3-15.最後の集会
──それから、半年余りが経過した。
剣術の指南書と桜華の指導により、
荒削りだった大蛇の戦闘能力はそれなりに磨かれた。
無論、たった半年で防人と同等にはなれないが、
各個人が自分の身を守る程度の力は持っている。
「みんな! まずは、お礼を言わせて」
大蛇の全メンバーを広場に集め、全体に向けて小町が叫ぶ。
「ここまで私達について来てくれて、本当にありがとう!」
「ありがとね」
大蛇創設者の二人が前に立ち、
幹部含む他のメンバーに向かって頭を下げ、礼を言った。
「おかげで、二人だけだった大蛇は、ここまで大きくなった。武器も揃ったし、戦力も上がった。そして──」
溢れる感情を抑える小町。
彼女と心を共にする桜華は、その肩に手を置いた。
「……私たちは遂に、憎きスサノオの拠点を特定した!」
拍手と歓声があがった。
憎しみ一つから生まれた組織が、
ついにその理念を叶えようとしている。
「事前に連絡したけど、今日集まって貰ったのは、最終任務のため。今晩、奴らに攻撃を仕掛けるよ!」
今度は少し控えめな歓声があがる。
盗賊集団スサノオを攻撃する。
それが何を意味し、何を引き起こすか。
小町や桜華含め、それは誰の目にも明らかだ。
「……この中の誰かは、殺されるかもしれない」
これは模擬戦でも逮捕でもない。
命が天秤に乗せられた殺し合いである。
「生き残ったとしても、防人に捕まるかもしれない」
死なずとも、安寧の保証は無い。
「ここから先は、本当に何が起きるか分からないの。だから、逃げるなとは言わない。恐ろしければ、武器を置いて帰っても構わないよ。それを恨んだりはしないから」
小町がそう告げると、五人ほどが刀を置いた。
キョロキョロと周りを見ながら、
他のメンバーに頭を下げて走り去った。
「……他の皆はいいの? 本当に、死んじゃうかもしれないよ」
問いかけるも、それ以上去るものはいない。
多くの者がスサノオを憎み、
同時に二人を信じているようであった。
「……そう、ありがとう」
再度お礼の言葉を言い、
指導者にふさわしい毅然とした表情に戻った小町。
「じゃあ、作戦を説明するよ」
懐から紙を取り出した。
己の筆跡で記された文字列を読み上げ、全体へ知らせる。
「一つ。大蛇を十人と二十人に分ける」
メンバーたちは皆、小町に注目する。
一切を聞き逃さぬよう、しっかりと聞き耳を立てる。
中には内容を書き留める者も居た。
「二つ。十人は南西の森拠点へ。二十人はさらに半分に別れて、時間差で西の港拠点を攻撃」
調査の結果、スサノオは
拠点を二つ構えている事が判明した。
一つは南西の森。
もう一つが西の港である。
睨んだ通り、盗んだ品を港から外に流しているようだ。
「森の十人には、スサノオの馬を逃がしてもらうよ。無理に奴らと戦う必要はない。ヤバかったら、命最優先で撤退してね」
これには、スサノオの援軍を阻止する狙いがある。
どんな情報網を持っているか分からぬ以上、
そもそもの移動手段を封じてしまうのが良い。
「次に港。私の班と桜華の班に別れて攻撃。まずは桜華の班が奇襲して、混乱している間に私の班が馬を逃がすよ」
一気に人数を減らしつつ、逃走を防ぐ作戦だ。
「三つ。森拠点で馬を逃がしたら、堂々と街中に逃げ込んで。奴らは盗賊だから、騒ぎになる様な事は避けるはずだよ」
何度か深呼吸をし、小町は作戦の最後、第四項を告げる。
「四つ! ここからは、本当に付き合う必要はない。私と桜華で、スサノオの指導者を討つ!」
敵は本拠点である港に座している。
それを、創設者の二人で討伐しようと言うのだ。
剣術に多少の自信がある桜華とは異なり、
小町の手は少し震えている。
「作戦決行は今夜。全部終わったら、またここで会おうね」
スサノオを倒した後、
大蛇がどうなるかは分からない。
それでも彼女らは、
この場所での再会を約束したのであった。




