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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第四章 : 責務
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4ー6.指導者・タヂカラ

「ごめんよ、リオ。僕、勝てなかった」


彼女は何も言わず、ただ首を傾げる。


「やっぱりさ、僕は一人じゃ何も出来な──リオ?」


 ユウキの言葉を遮るように、目をつぶって首を横に振る。またしても言葉にはしないが、その動作は彼の言葉を明確に否定するものであった。


「……!」


 少女はユウキの両手をとって指を組ませ、自身の両手でそれを覆う。その瞬間、胸の日長石が今までに無いほど強く輝いた。


「そっか、僕は一人なんかじゃなかったね」


少女は頷く。


「君が託してくれた首飾りがある限り、僕は一人じゃない。ありがとう、リオ!」


 彼女の名を強く叫ぶと、景色は再びトリシュヴェアの渓谷に。自身を包み込む黒いオーラと、剣を振り上げたジュアンの姿がユウキの目に映る。


「とどめだ!」


「……っ! 負けるかあああああっ!」


 日長石の輝きは更に増幅し少年を包み込む。彼が深く息を吸うと同時に、眩い光もまた体内へと吸収されて行く。


「なにっ?!」


 光の爆発が起きる。炸裂は鬼気迫る表情で襲い来るジュアンに目眩しをする以外にも、重要な仕事をした。月長石のオーラを全て払ったのである。


「くそ、小賢しい真似しやが──っ?!」


 数秒ほどで目を回復したジュアンだが、次に映った景色は絶望であり、見えない方が幾分かマシであったとさえ感じさせた。


「何だよ、何なんだよ、それ!?」


 これは本当にユウキかと。炎のような赤や黄、橙に、不規則に変色し逆だった髪。真っ直ぐで鋭い眼差し。そして何より、全身から常に噴出する日長石のオーラがジュアンに不安感を与えた。


「ジュアン。もう、大人しく帰った方がいい」


「あ……?」


「君じゃ僕とリオの力には……勝てない」


「黙れ!」


 ジュアンは恐怖した。セレーネより与えられた月長石と自身が織り成す力は、何者にも劣らない絶対的なものだと信じていたからだ。


「くたばれ!」


 異形の左拳を強く握り、全力を持ってユウキの顔面へ打ち付けた。


「……え?」


が、少年は表情も変えず微動だにしない。


「ふざけんな! ふざけんな!」


 現状を認めることが出来ず、何度も顔、胸、腹へ拳を叩きつける。


「こいつ、本物かよ……。畜生……畜生!」


 恨み言を叫びながら剣に力を纏わせて斬りかかる。彼の力が日の力に弱いなら、逆もその筈であると。


しかし──


「……な、何?」


 気付いた時には、剣は彼の手を離れて地に落ちていた。一切の動作を認知出来なかったジュアンは再度恐怖した。


「くそ、く──」


 急ぎ剣を拾おうとしたジュアンだったが、その行為は激痛によって妨げられた。


「ぐあああああっ?!」


 右腕が落ちた。大量に出血する患部を押さえ、相手を睨む。相変わらず表情一つ変えずに立つユウキ。中腰で苦しむジュアンを見下ろしていた。


「もう止めなよ」


「うるせえ!」


 左手の爪を尖らせ、ユウキの喉元を狙う。しかし、やはりその攻撃は届かない。


「うぐぁぁぁっ!」


 腕の次は胴。左腰から右肩にかけて大きな傷が出来た。


「く、くそ……ったれが!」


後ろによろめきながらも、なんとか踏ん張って立つ。気を抜けば視界は回転するだろう。必死に耐えながら指笛を吹いたジュアンは、その場から姿を消した。


「うっ!」


 ユウキもまた膝をついた。姿は元の少年に戻り、オーラの噴出は止まっている。


「何だったんだ、今の……?」


 胸の辺りを手で押える。変身が解けてからジュアンの攻撃によるダメージに襲われたのだ。


「……っ?!」


 動けずにうずくまっていると、谷の上から物音が聞こえた。


「バケモノ……?」


近郊に鎖が刺さっている以上、似た境遇の他国同様、バケモノが群れていても不思議ではない。


「まずい、動け……ない……」


 しばらくすると、音の正体が見えてきた。バケモノなどではなく、もっと無機質な存在だ。


──い、岩っ?!


 ユウキとジュアンが戦った衝撃は想像以上に大きく、周辺のあらゆるものを震わせた。その煽りを受けた岩が転がり、崖の上から落下してきたのだ。


 このままではユウキは潰されるであろう。しかしどう足掻いても、彼の体は動こうとしない。ダメージと変身の負荷に縛り付けられている為だ。


──まずい


──潰される?!


……が、目を瞑ってしまった彼を岩が潰すことは無かった。代わりに雄叫びがユウキの聴覚を刺激する。


「おらあああああああああ!」


「……?!」


 恐る恐る目を開くと、大柄な男性の姿が目に入った。たった一人で転がる大岩を止めている。


「うおりゃあああああああっ!」


勢いを失った岩。それを平面に落とし、一息つく。


「ふう」


──と、止めた……?


 あろうことか、男性は大岩を一人で受け止めたのである。


「ボウズ、無事か?」


「……いえ、あんまり」


「はっはっは! 正直だな!」


 差し伸べられた手を頼りにユウキは立ち上がる。足も胴体も全て痛むが、なんとか踏ん張った。


「ここの人間じゃねえな? こんなとこで何してんだ?」


「ええ、僕はユウキと言います。訳あって旅をしてまして……。この国のことを調べようと、さまよってました」


「旅人にしちゃあ……ま、いっか。俺はタヂカラってんだ。形式上、ここの頭ってことになってる」


「あなたがタヂカラさん?!」


 探し求めた人物。トリシュヴェア国のリーダーを務める男性と出逢った。


──運が良いんだか悪いんだか


「そうだが……?」


「良かったです。あなたを探して旅の仲間と散開してたところなんです」


「そうだったんか。悪ぃな、不在にすることが多くて」


「いえ。良ければ、一緒に石版まで行きませんか? そこに集合する事になってるので」


「ああ、構わねぇぞ」


「では──痛っ!」


 歩き出そうとしたユウキは、しかし、ジュアンから受けたダメージによって再び膝を地につく。


「……しょうがねぇボウズだな」


ほらよ、と言いながら自身の背中を右手の親指で示す。


「す、すみません……」


 この調子では何日かかるか分からないと察したユウキは、彼の言葉に甘えることに。タヂカラに背負われたまま、仲間の元へ向かって来た道を引き返していった。

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