3-30.家族のもとへ
「なんで、なんで、あの子らはまだ……」
「私も小町も、もう居ないのに……もう、終わったのに……」
ふと、六人のうち一人が視線に気付いた。
他の五人にも共有し、両手を大きく振りながら土手を駆け上がって二人のもとへ。
「……?」
「桜華さん! 小町さん!」
「お久しぶりです! やっと来てくれたんですね!」
数年で雰囲気が変わっているが、見間違いも聞き違いもせず、忘れもしない。
骨董屋の子。
鍛冶屋の子。
道場の姉弟。
百姓の子ら二人。
その六人であった。
「ご、ごめん……えっと、何を、してるの?」
「え? おかしな事訊きますね、桜華さん。何って、いつも通り剣の練習ですよ」
「それは……見たら分かるんだけど。そうじゃなくて、なんでまだ集まってるの?」
「なんでも何も……大蛇の解散なんて指示されてませんし……ねぇ? それに、全部終わったらここに集合って言ったのはお二人じゃないですか」
「「……っ!」」
「……私たちあの後、沢山話し合ったんです。解散するか、続けるか。結果はご覧の通りです。今は……剣の練習をする傍ら、街の掃除とか色んな人やお店の手伝いとかやってます」
「……そっか」
「あっ、そうだ桜華さん」
鍛冶屋のせがれが用事を思い出したようである。
「なに?」
「渡したい物があるんです」
そう言うと彼は土手を滑りながら降り、
荷物を漁ってまた上へ戻って来た。
彼の手には刀が一本握られている。
「あの夜、逃げる前に拾ったんです。やっぱりこれは、桜華さんに持っていて欲しいのでお返しします」
「これ……っ!」
少し古びた、蛇がとぐろを巻いた形の鍔が付いた刀である。
受け取ると、己の半生が思い返された。
色々とあったが、大蛇として共に生きた彼らも
家族であったのだと、また涙が溢れそうになる。
「うん、ありがとう……あり、がとう……っ!」
「私らね、色々あって……今は防人をやってんの。簡単には戻れないんだ。でもまぁ、たまには見に来ようかな?」
「……私は少し旅に出るから。せっかくだけど、また暫く離れちゃうの」
自分も時間を見つけては顔を見せようかと思った桜華だが、
それはまた少し後の事になりそうだ。
目的は鎖の破壊。
巫女を想う少年の尊い目的を支えるためだ。
「はははっ、大丈夫ですよ。アジトに桜華さんが居ない事なんてざらにあったし、皆慣れてますから」
「あはは……」
「あんた全然帰らなかったもんね」
「ごめんて……」
受け取った刀を元の一本に追加して左腰へ携える。
「さて御三方。もう少しだけ、時間貰ってもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
「構わないわよ」
「私も少し街並みを見たいので!」
「うん、あんがと。さ、旅立つ前にこの桜華様が稽古つけてあげる!」
桜華は走り出し、六人と共に河川敷へと向かって行った。
──桜華さん、なんだか楽しそうだな
「桜華から昔の話はありました?」
「昔の? いえ、特に何も」
「……じゃあ、私から簡単に」
──桜華と小町の生まれ育ち、大蛇と呼ばれる組織の結成から盗賊の討伐、防人になるまで。
その話を聞いて初めて、ユウキは桜華の言葉を理解した。
彼女が復讐を忌避する理由。
ユウキの心に感銘を受けた理由。
歴史にその全てが詰まっていた。
「感謝しますよ、ユウキさん」
「感謝……?」
「あんなにはしゃいでる桜華を見るのは、本当に久し振り。少なくとも、大蛇を創ってからは今が初めてです」
「いえ、僕は別に何も」
「それでも、桜華の心が決まるきっかけをくれたのは、あなたですよ」
この時ユウキから見えた桜華の笑顔は、本物であった。
彼やアインズとのやり取りで見せていた物が偽物だとは言わないが、
しかし、取り繕いでもなければ、ただ笑顔なだけでもない。
純粋に心の根底から笑っていたのである。
──君もそうだったね、リオ
畑仕事を手伝っていた時。走り回っていた時。遊んでいた時。
日の巫女に就任する前のリオのそれは、今の桜華に似ていた。
「じゃ、すいませんけど私も少し混ざってきます」
「ええ。行ってあげてください。小町さんも含めて、桜華さんの家族ですから」
彼女は「うん」と頷き、河川敷へ降りていった。
──なんだ、小町さんも同じじゃん
桜華の事ばかり話していた小町だが、
家族の輪に帰った彼女もまた、心の底から笑っていたのであった。




