3-31.義理を果たす
──ウルスリーヴル国、港
船着き場へとやってきた五人。
その内四人は船上、一人は港に立った。
もう間もなく、ハーフェン港行きの貨物船がここを発つ。
それは同時に、桜華と故郷の乖離を意味する。
「じゃ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい、桜華」
「小町大丈夫? 私がいなくても寂しくない?」
「……ちょっと、寂しいかもね」
「え、何? 可愛いとこあるじゃん」
「城内が静かになっちゃうしさ」
「は? 可愛くな」
「……なんてね。そうだ、これ持って行って」
小町が持っていた紙袋をユウキに手渡した。
「これは?」
「私からの餞別です。それと、桜華の世話代」
「ありがとうこざいます」
「だれが赤ちゃんよ」
受け取った彼は、右手にずっしりと重みを感じた。
彼が思っていたよりも幾分か重く、
落とさぬよう反射的に胸ほどの高さまで上げる。
「みんなで食べてくださいね。傷みやすいですから、早めに」
──食べ物なんだ
「みんなで! 食べてくださいね!」
二度目の強い知らせ──警告は桜華個人へ向けられていた。
「何よ。私がお土産を一人で平らげるような奴に見えるわけ?」
「うん、見える」
「ひど!」
茶番を続ければ、或いはこのまま
時は進まずにいるのではないか。
そんな妄想をしていたが、現実は残酷に告げる。
「そろそろ出港で〜す」
「じゃ──」
「小町……!」
出発前最後にと、桜華は小町に抱きついた。
「なんだよ、急にしおらしくなりやがって」
ふふっと笑い、彼女も桜華の背中に手を回した。
「……泣くなし。三人とも見てるから」
「うん、落ち着いた」
「急に冷めるじゃん……。ほら、ユウキさん達と世界に見せつけてやんな」
──見せつける?
桜華の両肩に手を置き真っ直ぐに目を見て言う。
「ウルスリーヴルが誇る美少──」
「わあああああ! わあわあ! 行くよユウキ殿アインズ殿ポリア殿! 機関士さん船出して〜! わあああああ!」
「……?」
「うるさいわね……」
過去に自称していた妙な二つ名を
ばらされかけ、一人大騒ぎ。
その間に船は港を発ち、国を離れていく。
見えなくなる最後の瞬間まで港に向かって
手を振っていた彼女は、やがて船内へ。
「やっと来たわね。ほら、一緒にたべましょう」
「うん」
紙袋から箱を取り出し、包装を解く。
中には拳大ほどの白いものが。
「あ! これ、ウルスリーヴルの伝統的なお菓子ですよね! えっと、なんて言うんですっけ?」
「食べ物まで興味津々なんだね」
桜華は微笑みながらそれを一つ手に取り──
「豆大福」
「そうそう、豆大福!」
「まったく、返すの遅すぎだよ……」
「……?」
「あっ、ううん。なんでもない。それよりほら、ユウキ殿も食べてみ? 美味しいよ」
「いただきます」
三割程を口へ。皮の柔らかさ。餡の甘さ。豆の硬さ。
様々な感覚がユウキを刺激する。
色々な想いが混在し混じり合い、
しかし離れることなく大きな一つを形成する。
それをユウキは、極めて単純な一言にて表現した。
「──美味しい」
第三章 乖離 完
ギリシア神話
太陽の神:ヘリオス
月の女神:セレーネ




