3-13.討つべき敵
「じゃが、悪党にかけてやる情けなど無い。力ずくでも捕らえさせてもおう」
——来る!
桜華から見て右より、横斬りが来た。
彼女はそれを下に流し、刀の峰側の切先で
傷を負わせてやろうと、勢いよく左上へ振り上げる。
——避けた⁈
敵は桜華の振り上げよりも早く後ろに下がって回避。
一方で桜華は、振り上げ攻撃を不意に避けられてしまった。
急所である腹が敵に向かってフリーになっている。
——や、やばい……殺す気⁈
切っ先が桜華の腹に向いた。
突き刺しを狙っているようだ。
当たれば桜華は本当に死んでしまうだろうが、
この防人は本気で攻撃を始めた。
——っ! 避けられない!
左右どちらかに避けようと考えた桜華だが、
自身の後ろには部下がいる事を思い出した。
腕を伸ばそうと、体格は相手の方が大きい。
桜華が刺される方が先だろう。
——仕方ない、イチかバチか!
出来るかどうかも分からぬ最終手段。
大蛇幹部の証である、とぐろを巻いた
蛇を模った鍔で突きを受ける。
「ほう、やりおるな」
腹に刃物が刺さるといった最悪の事態は何とか免れた。
無理に押せば自身の肘にダメージが入りかねない。
そう考えた防人は、すぐさま手を引く。
「……おや?」
突然、周囲を警戒し始めた。
——?
何事かと桜華も周りを見る。
気配があった。
それも、数人ではない。
それなりの人数が、二人の戦場を囲っているようである。
「……なるほど、援軍じゃな」
「援……軍……?」
これ以上敵が増えたら、今度こそお終いだ。
一気に八人もの防人を無力化できたのは、
煙幕による不意打ちのためだ。
認識された状態で大人数に囲まれたら、
すぐさま捉えられてしまうだろう。
体から力が抜ける。
——ああ、無理かも
——大蛇の夢はここで
ガラっと勢いよく障子が開く。
その途端、聞きなじみのある声がとどろいた。
「御用改めであ~る‼ 神妙にしろ、防人ども‼」
「こ、小町……?」
小町を始め、大蛇の仲間たちが集結していた。
「ううむ、流石に分が悪いようじゃな」
防人は刀を鞘に納め、その場に座した。
敵である大蛇を前にして、である。
「あんた……何を——」
「往け。我が方の戦力は裂かれ、主らは援軍あり。妾の負けじゃ」
「……?」
「妾を斬りたくば斬るがよい。全員でかかれば、容易い事じゃろう?」
桜華と小町は目を合わせる。
言葉を交わさずとも、二人の意思は同じであったようだ。
桜華は刀を納め、集まったメンバーに告げる。
「大蛇各員、撤退するよ」
「なんじゃ、斬らぬのか?」
「私たち大蛇が討つべき敵は、防人なんかじゃないから」
「ほう、その敵とやら、聞いてもよいかえ?」
「……スサノオ」
「そうか、スサノオか……。ならばその敵、我らも共に——」
「お断り。私たちは、私たちで戦う」
「……じゃが、子供らが徒労を組んだところで」
「お断りだって言ったでしょ⁈ 私たちは、防人の力なんて借りるつもりはない」
「そうかい……」
捕らわれていた部下たちも解放され、
先ほどの指示に従って撤収する。
最後の部下が部屋を出たことを確認し、小町も進む。
「——助けてくれなかったくせに」
進行方向を見たまま目を合わさず防人にそう言い残す。
その語気は柔らかいが、確かな絶望と怒りが混じっている。
拳を強く握ったまま、桜華もアジトを立ち去ったのであった。




