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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第四章 : 責務
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4-3.同じ未来

 ──ブライトヒル王国城、王の間


 王国騎士団第二部隊長ツヴァイと、不在のアインズに

代わって第一部隊長を務める側近の騎士メーデンが王の前に膝をつく。


「——反乱に関する報告は以上です」


ツヴァイがそう告げると、国王は唸るように言葉をつなげた。


「うむ。なかなか厄介な事になったな。民の恐怖心がここまで大きいとは」


ブライトヒル王国では今、国民による大規模な反乱が起きている。


目的は恐怖の解消──すなわち、クライヤマへの

騎士の派遣と制圧を実施させることである。


国土の近くに鎖が刺さっているわけではないが、

ブライトヒル王国はバケモノの源流であるクライヤマに最も近い。


それ故に、奴らに対する憂慮が周辺諸国に比べて非常に大きいのだ。


「既に百人以上の逮捕者が出ています。なにか策を講じなければ……」


「看守の報告によれば、もうじき牢屋が溢れるそうだ。このままやみくもに逮捕し続けても、事態は収束しないだろうな……。メーデンよ、何か案は無いか?」


「反乱者を抑えるのではなく、そもそも反乱が起きないようにする必要があるわけですから……ぶつけ合うべきは力ではなく弁であると、私は考えます」


「なるほどな。となると、国民の代表者を招いて答弁会を開催するのが良いか」


いくら彼らが騎士で、敵国の兵士という人間を殺す為に

訓練してきたとは言え、相手が自国民となれば話は大きく変わる。


アインズも含め大半は国を護りたいが為に

騎士になったのに、それでは本末転倒だ。


「ええ。ニューラグーン方面とウルスリーヴル方面の鎖が無くなったのは、誰の目にも明らかな事実です。ブライトヒルの騎士であるアインズと、ユウキ君……彼の正体を明かすか否は熟考が必要でしょうが、とにかく、既にその二人を遣わせていて、鎖を破壊できている旨を伝える他ないかと」


「しかしメーデン様、怯えた民が冷静に現実を見られますでしょうか」


圧倒的大多数の意見に飲まれ、正確な判断をする能力が失われた状態になる。


ここブライトヒルに限らず、例えばニューラグーン国で

反クライヤマ思想が蔓延したのは、そう言った集団心理のせいでもある。


「ああ。無論、その懸念はある」


「しかし、話してみない事には何も始まらんだろう。数日中に開催できるよう、会場の準備を進めよう。演説は私がする」


「陛下が?」


「無論だ」


「しかし、今は陛下と騎士団への不満が爆発しているのですよ? 危険ではないでしょうか……?」


国民にとっては、この国王こそが渦中の人物だ。

そんな彼が姿を見せれば、暗殺などのリスクが非常に高くなる。


「分かっておる。しかしツヴァイ」


そんな危険性は王とて百も承知だ。

それでも、一国の主として彼は国民の前に立つ覚悟を決めている。


「これは、ブライトヒル国王としての責務だ」


やりたいとか、やりたくないとか、そういう感情の話ではない。


やらなければいけないのだ。


国王という立場である以上、民の不安を除き、

平穏無事な生活をもたらす事が彼の責任となる。




 ──ブライトヒル王国、拘置所


 このところ毎日ここへ足を運んでいるツヴァイだが、

彼の目に映る景色は毎度新しいものである。


「やはり、増える一方だな」


 光景を更新している要因は囚われた者の数だ。


ユウキらが旅立ってから今まで、何度かバケモノの襲撃を受けたブライトヒル。

その度に煽られた恐怖心が具現化し、遂に至ったのがこの惨状である。


「おい! 騎士団は何をやってんだ!?」


廊下を歩くツヴァイに気付いた男が、檻を蹴って音を鳴らしながら彼に問う。

この男もまた、反乱の参加者として逮捕された身である。


「いつになったらクライヤマを討ちに出るんだよ、え?!」


「そうよ! 私たちの生活はどうなるの? 死ぬまで怯えなきゃいけないの?!」


騒ぎに便乗し、他の逮捕者もツヴァイに言葉の槍を投げる。


そうだ、そうだと騒ぎ立る。


その全てを受け止め、一瞬静かになると彼は深呼吸の後返答する。


「……何度も伝えただろ? クライヤマは既に滅びている。彼らと月、鎖、バケモノの関係は不明だともな」


「そんな訳あるか!」


「そうよ!」


「すこし冷静になったらどうだ? かの巫女は──」


「あんたは、巫女について何か知ってるのかよ?」


「……君たちこそ、巫女について何を知っている? クライヤマを治めたのは何の巫女か知っているのか?」


──彼は、こんな気持ちだったのだな


何も知らず、それでいて頭ごなしに否定する

彼らを見て、ツヴァイはユウキの気持ちを知った。


かつては己もあちら側だったと気付くと、その怠惰さに呆れ果てた。


「何の、巫女……?」


「日の巫女だ。太陽の加護を司る者が、己の座する場所に影を落とすと思うか?」


「そ、そんな事言ったって……クライヤマからバケモノが来てるのは間違いないだろ?!」


「だから『不明だ』と言ったのだ」


 怒っているように見える逮捕者たちだが、

実際に彼らを支配しているのは恐怖だ。


目に見えるバケモノ。目に見えない巫女という存在。

具体と抽象が同時に襲い掛かり、安寧を殺す。


「近々、国王様と騎士団が調査状況の報告会を実施する。それまで、少し待て」


見える範囲にある顔を見る。幸福な表情の者は一人たり共いない。


——何をやっているのだろうな、私は


自国民の平穏を護ることが騎士の務めだ。ならば彼らは何なのかと。


本来は民から信頼され、慕われるべき職務だ。ならば己は何なのかと。


——なぜ皆苦悶している?


——なぜ怒りの矛先となっている?


 期待された役割を果たせなくなれば信頼は失墜する。


それが今、彼ら王国騎士団と国民の間で起きている捻じれだ。


最近似た話を少年から聞いたツヴァイは、密かに震えた。

このままでは、ブライトヒル王国も同じ道をたどりかねないからだ。


——私は騎士の役目を、責務を果たせているのだろうか……?


ざわざわと治まらない騒ぎの中、彼は己の不義理を

握りこぶしの堅さに表しながら廊下を進み、城へと戻っていく。


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