3-11.奇襲する蛇
現在の大蛇では、幹部一人に平均して
三人から四人の部下がついている。
桜華のアジトには部下が四人所属する。
そこへ、防人が十人も迫っていると言うのだ。
「これ、防人の……ですよね?」
「うん。遅かったかな」
アジトの玄関をくぐると、
さっそく提灯の残骸が見られた。
単に落ちているのではなく、
刀で斬られた痕跡が見られる。
それすなわち、戦いが始まっている、
または、もう終わった事を意味する。
「……」
出来る限りの大急ぎかつ、
なるべく足音を立てないように内部へと進む。
特段大きな建築物ではないが、
今は屋敷のごとく、異様に広く感じられた。
「……居る」
部屋の前に到着。
聞こえるはずのない、大人の男たちの声が聞こえてきた。
「ここには五人居ると聞いたが」
「ああ。今のところ三人か」
「あとの二人はどこだ?」
──私たち以外は、もう
──こんな事ならっ!
最初から、小町の言うようにアジトに
居れば良かったものをと、桜華は後悔した。
──どうすれば……
いくら剣に自信があるとは言え、さすがに防人
十人を同時に相手するのは分が悪かろう。
妙な二つ名を自称する彼女とて、
現実が分からないほどの愚か者ではない。
「桜華さん、これ」
「ん?」
小声で何か提案をしてきた部下は、
手のひらサイズの煙玉を持っていた。
緊急時用にと、組織の何人かに配られたものである。
「そうだね、今が使い時か」
桜華は煙玉を受け取り、廊下に転がる提灯に
残った微かな火種を使って着火を試みる。
「いい? 私が合図したら突入、防人の足を狙うから、君は襟を引っ張って背中から倒しちゃって」
「分かりました」
自力で立ち上がれない状態にしてしまう作戦だ。
無事な者が仲間の介抱に入れば、
それはそれで狙い目である。
──よっし、着いた!
なんとか着火に成功。
火が本体に到達する
ギリギリまで耐え、部屋に投げ込んだ。
「ん?」
「なんだ⁈」
「くそっ、煙幕だ!」
防人たちの驚く声を聞き、
「行くよ!」
部下に合図を送った。
──まず一人!
──二人!
──三人!
障子のそばに居た三人を無力化。
目論見通り、自ずから立って
反撃するのは困難そうであった。
──四、五、六!
捕縛された部下を監視していた三人を、さらに無力化。
彼らもまた後ろに倒される。
十人と言う情報が正確なら、
あっという間に過半数を撃破したことになる。
「なんだ、何事だ⁈」
隣の部屋を捜索していた二人の防人が、
異常を察知して現れた。
煙幕。
倒れる防人仲間。
ただ事ではないぞと、真剣を抜く。
しかし、やる気になった桜華を
前にしてそれでは、余りに遅すぎた。
「はあっ!」
「うぐっ⁈」
──七人
「ぐあああっ⁈」
──八人!
──あと二人!
「桜華さん、もう煙幕が!」
「分かってる!」
頼もしき目眩しが限界を迎えつつある。
──残りはどこ?
周辺を警戒しつつ、部下を解放していく。
体に巻きついた縄を刀で少しずつ削り切る。
口を塞ぐ捻り布も解く。
「ごめん、私、不在にしてばっかりで」
「いえ! それより、防人は全部で十人です。あと二人、何処かに──」
「動くな、ガキんちょども!」
──っ!
「んん! んんん!」
静止を促す声。
見ると、共に突撃した部下が捕まっていた。
防人の大男に両腕を鷲掴みにされたうえ、布で口を塞がれ、
刀を喉に近付ける事で反撃を抑止されている。




