4─8.鎖を断つ力
──トリシュヴェア国、入口
「レパレーション・ヒール」
大いなる緑が少女を包み込んだ。オーラはやがて彼女の右手に収束し、その掌が触れる少年へと流れこんでいく。
「はい、もう大丈夫ですよ!」
「いつもありがとう、ポリア」
「いえ、お役に立てて光栄です!」
全身の痛みと倦怠感に苦しめられていたユウキは、ポリアの力による治療を受けてすっかり元通りに。
「ところで……」
動けない少年を見たためそれどころではなかったが、そう言えばこの大男は何者なのかと。アインズは首を傾げる。
「ああ、この方は……」
「一応この国の指導者って事になってる、タヂカラってんだ」
彼が名乗るとアインズらは一瞬目を見開いた。彼女らも、調査の結果タヂカラの名前は聞いていた。しかし、ユウキを運んで来た大男がそれだとは思いもよらなかった。風貌が指導者というよりも現場の人間だからだ。
「これはとんだご無礼を。私は、ブライトヒル王国から参りました、騎士のアインズと申します」
「ウルスリーヴルの桜華です」
「ニューラグーンのポリアです!」
「ああ、よろしく。にしても凄ぇなボウズ。本当に各地をまわって仲間集めてんだな」
「立ち寄った先で出逢った方が、快く同行して下さって──」
「嬢ちゃんばっか集めやがって。大人しそうな顔して、やり手だな?」
「そんなんじゃないですよ……」
──余計な事言うタイプの人だ?!
「……ユウキ君、タヂカラさんには目的なんかの話はした?」
「いえ、まだです」
「仲間と合流したらって話だ。立ち話もなんだし、ウチへ案内するぜ」
「そうでしたか。では、そちらで」
振り返って進むタヂカラの背を追い、再び国内を進む。
──タヂカラ邸
国の入口からは少し距離があるため、馬車を回収して指導者の家まで来た。女性の言った通り城は無く、他の家と比べて大きい岩の建築物があるのみだ。
「親父も爺さんも体がデカくてな。普通の家じゃちょっとばかし狭いんだ」
──なるほど、それでタヂカラさんも大きいんだ
諸々の解説を聞きながら、玄関をくぐる。
「おう、帰ったぞ」
「おかえり、兄さん。あれ、お客さん?」
帰宅の合図をすると、家の奥から男性が現れた。タヂカラの弟で、彼ほど大きくはないが、それでもユウキにとっては見上げるような背丈の人物である。
「ああ。茶を頼むよ、ハル」
「はいよ」
奥の部屋へ。とは言っても特に仕切りなどはなく、ただ低い机と絨毯が敷かれただけの場所だ。そこに一行と二人が座る。ハルが淹れた茶を一口啜り、タヂカラから話が開始。
「で、ボウズの言う目的ってのを聞こうじゃないか。観光じゃねえのは見りゃわかるが」
鎧をつけた人物。腰に刀を二本提げた人物。一行の様子を一目見れば、旅人であっても旅行者でないことは明らかだ。
──まあ、一人は観光だけど
「僕らの目的は、鎖の破壊です」
「鎖って……あのでかいヤツだよな?」
「ええ」
「はっはっはっ! いや、冗談きついぜボウズ」
──やっぱり
「あの鎖はな、ここの住人がいくら力を込めても、掘削の道具を使っても、ピクリとも動かなかったんだぜ?」
トリシュヴェア国でも、やはり鎖の調査は行った。しかし破壊には至っていない。鎖の核となった月長石の破壊は、物理的な力では成せないからだ。いくら花崗岩を削る技術をもっていても、いくら落石を受け止めるだけの筋力があっても、件の巨大な物体を動かすことは出来ない。
「ここから見て、北と北東辺りの鎖が無くなったのはご存知ですか?」
信じる様子のないタヂカラに、アインズが既成事実の確認を行う。彼の信念に関わらず、二本の鎖が消失しているのは現実の出来事であるからだ。
「ああ、まあそれは把握してるが」
「その二本を破壊したのは、僕らなんです」
「……本気か? いったいどうやってあんなデカブツを?」
物理的な力でないなら、どんな方法なのかと。そう問われ、自身の正体を明かす時が来た。桜華はあまり気にしていなかったが、果たしてタヂカラはどうかと、何度目でも緊張感があった。
「この首飾りを見てください」
「……?」
「これは日長石と言う石で、僕の大切な人から受け継いだものです」
首からさがる石を手に取り、これだと示すように少し前へ。
「一方で、あの鎖は月長石という石を核として持っています」
「日長石と月長石か。うっすらと聞いた事がある。なんでも、特別な力を持ってるとか持ってないとか」
石の職人である彼らは、噂程度であるものの、その存在自体は知っている。が、二つが持つ力には興味は無い。あくまで石工の人間だからだ。
「でもあんなの、ただの噂だろ?」
「ちょっと失礼します」
「……?」
立ち上がったユウキは少し離れ、剣を抜いた。近くに危険物がないことを確認し、日長石に祈った。
「……サン・フラメン」
少年が呟くと剣に炎が出現し、首飾りが少し輝く。日長石の力は本当に存在するのだと、そう示す為の行動であった。
「僕は騎士でも何でもなく、ただの一般人です。でも、この力があるから、バケモノと戦うことも鎖を断つことも出来るんです」
太陽の暖かさを放つユウキを前にして、タヂカラはある事を思い出した。彼に迫る落石を受け止める、その直前のことだ。
「もしやボウズ、渓谷でもそれを使ってたのか?」
「……ええ。ちょっと、しつこい奴が居まして」
偶然近くを通ったタヂカラは、どこからが感じた暖かさを追って谷へ。その結果、岩に潰されんとする彼を発見したのである。
「なるほどな。その力を使って、二本ぶっ壊してし来たわけか」
「そうです」
炎と剣を納め、元の位置に座った。が、タヂカラの疑問はまだ晴れていない。初対面のニューラグーン国王と同じだ。
「だがよ、ボウズは何でそんなもん持ってんだ? 大切な人ってのは?」
「それは……僕が、クライヤマの人間だからです」




