4-2.トリシュヴェア国
ウルスリーヴル国付近の鎖を破壊したユウキ一行は、防人の桜華を仲間に加えて次の鎖へと向かう。
「次は南ですよね」
「ええ。三本目は、トリシュヴェア国の近辺に刺さっているわ。詳しくは──」
「はいっ! 説明します!」
指名を待っていたと言わんばかりの勢いで、ポリアは解説を始めんと地図を取り出す。
「あ、うん……お願いね」
「とりあえず、一行の最上位はポリア殿って事であってる?」
「大体あってます」
意気揚々と準備を進めるポリアの耳に、ユウキと桜華の話は届いていない。どの順番で何を説明するかという思考で脳内が埋め尽くされているからだ。
「アインズさんが仰ったように、次の目的地はトリシュヴェア国が最適です。えっと、この辺りですね」
クライヤマから見て真南の場所に丸印をつける。そこへ、ハーフェン港から右下が湾曲した矢印を引っ張って彼らの経路を示した。
「へぇ、こんな所にあるんだ?」
「確かに。進行方向を見ても岩山ばっかりで、国があるなんて思えないわよね」
「実はこのトリシュヴェア国、国としてはまだ赤ん坊なんですよ」
──赤ん坊?
馬車を動かしながら時折後ろを見ていたアインズの視線が、刹那のみ桜華を捉えた。
「だから誰が赤ん坊よ!?」
「いやまだ何も言ってないけど……」
「まぁ良いじゃないですか。赤ちゃん、癒されるし」
「うん。慰めてくれてるのか知らないけど、まずは赤ちゃんって部分を否定してねユウキ殿」
──おっと、話が変わりすぎた
「あ、ごめんポリア。続きを頼むよ」
「はい! と言うのも、トリシュヴェアは建国からせいぜい五十年経つくらいでして、加えて、政治などのシステムか未熟なんです」
「五十年経ってて未熟なの?」
桜華の疑問も最もである。五十年と言う時間は周辺諸国に比べれば確かに短い方であるが、それだけの期間があって未熟と評価される程のレベルに留まるのには少々違和感がある。
「トリシュヴェアは、元はと言えば奴隷の集まりだったみたいなんです」
「奴隷……?」
「はい。岩山での掘削作業や石材の収集など、危険な仕事をやらされていたようです。その扱いに怒った人達が反乱を起こして主人を討ち、まともな環境と報酬で仕事を自営し続けているとのことです」
「へぇ、食べていけるほど石材で稼げるの?」
蛇の装飾が着いた刀を大事そうに抱え、馬車の席でだらしなく胡座をかいたまま、また桜華が問う。
──行儀悪っ!
「トリシュヴェアの岩山では、良質な花崗岩が採れるんです」
「カコーガン?」
「クライヤマでも使われる御影石のことです!」
「ああ、そうなんだ……」
──なんでそこまで知ってるんだ?
──僕はもうこの子が怖いよ
「ブライトヒルの城にも、補修で一部トリシュヴェアの花崗岩が使われたって聞いた事があるわ」
「ふ〜ん、じゃあ需要はそれなりにあるってことか」
「それで、当の本人たちは優れた国家の運営を目指してはいないようなんです。どう言う意図があるのかまでは分かりませんが……国というより集落に近いかもしれません」
優れる必要は無く、ただ生きて居られれば良いと考えているが故に、傍から見れば未熟と称されるような体制を維持している。そんな謙虚な国、トリシュヴェアの近くに刺さった鎖を破壊せんと、彼らはなおも馬車を走らせる。
「……」
自分にしか成し得ない事だと知ったユウキには、次第に責任感が芽生え始めていた。




