1-4.閃光の力
——ブライトヒル王国市街地中央
大急ぎで装備を身に着け、第一部隊長アインズと第二部隊長ツヴァイが街に出た。既に負傷者が運ばれたり、もう手遅れの騎士が無造作に転がったりしていた。
「少々遅かったようだな」
「……ええ」
凄惨な状況を見て、揉めている場合ではなかったと後悔した。
「アインズ隊長‼」
そんな彼女の名を呼びながら、走って接近する騎士が一人。
アインズが指揮する第一部隊の隊員だ。
「状況は?」
「住民の避難が遅れており、混乱が広がっています。少しずつですが、バケモノが侵攻を始めています。即席のバリケードはありますが、時間の問題かと」
「そう、報告ありがとう。私は戦線に加わるわ。住民の避難はあなたが指揮して」
「はっ!」
隊長より指示を受けた隊員は、命令遂行のために走り去った。
「思ったよりまずい状況ね」
「……ああ」
一度クライヤマでバケモノと戦ったアインズ。
対してツヴァイは、バケモノの姿、形などの特徴を報告として書面で見ただけであった。
「怖いなら引っ込んでいてもいいのよ」
「ふん、バカにする」
一瞬の茶番の後、アインズは腰に携えた剣を、ツヴァイは背負った大鎌を手に取って構え、別々の方向に散った。
——ブライトヒル王国市街地奥
グシャという気味の悪い音をたて、ロングブレードがバケモノの胴体を裂いた。
市街地に入ってきた未知の存在を斬りつけたアインズは、念のため首に追撃し、確実にとどめを刺した。
「ふう。恐ろしい敵だけど、人を斬るより……」
クライヤマで初めてバケモノを斬った時から、彼女が感じるようになった事。
アインズやツヴァイが所属する王国騎士団はもともと、国家間戦争のために設立された組織だ。
国の為にと騎士になった彼女だが、実際に人を殺すとなると躊躇いが生じることも少なくなかった。
そう言った迷いを振りきったからこそ、第一部隊長という地位にまで上り詰めたわけだが、人ではなくバケモノと戦っている状況において、捨てた余計な感情が蘇生し始めた。
「……さて、ほかにバケモノは」
人を殺すバケモノの出現により、人を殺さなくてよくなった。
なんとも皮肉な話で、アインズ自身も自分がどういう感情でいるべきなのか分からなかった。
「ぐわあああっ‼ は、離しやがれ!」
「——っ‼」
索敵を行っていた彼女の耳に、すぐ近くから人間の叫びが聞こえた。
これ以上死傷者は増やすまいと、聞えた方向へ急行する。
「今助けるわ!」
バケモノに首を掴まれていた騎士を発見したアインズ。
少しでも安心させようと、これから助けるとの旨を叫んだが……
「や、やめろ! 痛い、痛い、や、やめてく——」
「くっ!」
間に合わなかった。
バケモノに勇敢に立ち向かったであろう彼は、もうピクリとも動かなくなった。
いとも簡単に首を折られたからだ。
「ヴィリアン……」
今しがた殺された男性に、見覚えがあった。
かつて第一部隊に所属し、アインズと共に戦った騎士だった。
今にも泣き崩れそうな自分を律し、バケモノに向かって叫んだ。
「よくも、よくも大切な仲間を殺してくれたわね」
恨み言を放つのと同時に、怒りと悔しさをこめて敵を睨みつける。
その視線に気付いたバケモノは、アインズを見て奇声を上げた。
「……ブリッツ・ピアス」
剣を持った右腕を引き、左手と切っ先をバケモノの方に向けてアインズはそう呟いた。
——刹那。
彼女の身体から黄金のオーラが放たれた。
そのまま足と腕に力をこめ——
「仇は討ったから……どうか、安らかに」
——瞬き一回ほどの極短い時間で、アインズの剣がバケモノの顔面から頭部を貫いていた。
少なくとも他人の目には、瞬間移動して刺した様にしか見えない、亜光速の突き攻撃だ。
こういった「力」を使うことが出来るのは、彼女だけではない。
優秀な騎士として活躍する者の大半は、何かしらの力を持つ。
無論それは、第二部隊長ツヴァイも同様である。