難所の中は、再会を祝う家族や仲間で彼方此方で泣く家族や、抱きあって、そのままの姿で固まった家族が居た。


術師だという事を隠していた住民や、獣人の集落に一緒に住んでいる人族の術師だけ集まってもらう。

「疲れているだろうが、明日の話し合いに必要な事だ。今、出来る術と歳を教えてくれ」


聞いていくと『土の術師』、『鍛治の術師』、『遮蔽』、『火』、『水』、となかなかいない術師もいた。

『遠見の術師』も五人いた。

後は『治癒士』の女が二人。

あのペルの二人の姉だった。

小柄でペルより若くみえる。

だから、囲わられずに済んだと胸を張る。

最後に手を挙げた犬獣人の子供【浮遊】が使えるが、前に貴重な赤魔石を空にして、それ以来やっていない。

面白い構成だ。

残念ながら【サトリ】は居ない。

代わりに【心理士】が居た。

これも、滅多にいない術の持ち主だ。

『サトリの成り損ない』なんて卑下する奴もいたが、そんなことは無い。

強制的に記憶を消して書き換えたり、押し込めたり、しない分、今までの経験や記憶が使える。

失われた時間の中の有意義な記憶を使える。

そう言い聞かせ自信をつけさせて、家族の元に帰らせた。


キラとペルの残された家族。

キラの兄『キシア』

ペルの姉『パム』と『パメラ』

キシアは、元々獣人達の集落出身だった両親と共に街で麦の生産に携わってきた。

ペルの一家は、収穫された麦の等級付けをする役人の父とその手伝いをする兄と暮らしていて、畑焼きを見に麦畑でキラ、キシア、パム、パメラ、ペルで遊んでいて聖地へ連れて行かれた。


奴隷達は皆、身体にも心にも傷を負っている。

(治癒士の二人と数人を先に治癒をして、周囲の人を治癒していくか・・・・・心理士に負担がかかるか・・・・・)

「キシア。悪いが街側の人と獣人の集落の間の取次をしてくれないか。明日、朝食を一緒に食べながらお互いの考えや思いを聞いておきたい」

(朝飯を食いながら相談か・・・・・浜の村の生活が抜けないな・・・・・)



下働きにされてしまった女達に、食事が冷たく無かったを聞いて茶を出してやる。

陽が落ちた後に風呂に入らされたんだ。

身体が、冷えているといけない。

少しだが茶菓子も出してやる。

殴られて痛そうにしている女は【治癒】をかけて治してやる。

「みんな、しばらく我慢してくれ。言い分も有るだろう。それぞれが生き抜くためにした事だ。私も幼いながらも目にして来た。5歳だったよ。自分の子供を守る為に男に身を差し出した母親も居た。夫が殺されていくのを必死に唇を噛み締めて子供を抱いて見送った妻もいた。地獄だったよ。子供がいなくても地獄には代わりない。誰が衆目を集めて男に身体を許すのを喜ぶ馬鹿はいない。皆、生きるための芝居だ。それが、今は無理でも分かってくれるようになる。それまで、私が見守ってやるよ。アンタ達も被害者だ。

芝居は終わった。今からは自分自身に戻りなさい。さあ、休むと良い。明日は、朝から朝食作りだ。頼んだよ」

枷を外して魔道具の首輪を外した。

逃げることは無いだろう。

ここにいるしか無いのだから。

家族の目もある。

友人だっているだろう。

用を済ませて女達が素直に戻ってくる。

「あらためて礼を言うよ。助けてくれてありがとう。生きるためだとはいえ仲間である女達に酷いことをしたのは認めるよ。そうでなきゃ真冬に海に突き落とされたか、裸で狼から逃げるのを見て笑うあいつらの娯楽にされるしか無かった。みんなに頭を床に打ち付けて謝罪して回りたいくらいだが今日はやめておくよ。明日からこの避難所のために働くよ。よろしく頼む。

ミオラさん」

リーダー格の女が頭を下げると、皆が頭を下げた。

それを周囲で女や奴隷だった男達が黙って見ていた。

さあ、明日の為に今日は眠ろう。

そうして、夜が、自由な夜がふけていく。

寝具を被っても、あちらこちらから聞こえる嗚咽を誰も咎める事なく・・・・・夜はふけていく。




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