1-5.閃影の力
アインズと別の方向へ向かったツヴァイもまた、市街地に入り込んできたバケモノと遭遇した。
「なるほど。報告にあった恐ろしいという言葉は、間違いないようだな」
此度の襲撃で初めてバケモノの姿を己の肉眼で見た彼は、大袈裟だと思っていた第一部隊の報告内容に納得した。
黒に近い紫色の身体。
それでいて強烈な存在感を放っている。
肉体も強靭そうで、とっくみ合いになれば、体を鍛えている騎士であっても勝ち目がないことは想像に難くない。
骨格は、少し大きい人くらいの個体から、子供くらいの個体など幅広い。
「だが、貴様らのような敵は私の得意分野でな……っ!」
武器として大鎌を用いているツヴァイ。爪や拳といった近距離攻撃を主とするバケモノに対し、彼は中距離から攻撃を開始できる。
バケモノがツヴァイに攻撃を行うには、まず彼の間合いに飛び込まなければならない。逆にツヴァイは、安全な間合いを維持したまま一方的にバケモノを葬り去ることが出来た。
「恐ろしいのは、見た目だけのようだな」
涼しい顔を維持したまま大鎌を右から左に水平に振り抜き、自身に迫るバケモノを斬り裂いた。ツヴァイに近付くことすら出来なかったバケモノは、腰を境にして二つに分かれ、地面に転がった。
「ふん、たわいもない」
だが、例外も存在する。
「ん……?」
自身と同程度の背丈をしたバケモノを腰の辺りから斬り捨て、おそらく血液だと思われる液体を刃から払っていたツヴァイは、次第に大きくなる地響きに気が付いた。
「ほう……もはや個体差の域ではないな。貴様らにも種類があると見た」
地鳴りと共に現れたそのバケモノは、ツヴァイとは比べ物にならない体格の持ち主であった。見ると、そのバケモノの肩と一階建て平屋の屋根が同程度の高さにあった。
「ちっ、仕方がない」
まずは一歩後退した。これほどの大きさだと、ツヴァイの中距離と敵の近距離にさほど差がないためだ。
このままでは、いとも簡単につかまるか潰されるかだろう。
安全であろう距離を取りつつ、大鎌を地面と垂直に構えた。
そして——
「ドゥンケル・ラスレート!」
ツヴァイがそう唱えると、鎌の刃部分が湾曲型から変形し、まっすぐ天へ向かって伸びる刃となった。
同時にツヴァイの身体から黒紫色のオーラが放たれた。
「去ね!」
その刃をバケモノの頭目掛けて振り下ろし、引き裂いた。
巨体といえども頭に致命傷を負わされればひとたまりもない。
ドンと重い衝撃を放ち、土煙を舞わせながら地に倒れた。
煙で汚れるのを嫌ったツヴァイは、すぐにその場所を離れた。
「……」
自身の戦いをひと段落させて冷静に周りを見ると、何人かの騎士が横たわっているのが見えた。
苦しみ悶える者も居れば、既に苦しみから解放されて何も感じなくなった者も居る。
その光景に、彼とて悲しみを抱く。
「クライヤマめ……邪神め……っ!」
ふと、柄が軋むほど強い力で大鎌を握っていた。
仲間を殺されたことで、ツヴァイの中にあった日の巫女への不信感、
いや、憎しみがさらに増したようであった。