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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第四章 : 責務
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4ー7.選ばれし者

 ──太古の時代、真っ白な神殿


 広間にて彼女は嗤った。己が思うままに月長石の力を振るい、世界に影を落とした。結果生まれた魑魅魍魎は、世界中の人々を蹂躙する。その光景を高みから見物し、愉快になった為である。


「あははははっ! どんどん死んでくね〜」


 やたらと多く地肌が見える黒い羽衣を、高揚する心を表すかのように翻しながら、彼女はその様子を見守る。


「はぁ面白い。このまま、み〜んな死んじゃえばいいんだ」


そう恐ろしい事を口にしながら玉座へ。


「あ〜あ……」


 しかしながら座した彼女の様子は直前までとは大きく異なり、今度は膝を抱えて袖を濡らした。


「いくら力を手にしても、君は帰って来ないんだね。なら、要らない。君が居ない世界なんて、私が壊す」


意欲を無くさぬよう、己を鼓舞する意味も込めて呟く。


そこへ──


「見つけたぞ、月の巫女」


「?」


 聞き慣れぬ声がして部屋の入口を見ると、一人の男が立っていた。鎧に身を包み、一本の剣を携える。


「日長石……」


 装備品などよりも彼女の気を引いたのは、彼の首にかかる首飾りであった。自身が放つ夜空の様なオーラとは対極の存在、全てを照らす太陽の様な輝きを持つ石である。


「あんた誰? ノックもせずにレディの部屋に入るなんて、失礼な奴」


「俺は、日の巫女様より選ばれし者。月の巫女セレーネ、邪知暴虐な貴様を封じに来た。覚悟しろ」


──またか


セレーネはため息と共に心中で彼を嘲笑う。これまでにも何人か、こういう人間が彼女の元を訪れたことがあった。しかし、誰もセレーネを討つ事は出来ていない。


「見て、この傷一つ無い美しい身体。あんたみたいな奴は執拗いくらい来てるけど、私は……無、傷……なに、それ?」


 お前如きに勝ち目は無いのだと、そう説明していた彼女の目に、理解不能な景色が飛び込んだ。


男の姿が変わった。髪は逆だって暖色に輝き、眩いオーラに全身を包まれている。


セレーネは己の内に秘めたる力と相対する温かさを感じ、虫酸が走る様な不快感を覚えた。


「なんなの、それ?! あんた、誰なの?!」


「これで終わりだ、月の巫女!」


「──っ!」


 炎を帯びた剣が彼女を襲う。負けじと、オーラを集約して形成した手刀で応戦。鍔迫り合いになるも、彼女はすぐに退いた。自身の力が相殺されているのを感じたからだ。


「やだ、やだやだ! 気持ち悪い!」


「はああああ!」


「来るな、来るなああああっ!」


 相手に両掌を向け、自身との間に隔壁を設けた。月長石の力による結界だ。男の動きは止まった。しかし、セレーネの期待は裏切られる。


「こんなもの!」


「う、うそ……そんな訳ない!」


 日の力を纏った剣の切っ先が、防御を貫通した。次第に広がった穴は、最終的に人が通れる程の大きさになった。


「寄るな! 私に寄るな!」


後退しながら同じ防壁を何枚も何枚も、繰り返し張り続ける。が、その全ては同じ末路を辿る。


「抵抗するな。均衡の為、お前には大人しくして貰わねばならないんだ」


「嫌! 均衡なんて要らない。壊すの! 私が全部!」


「……そうか。ならば、仕方ない!」


「──っ?!」


 男のオーラがより一層強くなる。セレーネの防御は一刹那で全て崩壊し、さらに距離が詰まる。


「……それなら、私も手段は選ばない」


「……?」


 左手の薬指に付けていた指輪を外す。リングを宝たらしめるのは、小さな月長石である。


その石を取り外し──


「お願い、私を守ってね」


「本領発揮か、月の巫女!」


──飲み込んだ。


「私にひれ伏しな、この身の程知らず!」


 セレーネの身体を中心に闇が放たれる。それは濁流となりて、選ばれし者にも覆い被さる。激しいオーラの噴出により、羽衣はバサバサと音を立てて踊る。黒だった髪は紅紫(こうし)色や紫檀(したん)色、紺碧(こんぺき)色に変わって逆立つ。


「まさか、これ程の力とは」


「あははははっ! お遣いの分際で私に勝てると思った? バーカ、バーカ!」


「しかし、それは所詮……紛い物」


巫女の覚醒を前にしても男は冷静であった。


「あ? さっきからいちいちムカつくんだよ、お前!」


 明確な怒りを顕にしたセレーネは、遊ばずにすぐ殺してしまおうと意気込んだ。オーラを集約して剣を創り、右手で柄を握る。


「死んじゃえ!」


それを突き刺さんと急接近。


「────は?」


が、男は切っ先を手で受け止めた。無論、掌を貫通しているが、同時に刃を鷲掴みにもしている。


「終わりだと……言ったはずだ!」


「や、やめろ! 気持ち、悪い!」


 男の手から剣を伝いセレーネに太陽の力が流れ込んだ。彼のオーラは減衰するが、セレーネの剣もまた散乱していく。


「これで、世界は再び安定する!」


「なんでお前如きがこんな……っ?!」


「それは貴様が石を使っただけの偽物で、俺が巫女様に選ばれた本物だからだ」


「本……物……? うっ、きゃあああああああっ!」


 いつの間にやら迫っていた男の掌がセレーネの胸骨部に触れた。先程までとは別種の不快感も重なり彼女は泣き叫ぶ。


「やめて、私の身体に触らないで! ああ、ああっ!」


日の力。


月の力。


互いが互いを打ち消し、セレーネの力も男の力も弱くなっていく。


「や、やめ……て……あの子以外が……私に触れ──」


セレーネの変身は解け、目からは怒りも覇気も失せた。続いて男からも力が抜ける。


「はぁ……はぁ……はぁ……うっ!」


彼もまた元の姿に戻り、両膝から崩れ落ちた。


「私の、私と……あの子の、力……返、して……」



 朦朧とする意識の中、セレーネは辛うじて玉座に座らされた事だけ理解した。


「巫女様、これで……世界は守られたのですね」


 よろめきながら男が部屋を後にする。その背中を見届けた後、力を封じられた彼女は睡魔に服し、永い眠りについた……。




 ──現代、真っ白な神殿


「チッ」


 広間にてセレーネは舌を打つ。ふと忌々しい記憶が蘇った為だ。怒りに呼応して右腕からオーラが漏れた。そんな時、部屋の入口にある月長石が輝きを帯びた。遣いの帰還である。


「あっ、おかえりなさいジュア──」


いつもとは様子が違った。呼吸は浅く胴体は真紅に染る。命が途切れかけていたのである。


「ジュアン?! 今、治すからね!」


「セ……レーネ……様……」


 彼が死にかけているのを見て、セレーネは己が必死になっている事に気付いた。同時に、そんな自分自身に呆れ返っていた。


──はぁ


──何してんだろう、私


 彼女の手から出た月長石のオーラがジュアンの身体に吸われていき、胸と右腕の傷は塞がった。二つの患部は左腕同様、しばらくすれば異形と化す。


「どうだった? 日の巫女の遣いは殺──」


「セレーネ様!」


「な、なに?」


思わぬジュアンの勢いに少し驚いた。


「あれは、ただの遣いなどではありません。奴は──ユウキは、本物です!」


「本……物……?」


「詳しくはボクも分からないですが、髪の色が変わって逆立ち、常に日長石のオーラを放っていて……」


 彼の言葉を聞きセレーネは戦慄した。かつて二つの力を相殺し、事実上、彼女に封印を施した男。ユウキはその再来であると。


「如何なさい──」


「殺す」


震える手を抑えながら強く宣誓した。


「日の巫女に選ばれし者だけは、絶対に殺す!」


 その存在に対する憎しみは、恐怖の裏返しだ。日の巫女は死んだ。すなわち、世界の均衡とやらを保つには……と。


 ユウキらが全てを知った時、何を目的に動くことになるか……セレーネにとって答えは想像に難くない。


 力が戻らない事への焦燥はさらに加速していった……。

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