3-19.花開く夜
──来るっ!
猛スピードで迫り来る男。
この速度は先程までと変わらないが、
桜華が刀を構えようとしたその瞬間、
既に手遅れな位置まで刃が迫っていた。
──速い?!
──防御は間に合わない!
咄嗟の判断でしゃがみ、何とか回避。
しかし、もう次の縦斬りが来ている。
横に転がってこれを回避し、追撃に備えて刀を構える。
「うっ……?!」
桜華が腕に力を込めるより早く、
男の攻撃が叩き付けられた。
「はああああああっ!」
腕だけで押し返すのは困難だと判断し、
立ち上がる脚の力を加えてなんとか逃れた。
「おら! おらおらぁ!」
しかし逃れただけでは何にもならず、
また防戦一方となる。
──気ぃ抜いたら一瞬で持ってかれる……
──反撃したいけど
男の特殊能力による高速攻撃は厄介だが、
体力の消耗も準じて脅威だ。
その内この速度に対応出来なくなり、斬られる。
そんな未来が少女二人の脳裏をよぎった。
──長期戦はダメ
── 一瞬で決めなきゃ、負ける!
「ふん、なかなか、しぶといな」
「こっちの……セリフ!」
流石に息が上がり始めた男は、
数歩の距離をおき、休憩を試みる。
これを好機と捉えた桜華は、突きの構えで突進。
「遅せぇんだよ!」
──かかった!
突きを払おうと、桜華から見て右に逸れた。
しかしそれは予想済みの行動であり、彼女は冷静に対処する。
「……あ?」
敢えて突きを止めず男の前まで走り、
不意に回転斬りを見舞った。
「しまっ──ぐわああ!」
「隙あり!」
怯んだ隙を狙い、小町が背中に追撃を加えた。
傷は浅かったが、一連の不意打ちによって混乱している様だ。
桜華も体勢を立て直し、さらに攻撃を仕掛ける。
「そこ!」
「ぐああああああっ!」
──やった!
見事、敵の右手に大きな傷を負わせた。
刀は地面に落ち、男の流血が刀身を紅く染める。
「トドメだーっ!!」
小町がまた追撃を試みる。
単純な縦斬りだが、
今の敵になら効きそうだと見込む。
が──
「調子……乗んな!」
男は急にむくりと立ち上がり、小町の攻撃を回避。
お返しだと力を込めると、黒いオーラが右脚に出現。
そのまま、目にも止まらぬ蹴りが
繰り出され、小町の脇腹を襲った。
「うぐっ!」
「小町!」
吹っ飛んだ小町は、出入口の絢爛な扉に激突。
痛む肋骨を押さえながら
立ち上がろうとするも、膝をついてしまう。
「ああ、くそ、痛てぇ痛てぇ」
「こ、こいつ……!」
使えなくなった右ではなく、左で刀を拾い上げた。
──両利き?!
「残念だったなぁ、おい!」
「めんどくさい奴!」
桜華はまだ、重大な怪我はしていない。
しかし、追い詰められているのもまた桜華である。
右腕を破壊するに至ったのは、
小町も加わった不意打ちのおかげ。
しかしその頼もしい仲間はもう、
立ち上がるのも困難な様子だ。
「さっさと……くたばれ!」
駆け寄りながらの斬撃が迫り来る。
──落ち着け
──落ち着け、私
刀を鞘に収め、心を沈める。
──負けられない
──かかってるのは私の命だけじゃない
──殺られちゃった部下たちの命も
──小町の命も!
──この勝負に、全部!
そう、己に言って聞かせる。
──ちゃんと見れば、見えるはず!
事実、男の攻撃は速い。
しかし桜華はそれを、幾度となく防いでいる。
本能的な防御ではあるが、
目で追うことは出来ているのだ。
──見切れ
──見切れ
男がもうすぐそこまで迫っている。
「おらぁ!」
──見切れ!
「そこだあああっ!」
叫びながら抜刀し、勢いそのまま刀を振るう。
桜華の攻撃は男の胴を捉えた。
「ぐああああっ!?」
右から。
左から。
上からも、下からも。
無数の斬撃に襲われる男。
何が起きたのか、一度しか斬っていない桜華にも、
一度しか斬られた覚えのない男にも分からなかったが、
少し離れた小町からは見えていた。
「桜華……あんた、それ、そのオーラは……」
「……え?」
納刀して己の手や足元を見る。
小町が言ったように、桜華からはオーラが出ていた。
男のような黒い物ではなく、彼女の容姿に
似つかわしい、濃い桃色のオーラである。
──ああ、そうか
──私の力だ
そう理解した途端、特殊能力を完全に把握した。
──反撃
──見切った攻撃を居合で流してさっきみたいに
──それが、私の力!




