3-18.盗賊集団スサノオの長
大蛇による襲撃も、いよいよ最終段階。
作戦の第四項に突入するぞと、部下にその旨を伝える。
「ここから先は、私と小町で何とかする」
「皆は、邪魔が入らないように警戒して」
大蛇の生き残りは十一人と二人。
港拠点を担当した者らのうち、七人は殺られてしまった。
しかし、被害が大きいのはスサノオも同じだ。
不意打ちの甲斐があって、拠点にいた敵は殲滅したと見える。
あとは森拠点と、外に出ている者がどうかだ。
「じゃあ、お願いね」
一階と二階に部下を残し、二人は三階へと向かう。
階段の先には、他とは全く異なる質感の絢爛な扉がある。
その事から、指導者の間であると推察される。
「行くよ、小町」
「うん」
荒れる呼吸を落ち着かせて、桜華は勢いよく扉を開いた。
「下で騒いでいやがったのは、お前らだな」
「……っ!」
「あんたが、スサノオの指導者ね?」
「いかにも」
そう答えたのは、部屋の奥で椅子に座る、
中肉中背の髭面中年男だ。
部下には無い、特別な装飾が施された服を着ている。
「何を……してるの?」
驚きのあまり、桜華は男に質問を投げた。
「見りゃ分かんだろ? 宝石の品定めだ。最近は、宝石商すら騙す恐ろしく精巧な偽物を作る技術があるって聞くしな」
「……は?」
桜華の疑問はひとつも解決されなかった。
今何をしているかではなく、もっと違う事を訊いたのだ。
「仲間が大勢殺られてるのに、指導者が顔も出さずに何やってんだって訊いてんの」
「仲間?」
「スサノオの構成員。下に居たのは全滅だけど?」
「んだ、コマの事か」
「……コマ?」
「奴らなんか、俺の手間を省くためのコマに過ぎねえんだよ」
男は、恐ろしく冷静に答える。
淡々としすぎていて、何もされていないのに恐怖すら覚えた。
「ああ、分かったぞ」
蝋燭の灯で宝石を観察しながら、
片手間で二人に言葉を投げかける。
「ここ何年か、俺たちを嗅ぎまわるネズミが居ると聞いていた。お前たちの事だな?」
「気付いてたなら、なんで潰しに来ないのさ」
大蛇の存在は、スサノオの長に把握されていたようだ。
ならば何故、何も対応をしなかったのかと、
大蛇創設者の一人、小町が疑問を呈する。
「はっはっは。面白いことを訊くな」
男は宝石を机に置き、初めて二人を見て続けた。
「あまり自惚れない方がいい。お前らが何をしたところで、俺の痛手にはならない」
そのまっすぐな視線は、桜華と小町に寒気を感じさせた。
「で、なんだ。目的を聞こうじゃないか」
刀の柄を触り、精神の安定を図った
桜華は、声が震えぬようゆっくり答える。
「……私たちは、スサノオを恨んでる。だから、斬りに来た」
「十年前、あんたらは神社を襲った。泣き叫ぶ子供らをゴミみたいに——」
「ああ待て待て」
小町の言葉を男が遮った。
「あのな、嬢ちゃん。そんな前の事なんか、いちいち覚えちゃいねえよ。なに、神社?」
——こいつ!
「あんたらは神社から、御神体の剣を盗った。そん時に、そこに居た孤児たちを殺したって言ってんの‼」
「そうかい。それで?」
「は?」
「は、じゃねえよ。俺らが孤児を殺した。だから何だってんだ」
「あの子らは皆、私たちの——」
「——もういいよ、小町」
「桜華……?」
「こいつは家族の仇。だから斬る。ただ、それだけ‼」
常習的に盗みと殺しを繰り返すスサノオ。
その長にとって、桜華たちの憎しみが生まれた
事件など、数ある内の一件に過ぎない。
そんな認識の差異を察知した桜華は、
これ以上何か話しても無駄だと判断した。
故にこそ彼女は、刀を抜いて男に
向かって駆け出したのである。
「んだよ、めんどくせえな。そんなに孤児共の所へ行きてえか、ああん⁈」
「行くのはお前だ‼ あの子らに……詫びてこい‼」
刀と刀がこすれ合い、不快な音が響く。
「おらぁ!」
「そこ!」
「甘ぇ!」
斬撃を見舞っては弾かれ、追撃が迫る。
そんなやり取りを互いに幾度も繰り返している。
「死にやがれ!」
拮抗しているように見えた戦いは、
しかし、根本的な攻撃力の差によって男へと傾く。
「……っ!」
力で押されて膝をついた桜華に、刃が迫る。
「させないよ!」
「?!」
あと一歩で桜華を仕留められそうだった男は、
自身の左から迫る攻撃を察知して後方へ回避。
「助かったよ、小町」
「ちっ、うるせぇハエだな」
緊張する少女らとは対極に、
男は肩や首を伸ばして身体をリラックスさせる。
「面倒くせぇから一気に終わらしてやる」
「……?」
「なにかして来るよ、小町」
「うおおおおお!」
──なっ!
男の周りに真っ黒なオーラが見えた。
異様な力を感じた二人は唖然とするばかり。
「嬢ちゃんたちの復讐劇は」
そのオーラが全て右腕に集約して行く。
「ここで終えだ!」




