4-11.岩場の華
ある日の夕方。いつも通り荷台を引いていたタカミは、すぐ右が崖になった細い道で危機的状況に遭遇する。ここでは見張りの次に警戒すべき危険、落石である。
岩の向かう先には少女が一人。邪魔になった砂や砂利を廃棄場所に運ぶ仕事をさせられている。体の成長期であろうがまともな栄養は与えられておらず、虚しいほど華奢な手足が目を引く。そんな彼女に岩が迫っていた。
「危ねえ!」
己の仕事を放棄し、半ば反射的に少女の方へ向かう。息を切らしながら必死に走り、何とか彼女を抱きかかえて安全な位置へ。情況を飲み込めていない少女を下し、タカミは荒れる呼吸を整えた。
「ふう、危ないところだったな」
「えっと、えっと……あ、ありがとうございます!」
転がって崖下へ落ちていく大岩を見て、やっと自身に死が迫っていたことに気付いた。深々と何度も頭を下げる少女。
「いいってことよ。それより、この先も危ない道が続くから、気を付けて進みな」
「はい」
「んじゃな」
いつもの如く長話は出来ない。荷台を引きながら後ろ手に別れを告げる。
「あの、お名前だけでも教えていただけないでしょうか? 私はウズメと言います」
「ん? ああ、俺はタカミってんだ」
「タカミさん、本当にありがとうございました!」
再三礼の言葉を口にし、命の恩人であるタカミに向かって可憐な笑顔を向ける少女。ふと彼は心が癒されるのを感じた。いつ事故死するか、いつ殺されるか、どちらにせよ死と隣り合わせの張りつめた南部採石場に存在する数少ない華。タカミはたった今、それを発見したのである。
「……タカミさん?」
「い、いや、何でもねえ」
ウズメと名乗る少女の笑顔に見惚れること数秒、彼女の呼びかけで、見張りが来るかもしれないという現実を思い出し我に帰った。今度こそ立ち去らんと、無言で手を振って荷台を押す。
まっすぐ前だけを見るタカミの思考は侵されていた。ミナカと少しずつ考案していた反乱計画の背景に、ウズメの笑顔が現れる。
——ああ、またか
これまでに計画を立てた時もそうだった。大切な仲間の顔が脳裏にチラチラと姿を見せることで、彼の決心は揺らぐ。そのせいで何度も実行を踏み留まってきた。計画が発覚したら、その人物らにも危害が加わるかもしれないからだ。
——ダメだダメだ
——今度こそやってやる
——皆を、ウズメをこの悪夢から救い出すためにも!
華を制止ではなく猛進の原動力とすべく、己に言い聞かせた。
一歩、また一歩と道を進むタカミの表情は、先ほどまでと比べて少々柔らかくなっていた。




