3-17.怒れる桜
一つ上の階へ。
階下での異常事態を察したスサノオの
構成員たちが、武装し怒号をあげている。
「このガキども! 何をしやがった!」
「俺たちが何者か分かってんのか?!」
「分かってるよ。盗賊集団スサノオ。すなわち、ウルスリーヴルのゴミでしょ?」
「なんだと?」
「ガキだからって、容赦しねえぞ!」
「ふっ……」
刀を大きく振り上げ、威力だけの
攻撃を仕掛けるスサノオの男。
桜華はそれを嘲笑した。
「ぐわあっ?!」
納刀状態から瞬時に抜き、横に一振り。
男の胴体に傷ができ、怯んだ。
「隙あり!」
さらに追撃を加えると、敵は動かなくなった。
「てめぇ、よくも仲間を殺してくれたな!」
「……っ!」
別の男の恨み言を聞いた瞬間、
また桜華の中で何かが弾けた。
「お前が……お前たちが、言えた事かあああっ!」
「な──」
桜華の斬撃によって左肩から右脇腹にかけて
大きな切り傷が生じ、その男もまた倒れた。
「おい」
「……?」
安堵する間もなく、
二階の奥から体格の大きな男が現れた。
「嬢ちゃんたち、やってくれたじゃねえか」
桜華は何も返さず、ただ黙って敵の目を見る。
巨漢の対処には慣れたものだが、今回は少し違う。
両手に一本ずつ、木製の太い棍棒を持っていて、
一本の刀とは違った対応が必要となりそうだ。
「大人しく……しやがれ!」
右の棍棒を振り上げ、桜華に向けて叩きつける。
左の追撃を防ぐため、相手の右肩側へ。
しかし──
「うぐ……っ!」
地面を叩いた棍棒は、斜めに桜華へ向かう。
不意を突かれた彼女は、咄嗟に刀で防御。
が、その威力は凄まじく吹き飛ばされてしまう。
「うっ……?!」
ふすまを一枚突き破り、廊下の壁へ叩きつけられた。
「ったた……っ!」
気を確かに持とうと頭を振り、部屋を見る。
巨漢に立ち向かった部下たちが、
自身と同じ状態になっているのが見えた。
──痛っ!
咄嗟に脇腹を押さえた。
今の衝撃で、右の脇腹と背中を痛めてしまっている。
──くっ、こんな奴に!
昔、神社が襲撃された時に見た
スサノオの指導者は、このような巨漢ではなかった。
すなわち、男は指導者ではないと推測される。
こんな手下相手に、手こずる訳にはいかないのだと悔やむ。
「なんだ、終わりか?」
廊下で膝をつく桜華の方へ、
男が一歩ずつ近付いてくる。
「へっへっへ。嬢ちゃんは宝石なんかより、よっぽど高く売れそうだな、おい」
──え
──何、こいつ
──キモっ!
「それは……どうも!」
悪寒に襲われながら、
出窓に置かれた燭台を左手で投げ付けた。
まだ火が残っているものだ。
落としてしまえば、火事のリスクがある。
「おわっ、てめえ!」
建物を燃やす訳にはいかず、男は燭台をキャッチ。
火事は防いだが、桜華に向けて隙を晒すことになった。
「うっ……! そこ!」
「な──ぐあああああああっ!」
胴を狙った斬撃は、
背中の痛みで少しぶれてしまった。
が、巨漢の左腕に当たり、
結果的にそちらの腕を封じることに成功。
燭台は床に落ちたが、男が憤怒の
情を込めて踏み付けた為、延焼せずに消えた。
「クソっ、痛え、痛え! 許さねぇぞ!」
残った右腕で棍棒を振り下ろした。
横に回避してしまうと、先程と同じ事になる。
しかし、後ろには倒れた棚などの邪魔がある。
──避けられない!
刀を横にして攻撃を受け止める。
やはり痛むが、防御は緩められない。
「ふんっ、終わったな?」
「……?」
──っ!
──しまった!
別の男が階段を登ってくる。
防御は外せない。
故に、背後の攻撃をかわす手段は無い。
「なあ、おい!」
──う、動けない!
巨漢に足を踏まれ、
その場からの移動はさらに困難になった。
──どうしよう
──どうしよう?!
「なんだ、かなりの上物じゃねえか、勿体ねえな」
最後の一段を登った男が桜華を見て言った。
しかし捕縛の意思は無く、
短剣を逆手に持ち、桜華目掛けて──
「うぐ──」
……え?
男の短剣が振り下ろされる事は無かった。
「な……に……?」
激しく痛む腹を見た男は絶句した。
刀の切っ先が突き出ていたからだ。
背後から刺されたのだと察した途端、
繋ぎ止める猶予も無く意識が離れていった。
「おい、上物はここにも居るだろ」
「小町……っ!」
立っていたのは、時間差攻撃の
後発部隊を率いる小町であった。
「やっほー」
呑気な挨拶をし、男から刀を抜く。
「またガキが増えやがったか!」
「無駄口叩く暇は……無いよっ!」
──いやあんたも無駄口叩いてたじゃん
「……っ!」
小町は跳躍斬りを放つ。
桜華を抑えるのに精一杯の男を上から斬るためだ。
──良い作戦よ、小町!
──ふふっ、小町に斬られたい?
──それとも、私に斬られたい?
左腕が使えない男は、
右腕を使わねば小町の攻撃を防げない。
しかし右腕を使えば、桜華の刀身が解放される。
「ち、畜生!」
男は右腕と棍棒を、小町の攻撃を防ぐのに使った。
「これで、終わり!」
右肘に斬撃を与えると、怯んで数歩下がった。
足も解放された桜華は、すぐさま距離を詰めて──
「まま、待て、やめ──」
男の下腹部の辺りを刺した。
敵はその場に倒れ、事切れたようだ。
「ふう。助かったよ、小町」
「無事でよかった。ここから先は、私が背中を守るから」
「うん、ありがとう。ところで小町」
「うん?」
「小町は上って言うより、中くらいかな〜」
「……」
「わわっ! ごめんって半目で剣抜かないで! 上物上物! 小町ってば、ちょ〜美人!」




