3ー12.高貴な防人
「御用だ。神妙にしろ、小娘」
「……子供を人質にとるなんて、それでも防人?」
「ふん、泥棒猫が何を言う」
「え、私、猫なんかより可愛いと思うけど」
「……あ?」
「え?」
これは小町とのノリではなく、
作戦を考える為の時間稼ぎだ。
だがそれも、徒労に終わる。
──どうしよう、何も思い付かない
桜華は自分で思うより焦っている事に気付いた。
──攻める?
──ダメ、絶対間に合わない
危機に瀕しているのは、自分ではなく部下だ。
無茶は出来まいと己を制止する。
イタズラに時間だけが過ぎ、大男と桜華は見合ったまま。
「刀を捨てて、向こうに蹴飛ばせ」
「嫌だって言ったら?」
「大事な仲間が一人減る」
「……っ‼」
大男の眼を見て、桜華は察する。
——こいつ、本気だ
大蛇のメンバーは、基本的に一般人だ。
桜華と小町以外には普段の生活があり、家族がいる。
何が起きるか分からない活動だと理解した上で参加している
とはいえ、桜華は彼らの命を預かっているのと同義である。
こんなところで死なす訳にはいかない。
「……分かった」
刀を鞘に納め、床に置いた。
「廊下の方に蹴るんだ」
左足を使い、先ほど突入してきた廊下側へ刀を蹴った。
もう、動かずして拾い上げるのは困難だ。
「んんん!」
「暴れるな、小僧! 今縛るから待っていろ」
「んん!」
「膝をつけ」
部下と桜華の目が合う。
「言う通りにして」
「ん……」
少年が膝をつくと、大男が懐から縄を取り出す。
——二人を監視する視線が外れた、その瞬間。
「んんっ‼」
少年が勢いよく立ち上がり、
大男の顎に頭頂部を思いきり衝突させる。
「んぐああっ‼」
——やるなら今しかない!
少年が作った機会を無駄にはしないと、
桜華は走る。蹴り飛ばした刀を回収し、
勢いそのまま少年を救出。
彼の襟をつかんで他の三人の方へ転がした。
「ええい、ガキども‼」
舌を噛んだのか、大男の口から血が垂れている。
怒りに歪んだ表情のまま、迫り来る桜華に向かう。
刀を抜き、彼女を迎撃しようと試みるが、時すでに遅し。
桜華の刀は鞘から抜かれ、大男の膝を捉えた。
「うっ‼」
念のため大腿にも追撃を加え、
刀を持った右手を思いきり蹴飛ばす。
痛む足ではその威力に耐えられず、大男は倒れた。
——ふう、これで一安心
九人目を無力化し、一息つくが——
「桜華さん後ろ!」
「……っ⁈」
振り向くと同時に、後ろにいるという
敵の足を狙った半回転斬りを繰り出す。
「と、跳んだ……?」
だが彼女の攻撃があたることは無くかわされる。
恐るべき反射神経にて回避したのである。
本能的に一歩下がり、十人目の防人を見る。
「……まさか、主が九人も無力化したのかえ?」
そこに立っていたのは、特徴的な言葉遣いの女性であった。
血気盛んな防人とは異なり、どこか高貴さを感じさせる人物である。
「だったら、何?」
「大蛇は多くが子供だと聞くが……。だとすれば、悪党にしておくには、なかなかに勿体ない人材じゃ」
——悪党、か
大蛇を結成した理由は、悪党であるスサノオへの復讐だ。
だがその大蛇も、防人から見れば単なる悪党であった。
不思議な事ではない。
何度も防人から武器を盗んでいる。
何度も防人と刃を交えている。
それはもう、まごう事無き悪党である。




