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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第四章 : 責務
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4-17.銘々の狼煙

 ──反乱決行日、夜


 その日の労働を終えた反乱の実行者たちは、緊張に包まれていた。味気ない食事は真に味がせず、誰と何を話しても気が休まらない。何も知らぬ仲間たちが寝に入ったのを確認し、各々与えられた任務を遂行しに向かう。


 南の火薬庫に放火するようにと指示を受けた彼──タカミと同室の若い男も、その一人である。


「松明よし、火打石よし……薪よし。そっちはどう?」


 火薬庫は石材で出来ているが、肝心の火薬そのものは木製の箱に保管されている。この箱を燃やしてしまえば、建物は簡単に爆削されるであろう。そのための持ち物を確認し、三人の仲間に問いかける。


「ああ、問題ねぇ」


「私も大丈夫よ」


「同じく」


中年男、若い女、若い男が問題は無いと返答。返事の内容と彼らの顔を確認し、頷いた。


「よし。じゃあ、改めてタカミさんの作戦を確認するよ」


念のため、なるべく三人に近付き小声で続ける。


「まず、各火薬庫全てに火を放つ。僕ら四人は南側だね。次に、様子を見に来た奴らを攻撃部隊が岩で潰す。手薄になった奴らの屋敷をタカミさんたちが攻撃する」


反乱の首謀者であるタカミとムスビから受けた説明を、そっくりそのまま己の補佐担当に伝える。彼による指示でもあり、同時に、彼自身の復習でもある。


「それで、僕らの担当は作戦開始の合図も兼ねてるんだ。ここからの出火を確認したら、他の場所でも放火が始まる手筈になってる」


 タカミが知る中で、ムスビを除けば最も士気があった彼は、作戦の要とも言える箇所に配属された。他よりも大きな責任が伴う仕事だが、やはり高いモチベーションによって喜んで引き受けたのである。


「……さあ」


 鼓動は激しく、雷鳴とも錯覚するような轟音でもって聴覚を制限する。一つ、二つと深呼吸をして落ち着こうと考えた彼だが叶わず、手が震えているのを見た。


「行こう!」


 腐った現状をひっくり返す。その先には、今とはうって変わって自由が待っていよう。そんな希望を心に据え、彼らは火薬庫へと向かった。




 ──同日、岩場


 南側の火災現場に駆けつける敵を、落石によって無力化する。奴隷を使役する者たちの住まう屋敷から火薬庫までは複数の道があるが、最終的には彼──同室の老爺を殺されて反乱を決意した若男率いるチームが待機する道を通る必要がある。


「こっちは設置し終わったよ」


 空を眺めていた若男に、同室チームの女が報告に来た。これにて、攻撃準備は完了した。


「ありがとう。全員、いったん集合して欲しい!」


タカミから反乱の話を聞くなりリーダー役を買って出た若男は、メンバーを集め改めて予定の共有を行う。


「火薬庫から煙と炎が上がれば、いよいよ作戦が始まる。我々の仕事は、駆け付けた敵を撃破──少なくとも足止めをする事だ」


 彼らの居る谷の上には、二種類の岩が設置された。一つは大量の小岩。これにより、道の足場を悪くする。一つはいくつかの大岩。進路と退路を妨害して敵の道を断つ。さらに、岩で隔離された敵を殲滅するのにも用いる。


「攻撃の初動は伝えた通りだけど、大岩で倒しきれなかったら残った小岩を落としてしまおう」


「それでもダメなら?」


 敵がどの程度の人数を動員するかは分からない。一人か二人か、或いはもっと大人数か。それ次第では、用意した岩では足りない可能性もある。


「……ダメなら最終手段。ついでに運んで貰った荷台に、掘削道具が積んである」


シャベルやツルハシと言った、とても武器とは言えない代物である。


「でも相手は剣を持ってるはずだから」


 一見、冷静そうに見える若男の脳裏には、嫌な光景がフラッシュバックしていた。体調が悪く動けなくなった同室の老爺が裂かれるシーンだ。ここでは日常的に起きている事だと何度も忘れようと試みたが、記憶は脳に焼き付き、忘却は許されなかった。


「……直接の戦闘は、なるべく避けよう。できる限り岩を使って殲滅、だね」


 南部採石場で働かされているからこそ知っている、命の儚さがある。人は簡単に死ぬ。それは、敵だけに限らないのだ。


「おい、あれ!」


「ん?」


 同チームの男が指さした方に、誰もが目線を向けた。人々の精神と反比例するかのような空の中に、それは立ち上る。


「煙だ……! みんな、配置につこう!」




 ──同日、屋敷前


 物陰に岩を運び、タカミとムスビ、そして攻撃要員たちがその影に身を隠す。


「いよいよだな、タカミ」


「ああ」


 反乱が始まる。何度も諦められてきた革命が今宵、ついに遂行される。ミナカとウズメと言う二柱の死が動力となり、初動の重さを振り切ったのである。ムスビもタカミも、激しい緊張と高揚感に支配されていた。


「いいか、奴らが火災現場に向かったら、暫く様子を見る。頃合を見て、俺が奴らの根城に岩を放り込む」


 いつの日かタカミに目覚めた特殊能力、「怪力」と名付けられたそれを用い、常人にはなし得ない攻撃を行う。


「一発目は屋根を突破って落ちるように狙う。慌てて出てきた奴らも俺が岩で片付けるが、多分、全員は処理出来ねぇ」


 己の攻撃にも限界はあるとメンバーに説明し、後を託すように視線をムスビへ向けた。


「そうなったら、俺たち攻撃要員の出番だ。武器は……掘削道具と寂しいが、不意打ちなら十分戦える。それに、突然の襲撃で、精神的には俺らが圧倒的に有利だからな」


──ああ、始めちまった


ふと、やる気に満ち溢れた仲間を見てタカミは思った。


──俺もこいつらを見習わんとな


──この初動は断じて軽くねぇ


──それに


 二人、三人だけだった反乱計画の参加者は、今や複数のグループに分けられるほどにまで増えた。その誰もがタカミとムスビの誘いに乗り、未来に希望を見出したのだ。


──決して安い賭けじゃねぇ


──失敗は、許されない


 多くの人を率い、その全員の命を預かる。二柱の喪失から一転、少し冷静になったタカミは、己が無意識に背負った重い責任の存在に気付いた。必ず反乱を成功させ、南部採石場に希望をもたらす。それが彼に課せられた責務である。


「タカミ!」


「ん? ……ああ、始めよう」


 自身を呼ぶ強い声によりタカミは思案から解放され、それと同時に、南方面に立ち上る煙を発見した──。

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